第693話
「フィアナさんとアノスさんは大丈夫ですかね?」
「……ノエル、どの口で言うんだ?」
ジーク達は森の案内と言う事でゴブリン族の青年1人と合流して森の中を進む。
ジーク達が集落から離れると言う事でゼイも同行すると言ったのだが、人族と魔族の通訳ができる者が限られているため、集落に残って貰っている。
ノエルは集落に残してきたフィアナの事を心配しているようで不安そうに言うが、元々はノエルとフィアナの暴走から始まった事であり、ジークは大きく肩を落とす。
「う……すいません」
「ジーク、それくらいにしときなさいよ。ノエルだって反省しているでしょ」
「わかっているよ。だけど、急がないといけないな。準備している途中に転移魔法で部隊が移動してきて集落が襲われたら元も子もないからな」
ノエルは自分に原因がある事は理会しているようで申し訳なさそうにうつむくとフィーナは彼女の味方をする。
ジークもフィアナが魔族へと好意的な意見を持ってくれた事を喜ばしく思っているため、そのきっかけになった恋愛談義を責める事はできない。
そのため、切り替えろと言いたいのかノエルに微笑みかけると先を急ごうと言い、ノエルは大きく頷いた。
「それじゃあ、行きましょう。ジークも言った通り、これを設置している間に後ろに転移魔法で敵が現れたらイヤだし」
「一応はそんな事にはならないと思うけどな。カインは転移魔法の転移先もある程度の予測しているみたいだし、設置している場所でばったりなんて事にはならないだろ」
「転移魔法のマーキング先の予測ですよね。どうやったら、そんな事ができるんでしょうか?」
フィーナは心配事もあるようで2人を急かすとジークはカインから転移してくると予想される場所と魔導機器を設置してくる場所は違う事を話す。
ノエルはカインがジークに渡した魔導機器に疑問を抱いているようで首を捻っており、魔法に詳しくないジークとフィーナは考えても仕方のない事とも思っているものの、この魔導機器に裏がある可能性は否定できないため、眉間にしわを寄せた。
「……本当に転移魔法の移動先を変更できるかも嘘くさいわね。後、移動先がわかるっているのも」
「それでも、シーマさんの転移魔法を予想していたし、どうやっているかはわからないけどな」
「そうかも知れないけど……」
フィーナはカインの目的に疑問を抱いてきたようでカインがどこまで真実を話しているのかと首を捻る。
ジークは以前にカインが転移魔法の移動先を予測しているのを自分の目で見ているため、信じる価値はあると言う。
しかし、フィーナはカインを信用しきれないようで首を捻っており、彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべた。
「それにこいつは以前から研究されていた事だって言っていたし、研究が進んでいるかは謎だけどな」
「カインさん、魔術学園にあんまり顔を出してないんですけど、どうやって研究を続けているんですかね? フォルムではそんな事をしているような様子は有りませんでしたけど」
「いや、アイツの事だから、俺達の知らない所でセスさんに仕事を押し付けて、学園に戻ってそうだ」
ジークは渡された5つの魔導機器を手に首を捻る。
普通に考えれば、カインが領主になり、魔術学園を離れた事で研究はとん挫しているはずであり、研究途中だったものが完成しているのはおかしい。
ノエルはフォルムでのカインを思い出して首を捻るが、ひょうひょうとした様子で転移魔法を使ってフォルムを抜け出している姿が目に浮かび、ジークとフィーナは眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、早く設置して集落に戻ろう。いろいろと心配な事もあるからな」
「そうね。戻れば裏切り者からまた何か情報も聞けているだろうし」
「それもあるけど、ゼイが飽きて、勝手に動き回りそうだからな」
気持ちを切り替えるためにも、作業を早く終えてしまおうと思ったジークは先を急ごうと言う。
フィーナは裏切り者を捕まえた事もあるため、相手の内情も聞けているのではないかと思い大きく頷くが、ジークの心配は彼のよく知るゴブリン族の少女ゼイの事であり、彼女の名前にノエルとフィーナは微妙にありそうだと考えたようで顔を見合わせた後、小さく肩を落とした。
その時、同行していたゴブリン族の青年が1カ所目の目的地に着いたととジーク達に声をかける。
「ここか?」
「ジーク、これ、どこに設置するの?」
「えーと、一応、カインが使い魔で設置する場所に印をつけてきたって言っていたけど……どこにあるんだよ?」
ゴブリン族の青年の言葉にジークは返事を擦ると周囲を見回す。
フィーナはジークの手から魔導機器を1つ取ると薄暗い森の中でわずかに差し込む日の光に魔導機器をすかしながら聞く。
ジークはカインから設置場所の指示は出ているため、その場所を探すが簡単に見つからないようで眉間にしわを寄せた。
「ノエル、魔法陣を書くならやっぱり地面よね?」
「そうだとは思いますけど、地面だと消されてしまう可能性もありますし、でも、魔導機器を使って魔力で魔法陣を書くなら、地面ではなくても良いと思います」
「……結構、足跡があるわね。獣道なの? こんな所に魔導機器を置いたら、蹴っ飛ばされるんじゃないの?」
フィーナはジークの手伝いをしよう思ったようで地面を見るが印らしいものは見つからない。
魔導機器を使用しての魔法陣のため、ノエルは地面である必要性はないと思ったようで周囲の木々を探す。
フィーナは地面を眺めていると人族とも魔族とも言えない獣の足跡は多くあり、この場所に魔導機器を置くのは危ないと思ったようで首を捻った。
「確かにフィーナが言う事にも納得できるな。そうなるとノエルの言う通り、木の上か?」
「……それはそれで、ノエルが魔導機器に魔力を流し込めるの?」
「それは……大丈夫だろ。ノエルは魔法の発動とかずらせるし、とりあえず、見てくるか? フィーナ、警戒よろしく」
フィーナが考え付く事などカインが忘れているわけはないと思ったジークは木の上を見上げる。
フィーナはノエルの運動神経の無さを思い出して眉間にしわを寄せるとノエルは木の上になど登れないと理解できているようで申し訳なさそうに首を横に振った。
ノエルの様子にジークは眉間にしわを寄せるが、方法には心当たりがあったようで自己完結させると身近な木を登って行く。