第683話
「……拡大してるのかよ」
「ジーク、あれは何? なんで、恋愛話になってるわけ?」
「いろいろと有ったんだよ。それより、遊んでいる人間がいるんだ。働かないといけないだろ」
ジークとカインがフィーナとレギアスと合流しようと集落の中を移動していると視界には人だかりが見えた。
人だかりは先ほどまでノエルとフィアナがアノスに絡んでいた場所で有り、人族の伴侶のいる人族や魔族が入り乱れて、若い者達に結婚についてや当時ののろけ話をしている。
聞こえてくる話し声の内容を理解できるカインは状況が理解できずに首を傾げてジークに聞く。
ジークは答えるのにも疲れたようで大きく肩を落とし、先に進もうと言う。
「それはそうだね。それに内容を聞いてると……いろいろと聞かれそうだ」
「そうだな……ノエル、おかしな事を話してないよな?」
「付き合いだした時のバカップル時代の時とか?」
カインは内容が聞こえてくるため、下手に踏み込むとセスとの話を根掘り葉掘り聞かれそうだと思ったようでため息を吐くとジークの言葉に従う。
自分の恋愛話を嬉々として話す気になれないジークは彼女であるノエルが余計な事を言っていないか心配になったようで眉間にしわを寄せる。
カインはジークとノエルが付き合い始めて浮かれまくっていた時の事を思い出したようで苦笑いを浮かべるとジークの眉間のしわはさらに深くなって行く。
「……言わないでくれ」
「そうだね。ただ、問題はノエルが口を滑らせないかだね。当時の話は仕方ないとしても、そっちはこの場でばれると大問題だろ」
「まったくだ」
熱くなっているノエルがジークとの出会いを語り、自分がドレイクである事まで話してしまう可能性が考えられ、ジークとカインは止めるべきかと言う考えが頭をよぎる。
しかし、2人ともあの中に入る気は起きないようで顔を見合わせるとフィーナとレギアスに合流しようと歩き出そうと足を踏み出した。
「……待て」
「アノス? 脱出してきたのか?」
「貴様、俺を見捨てたな」
その時、ノエル達が完全なおかしな方向に熱くなっている様子に何とかスキを見つけて脱出してきたようでアノスがジークの肩をつかむ。
彼の登場にジークは驚いたような表情をするが、アノスから見ればジークが自分を見捨てたとしか思えず、怒りの形相をしている。
「見捨てたも何も俺は忙しいんだよ。おっさんが遊んでいるからな。水の確認だってしないといけないし」
「そうだね。隊長の相手をするのも部下の役目じゃないかな?」
「それはそうだが……あのノエルと言う娘はお前の管轄だろう? いろいろと聞かせて貰ったぞ」
アノスの怒りをジークはさらりとかわそうとするとカインも遊んでいる時間もないため、彼をフォローする。
カイン言葉にアノスはなぜラースを師事したのか疑問に思ってしまったようで眉間に深いしわを寄せるが、すぐに問題をすり替えられていると気が付いたようで人だかりの中心に居るであろうノエルを指差して言う。
その言葉からジークが話して欲しくなかったであろう話もノエルはぺらぺらと話していた事がわかり、ジークは大きく肩を落とす。
ジークがダメージを受けている姿はをアノスは初めて見たためか、少しだけ気が晴れたようで口元を緩ませた。
「ジーク、落ち込んでないで行くよ」
「……お前は被害がないから良いよな」
「いや、あの中にゼイが混じったりしてきたら、フォルムでのセスの事を話されそうだ」
ジークは恨めしそうな視線をカインに向ける。
カインは苦笑いを浮かべるものの、神出鬼没のゼイとはフォルムでセスといちゃついている時に何度も遭遇しているようでどこから話が漏れるかわからない恐怖があるようで眉間にしわを寄せた。
「……ゼイ、侮れないな」
「カイン=クローク、貴様にも苦手な物があるとはな」
「それはそうだよ。苦手な物があるから、誰かに手伝って貰わなければいけないからね」
その様子から彼がゼイを苦手にしている事は明らかであり、アノスの表情は少しずつ緩んで行く。
カインは否定する事はなく、苦手なところは他の人間に任せると言い切った。
それは全てを自分でやろうとしているアノスには理解しがたい事のようで緩んでいたはずの口元はすぐにきつく閉められてしまう。
「若いね」
「……お前もそんなに変わらないだろ。それより、行くぞ。あそこに人が集まっていると動きたい放題だからな」
アノスの表情の変化にカインは彼の成長の可能性を見たのか楽しそうに笑う。
年代的にはアノスもジークやレインと同じ年であり、カインともさほど変わらない。
ジークはカインの言葉にため息を吐くと速くこの場を離れようと言う。
カインは頷き、2人で歩き出すとアノスは2人がまたおかしな事をすると考えているのか後をついてくる。
「……良いのか?」
「良いんじゃない。性格的にスパイとか許せないだろうしね。味方だと思って良いと思うよ」
「なら、着く前に話した方が良いんじゃないのか?」
アノスにスパイの事をばれるのは問題があるのではないかと思ったジークはカインとの距離を縮めて聞く。
カインはアノスを味方と分類しているようで問題ないと笑い、ジークは情報の共有をするべきだと考えたようでカインに意見を求める。
「話を聞かれているかも知れないからね。レギアス様と合流してから、また魔法を使うから」
「……さっきの魔法は無駄だったんじゃないのか?」
「そうでもないよ」
カインは何度も同じ説明するのは面倒だと言いたいようで首を横に振る。
その言葉でジークは先ほどの結界魔法は無駄だと眉間にしわを寄せるが、カインはまた何か企んでいるのか口元を緩ませており、彼の様子にまたろくでもない事を企んでいると思ったジークは肩を落とす。
「アノス、後ろを歩いてないで来いよ。見張られているみたいで息苦しい」
「……何を企んでいる?」
「俺は何も企んでない。ただ、カインがまたろくでもない事を考えているから、被害者が欲しい。それにおっさんがあれなんだ。仕事してくれるんだろ?」
背後からの突き刺さる視線に居心地が悪くなったジークはアノスを呼ぶ。
しかし、アノスはジークが何か裏があって自分を呼んでいると思ったようで疑いの視線を向けた。
ジークは言いがかりだと言いたいのか大きく肩を落とすと2人を見てカインは楽しそうに口元を緩ませる。