第686話
「ジーク、解毒」
「……だから、毒じゃない」
「貴様は何をするつもりだ?」
2本目の栄養剤の半分を飲まされた時、捕虜は白目をむいて泡を吹き始める。
その様子にカインは楽しそうに笑ってジークに指示を出し、ジークは大きく肩を落とすとカインの持っている栄養剤を取り上げると気を失った捕虜に近づく。
アノスはジークの姿にイヤな予感がしたようで眉間にしわを寄せた。
「これは栄養剤であって、気付け薬の役割もあるんだよ」
「気を失ったものにさらに鞭を打つか……ジークもやるね」
ジークは気を失った捕虜を支えると半開きになっている口に栄養剤を流し込む。
口の中に広がった栄養剤は途切れた意識を無理やり覚醒させると捕虜は栄養剤を吐き出そうとするが、ジークは許す事はない。
意識を刈り取って起きながら、同じもので意識を取り戻させると言う荒業にカインは楽しそうに笑うが、目の前で同じ立場の人間が生死の境をさまよっているのを見てもう1人の捕虜の顔は恐怖で青白くなっている。
「だから、栄養剤だ」
「……栄養剤と言う分類にして良いのか?」
「間違いなく栄養剤だ」
ジークはため息を吐くとカインに再び、場所を譲る。
しかし、アノスは見れば見るほど栄養剤として良いのかわからないようで眉間に深いしわを寄せた。
ジークは納得がいかなさそうな表情をしているが捕虜だけではなく、兵士達の顔を青白くなってきている様子に少し自信がなくなってきたようで肩を落とす。
「意識も戻ったようだし、もう1度、聞こうかな? おかわりいるよね?」
「……カイン、少し質問が変わっているぞ」
「そうでした。そろそろ、本当の事を話してくれないかな? どれだけ、こちらの情報を流して貰っているかわからないけど、俺は転移魔法でワームは王都にも飛べるんだ。ジークがこれから栄養剤を増量する方法だっていくらでもあるからね」
カインのずれた質問にレギアスは大きく肩を落とすとカインは机に並べられている栄養剤が亡くなっただけでは終わらないと笑う。
その恐怖に捕虜2人はガタガタと身体を震わせるとこれ以上の抵抗は無理と判断したようで小さく頷いた。
「そう? それじゃあ、これだけ口の堅かった捕虜2人の相手をして疲れたみんなも労わないとね」
「……貴様、無差別に兵を殺す気か?」
「……もう良い」
カインは使いかけの栄養剤を机の上に置くと新しい栄養剤を手に取り口元を緩ませる。
アノスはカインの思惑はわからないようだが、良からぬ事を考えているの事は容易に想像が付き、視線を鋭くして言う。
兵士達はアノスの意見に賛成だと言いたいのか大きく頷き、カインから距離を取ると栄養剤だと信じて貰えないジークは自信がなくなってきたのか力なく笑った。
「本当に労うつもりなんだけど、これは同じ瓶に入っているけど、味はまともなやつだし」
「……嘘を言うな」
「本当だって、何なら、飲んで見せようか?」
カインはジークが落ち込んでいる事など気にする事無く、不味い栄養剤ではないと説明する。
アノスは信じる理由がないため、嘘だと言い切るとカインはため息を吐いた後、飲んで見せると言う。
その言葉にアノスと兵士達はざわつき始め、兵士達は騎士の仕事だと言いたいのかアノスの背中を押す。
「良し、それなら、飲んでみろ」
「警戒しなくても良いのに……ね。大丈夫だろ?」
「……」
アノスはおかしな連帯感が兵士達とでき始めており、小さく頷くとカインに栄養剤を飲むように言う。
カインは瓶の蓋をあけると腰に手を当てて、一気に栄養剤を飲みほし、笑顔を見せるがアノスはまだ疑っているようで警戒を緩める事はない。
「飲んだのに、誰も信じてくれないなんて寂しいね」
「貴様が胡散臭いのが悪いのだろう?」
「そうかも知れないけどね」
カインはアノスからの疑いの視線にわざとらしく泣いたふりをして見せる。
その態度はわざとらしくアノスはこれまでのカインの悪事の問題だと言い切った。
アノスは苦笑いを浮かべた後、兵士達も同じ考えか尋ねるようにわざとらしいくらいの不安げな表情で1人1人の顔を見て行く。
その目に負けてしまった兵士の1人が手を上げて栄養剤を手に取ろうとするが、どれが安全な物かわからないため、不安げな表情でカインを見る。
カインは信じてくれた事を大袈裟に喜んでみせると栄養剤を手に取り、その兵士に渡す。
兵士はカインの喜びように苦笑いを浮かべた後、それが罠とも知らずに栄養剤の蓋をあけて口をつけた。
それでもカインの事を信じていなかったのか一口だけつけると下に広がるまずさにすぐに口から栄養剤を放そうとする。
しかし、すでにカインは次の行動に移っており、彼の背後に回ると手を押さえつけ、無理やり、栄養剤を口の中に流し込む。
その様子に何が起きたかわからずにアノスと兵士達は一瞬、固まってしまい、兵士を助け出す事はできない。
「貴様、何をしているんだ!!」
「何って、裏切り者への制裁?」
「……だから、疑問形でこっちに話を振るな」
助けが遅れた事で栄養剤を無理やり飲まされた兵士は泡を吹き、気を失った。
カインがその身体を支えた時、アノスは正気を取り戻したようで声を上げてカインに詰め寄るがカインは楽しそうに笑い、ジークに視線を向ける。
ジークは大きく肩を落とすと自分よりレギアスが説明した方が良いと思ったようでレギアスに視線を向け、レギアスも状況を理解したようで大きく頷いた。
「落ち着け。どうやらそのものがこの者達と繋がっていた者のようだ。カイン、ジーク、そう言う事だな?」
「はい……」
「カイン、どうかしたのか? 様子がおかしいぞ」
レギアスはカインに栄養剤を飲ませられた兵士が裏切り者かと確認するとカインは頷くが、カインの様子は少しおかしくレギアスは首を捻る。
「……ジーク、こいつを縄で縛って逃げられないようにしてくれ。俺は限界」
「……身体を張って、罠を仕掛けてあの毒を飲むだと?」
カインはジークに兵士を渡すと顔に出さないようにしていた物の限界が来たようで膝から崩れ落ちて行く。
その様子にアノスはあの不味さを精神力で抑え込んだカインが信じられないようで眉間に深いしわを寄せた。
「とりあえず、捕虜への質問は本職に任せても良いのかな?」
「そうだな。他の兵士達の中にも裏切り者が紛れ込んでいないかしっかりと情報を聞き出してくれ」
ジークは兵士を縛り付けた後、カインの身体を支えると質問は兵士達に任せるのかと聞く。
レギアスは兵士達に指示を出すと身体を張ったカインへの畏怖もあるのか、レギアスの言葉に任せて欲しいと兵士達は大きく頷いた。