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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ジーク=フィリス
685/953

第685話

「……何か話したか?」


捕虜への質問を受け持っている兵士の1人にレギアスは進展があったかと尋ねると兵士は首を横に振る。

兵士は進展がない事に申し訳なさそうに目を伏せるとレギアスの後ろにいるアノスを見て緊張した面持ちに変わって行く。


「アノス、何かしたのか?」


「何もしたつもりはない。ただ、捕虜に対する扱いがずいぶんと生ぬるいようだな。扱いがぬるいからこいつらが調子に乗るんだ」


「止めんか」


ジークは兵士の様子に首を傾げてアノスに聞く。

捕虜に対する質問は口頭での聞き取りだけのようで捕虜は捕まっている立場にも関わらず、兵士を見下しているように見え、アノスは立場をわからせるべきだと思ったのか剣を抜いた。

アノスの様子に兵士達はすぐに彼を取り押さえるとレギアスは落ち着くように言う。

アノスは剣を鞘に戻すが、捕虜の扱い方には不満のようで不機嫌そうに後ろに下がり、部屋の入り口に立つ。

それはこの部屋に裏切り者がいる可能性があるため、行動のすべてを注意するつもりのようである。


「……良いのか?」


「アノスなりに考えた結果だろ。それじゃあ、始めようか?」


アノスの視線は高圧的であり、兵士達は面倒だと言いたいのか顔を合わせると小さくため息を吐く。

ジークは部屋の中に広がった妙な緊張感に小さくため息を吐くとカインにどうにかするように言う。

しかし、カインはアノスの行動に別に何かを言うつもりはないようで先ほどジークから受け取った栄養剤を手に口元を緩ませた。

兵士達は栄養剤を見てざわめくが、自分達も同じ質問方法を使っているため、それでは何も聞き出せないと声が上がり始める。

そんななか、ジークの栄養剤を見て捕虜の顔がわずかに歪む、その変化をカインは見逃す事はなく、推測は確信に変わったようで小さく口元を緩ませた。


「あれ? これをさっきは美味いって言ったらしいじゃないか? 魔族の集落の監視は大変だっただろ。保存食ばかりじゃ栄養も偏るだろうし、高名なアリア=フィリスの直孫のジークの栄養剤だ。効能も不味さにも定評があるぞ」


「……と言うか、あれは栄養剤じゃないだろ」


カインは楽しそうに捕虜の1人の顔をつかむと楽しそうに笑う。

アノスは眉間にしわを寄せながら、栄養剤ではないとため息を吐き、ジークは納得がいかなそうな表情をしているが今は黙っている方が良いと考えて口をつぐむとアノスの隣に並ぶ。


「さっきは美味いって言ったんだ。おかわりだよ」


「……あいつは人を苦しめる時はずいぶんと楽しそうだな」


「性格が悪いからな」


捕虜の口を無理やり開けると捕虜の顔には焦りの表情が見える。

その表情から見ても、ジークの栄養剤の本当の味を聞かされている事が見て取れた。

アノスは眉間にしわを寄せ、カインの性格の悪さを再認識したと言葉を漏らし、ジークは小さくため息を吐く。

ジークのため息と同時に栄養剤は捕虜の口の中に注がれる。


口の中に広がる栄養剤の味に捕虜はむせ返り、すぐに吐き出そうとするがカインがそれを許す事はない。

無理やり胃の中に流し込むと捕虜は何とか意識を保ったようであり、カインを睨み付けるが目の光は弱々しい。


「ずいぶんと顔色が悪いね。栄養が不足しているんだろうし、もっと飲むよね?」


「……致死量を超えるぞ」


「だから、栄養剤だ」


カインは捕虜の視線を鼻で笑うとジークに向かって手を出した。

これ以上は飲ませてはいけない量だと思ったようでアノスは眉間にしわを寄せるが、ジークは毒扱いに納得が言っていない様子だがカインにもう1本栄養剤を渡すとすぐそばに有った机の上に栄養剤を並べて行く。


「……何本持っているんだ?」


「いや、今回は野営だなんだってなれない奴もいるから、多めに持ってきたんだ」


「……この部隊をつぶす気なのは貴様ではないのか?」


机に並べられていく栄養剤にアノスの眉間のしわはさらに深くなる。

ジークは必要だと思って持ってきたと言うが、アノスにはこの部隊や魔族達を狙っている者達より、ジークの方が危険だと思ったようで疑いの視線を向けた。

アノスの視線に言いがかりだと言いたげにジークはため息を吐くと次のカインの作戦を見守る。


「それじゃあ、何本目まで行けるかな?」


「カイン、飲ませるのはもう2人いるからな」


「そうだね。とりあえず、ずいぶんと口が堅そうだけど」


カインは再度、捕虜の口を無理やり開けさせて楽しそうに笑う。

ジークは彼の楽しそうな姿に全部使い切るなとため息を吐くが、この部屋にいる裏切り者への警告を混ぜている。

人数はもう1人の捕虜とこの部屋にいるであろうギムレットの手の者が最低1人いるとわかっていると言うはったりであり、反応を伺う。

カインはすぐにジークの思惑を理解し返事をすると小さく身体を強張らせる若い兵士を見つけたようでジークに目で指示を出す。

その視線にジークは気が付くが表情に出す事無く、アノスの隣に戻る。


「……アノス、何かあった時のレギアス様の警護を任せて良いか?」


「見つけたのか? それなら、すぐにでも捕まえて同じようにあの毒を飲ませれば良いだろう」


「……1人とは限らないからだろ。ここには1人しかいないかも知れないけど、アイツに指示を出しているヤツがいる可能性だって充分に考えられるからな。後、あんまり睨み付けるな。威嚇し過ぎだ」


ジークはこの部屋にいる他の人間に聞こえないように裏切り者がレギアスを人質にする事も考えられるため、アノスに彼の事を頼む。

その言葉でアノスは自分が見つけられない裏切り者をジークやカインが見つけた事に対抗心を燃やし始めて鋭い視線で兵士達を睨み付ける。

ジークとカインは裏切り者を泳がせるつもりのようであり、アノスに落ち着くように言う。


「それじゃあ、行こうか? ずいぶんと口が堅いみたいだけど、言っておくよ。最後まで雇い主の味方をするつもりがないなら、先にこっちに付いた方が身のためだよ……まだ死にたくないだろう?」


「……ああいうあくどい事をさせると敵う者は居なさそうだな」


「そう思いたいな」


カインは捕虜の耳元で死ぬ覚悟はあるのかと聞く。

その様子にアノスはどこかでカインの相手はしたくないと思ってしまったようで眉間に深いしわを寄せてつぶやいた。

ジークは同感のようだが先ほどの2人の時にカインの表情の変化を見ている事もあり、歯切れの悪い返事をする。


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