第682話
「カインは……まだ、集中しているのか? それなら後でまた来るかな?」
カインを尋ねたジークだが、カインはまだ目を閉じて集中している。
その様子にジークは頭をかくと他の様子を見てこようと言う考えが頭をよぎった。
「……ジーク?」
「お、タイミングが良かったのか?」
「どうかした?」
その時、カインが目を開き、ジークと目が合う。
ジークは苦笑いを浮かべるとカインはまだ使い魔で見てきた物をまとめあげるのに時間がかかるのがぼーっとしているように見える。
「何かあったか? いつもと違うような気がするけど」
「……今回は見る場所が固定じゃないからね。少し情報の整理に時間がかかるんだ。使い魔が見て聞いたものすべてが頭の中に入ってくるからね。固定した場所じゃなく、周囲を警戒しながらだから、頭に入ってくる情報が多すぎるんだよ」
「俺には無理だな」
いつもカインは使い魔を動かしながら他の事をやっているびだが、今のカインはいつもと異なるように見え、ジークは首を傾げた。
カインは大量に手に入れた映像や音声から必要な情報だけを取り出そうとしているようだが、情報量が多すぎるようで目を閉じ考え込んでいる。
話を聞くだけでも混乱しそうだと思ったようでジークはため息を吐くとカインが落ち着くまで待とうと決めたようで口を閉じた。
「それで俺に何か用かい?」
「いや、森の中の様子はどうだったかな? と思ってさ。俺達が捕まえた奴らからはあまり良い情報が取れていないみたいで、カインの方は何かわかったかと思ったんだよ」
「……ないよ」
カインは落ち着いたようでジークにこの建物を訪れた理由を聞く。
ジークは情報収集のためだと言うとカインは欲しい情報を得られなかったのか難しい表情をしている。
「ないって割には納得がいかなさそうだな」
「……何もないって事は、仕掛ける場所はこっちじゃない可能性が高いって事だよ」
「狙いはワームのシュミット様って事か? それなら、転移魔法でワームに戻るか?」
何もないと聞き、ジークは安心したのか胸をなで下ろすがカインの表情が険しいのが気になったようで首を捻った。
カインはギムレットが狙っているのはこの集落より、ワームの方を狙っている可能性を示唆するとジークはワームに戻った方が良いと思ったようで首を捻る。
ジークの言葉にカインは表情を険しくしたまま何かを考え込んでいる。
それはギムレットを相手に対策は立てているものの後手に回っている気がしているようにも見え、ジークは彼の様子に言葉をかけて良いものか悩んでいるのか頭をかいた。
「ワームに戻らないといけないんだけど……ただ、それを今のタイミングでやるのはあまり得策ではないんだよね」
「得策じゃない?」
カインは遅れて返事をするものの、何かあるのかその表情は優れないままで有り、ジークは首を捻るとカインは人差し指を自分の口元にあてた。
それはしばらくの間、言葉を発さないようにと言う指示であり、ジークは小さく頷く。
ジークが頷いたのを見て、カインは小さな声で魔法の詠唱を始める。
魔法の詠唱が始まるとジークとカインの足元には魔法陣が描かれて行き、小さな光の柱が2人を包み込む。
「これで良いね」
「これってこの間の冷気の結界魔法と同じようなもんか? 結界魔法って、魔力を無駄に使うんじゃないのか?」
「魔力は使うけどいろいろとやりやすいからね……それに転移魔法でここから離れて何かあっても困るからね」
魔法は無事に発動したようでカインは少し表情を和らげる。
ジークはこの魔法に似た魔法を以前にも見ているため、その時に効率が悪いような事を言っていた事を思い出して首を捻った。
カインに苦笑いを浮かべるがすぐに表情を引き締めると転移魔法でこの場所を動くわけにはいかないようで小さくため息を吐く。
「何が有ったんだよ?」
「最初に言っておくよ。この結界は魔法でこの建物の様子をうかがっている人間の目を欺くためのものだよ」
「……見張られていたのかよ」
カインは話をする前にジークに魔法を使った意図を話しておいた方が良いと思ったようで結界魔法の効果を簡単に説明する。
その言葉にジークはきょろきょろと建物の中を見回すが特に何も見つからないようで眉間にしわを寄せた。
「だね。元々、兵士の中にスパイがいると考えてはいたからね。ジークは人族や魔族の視線にはよく気が付くけど、使い魔とかの魔力感知は苦手だろ?」
「それは……上手くできればお前の使い魔に頭を刺されないよ」
「まぁ、そのおかげでいろいろと助かってはいるんだけどね」
カインはジークの苦手分野の話をすると、ジークはカインの使い魔に気が付けない事で受けた様々な被害を思い出したようで頭をさする。
その様子にカインは苦笑いを浮かべるが、それはジークが次のステップに進むための課題とも言えた。
「と言うか、スパイがいて良いのかよ?」
「ラース様もレギアス様もいて当たり前だと思っているだろうね」
「……それならそうと言って置いて欲しかった」
カインが自分の成長のために話をしている事を理解できたようでジークは話を戻そうとする。
シュミットの代理である2人はスパイがいる事を理解した上で動いているとカインが答えるとジークは納得ができないのか眉間にしわを寄せた。
「ジークに話すとノエル達にも伝わるからね。ノエルとフィアナは挙動不審になるだろうし、フィーナは無駄に周囲を威嚇しそうだからね」
「……反論の余地が見つからない」
カインは隠し事が向かないメンバーがいるため、秘密にしていたんだろうと言う。
その言葉にジークは聞かされた時の3人の姿が目に浮かんだようで大きく肩を落とす。
「と言う事でジークにも秘密にしていたんだよ」
「一先ず、納得はするけど……裏切っている奴に心当たりはあるのか?」
「基本的にはラース様に昔から付き従っていた人間は外して良いと思うけど、探すのは難しいね。何か変わった事があれば良いんだけど」
裏切り者がいる上でワームに戻るのは危険とカインが判断している事がわかり、ジークは裏切り者をどうにかしたいようで眉間にしわを寄せた。
カインは1日に一緒に過ごした事でおかしな行動をしていた人間はいなかったかと聞く。
「俺は初対面の奴が多いから、誰が怪しいかなんかわからないぞ……あ、そう言えば、変わった事にして良いかわからないけど、捕まえて情報を聞いているうちの2人が俺の栄養剤を美味いと言った」
「……捕縛されていたと言う事実から味覚がストレスでおかしくなったかな?」
「やっぱりそうかな?」
ジークは兵士達の性格を理解しきれていないため、難しいとため息を吐くとおかしな事と言う事で栄養剤を飲み切った人間がいたと話をする。
カインは眉間にくっきりとしたしわを寄せながら、捕まえた人間の精神状態を心配するように言うとジークは苦笑いを浮かべた。
「冗談だよ。その栄養剤は本当にジークの栄養剤?」
「ああ、おっさんに渡したヤツを質問した兵士が飲ませたって言っていたからな……ん? 栄養剤の中味を入れ替えたヤツがいる?」
「可能性は否定できないね。と言う事で、美味いって言ったんだから、おかわり行ってみようか?」
捕縛した人間に質問していた兵士が栄養剤の中味を変えた可能性が考えられ、カインは楽しそうに口元を緩ませる。
その様子にジークは裏切り者をあぶり出すためには必要な事だと思ったようだが、相変わらずの栄養剤の別の利用法に大きく肩を落とした。