第68話
「ジーク、慌てる必要がないって、どう言う事よ!?」
「そのままだ。だいたい、人の店から、商品を盗んで行ってるんだ。せめて、使い方や効果を覚えて持って行けよ」
フィーナは妙に落ち着いているジークの様子に声を張り上げるが、ジークはもう1度、呆れたようなため息を吐き、商品が入ったカバンから1つの道具を取り出す。
「ジークさん、何をするんですか?」
「ん? コウモリ避けだよ。鉱山だと住みつくからな。売れる商品の1つ」
ノエルはジークが落ち着いているため、少し落ち着いたようでジークが何をするのかと覗き込むとジークは取り出した道具をフィーナを囲んでいるコウモリに向かって放り投げた。
「な、何よ!?」
「良いから、黙ってろよ」
その道具は小さな炸裂音とともに光を発し、フィーナは何があったかわからずに声をあげるが、ジークはため息を吐くとコウモリは次々と地面に落ちて行く。
「どう言う事よ?」
「どう言う事じゃない。何も考えないで突っ走った結果だろ」
「ちょ、ちょっと、何するのよ!? それは私の荷物」
「元々、俺の店から盗んで行ったものだろ。文句を言うな」
フィーナは何が起きたかわからないようで首を傾げるが、ジークはコウモリを追い払う時にフィーナが落した彼女の荷物を物色する。
「ジークさん、何をするんですか?」
「何って、擦り傷くらいだけど、治療は必要だろ」
「ちょ、ちょっと、ジーク、痛いわよ!? もっと、優しくしなさいよ!?」
ノエルはジークが何をするつもりなのか、わからないようだがジークは傷薬を取り出し、粗雑にフィーナの顔に付いた傷に薬を塗り、フィーナはすぐ近くにジークの顔があるため、恥ずかしさもあるのか声を上げた。
「あ、あの。ジークさん、わたし、治癒魔法、使えますけど」
「……魔法は鉱山に着くまでに使うかも知れないから、魔力を無駄に使うのは止めよう」
「……ジーク、あんた、すっかり、忘れてたわね」
ノエルはジークがフィーナの治療をしている様子に治癒魔法を使おうかと聞くと、ジークはノエルが治癒魔法を使える事をすっかり忘れていたようで彼女から視線を逸らし、フィーナは呆れたような視線を向ける。
「うるさい。だいたい、お前が何も考えないで突っ走るから、こんな面倒な事になったんだろ。少しは反省するって事を覚えろ」
「うっさいわね。誰も助けてなんて言ってないでしょ!!」
ジークはフィーナに原因が文句を言う資格はないと言う。その言葉にフィーナはまた意地を張ったようでジークを怒鳴りつけた。
「あ、あの。フィーナさんも落ち着いてください。ジ。ジークさんも日が落ちる前に街道まで戻らないといけないんじゃないですか?」
「そうだな。フィーナに付き合って、森の中で野営は遠慮したいからな」
ノエルは相変わらずの2人の様子に苦笑いを浮かべて、仲裁に入るとジークはフィーナの治療を終えたようで立ち上がり、自分の荷物を持ち上げる。
「戻るぞ。さっさと準備しろよ」
「な、何よ。このまま、森を突っ切った方が速いでしょ」
「……言っておく、こっちは鉱山とは逆方向に進んでる。迷子になりたいなら、止めないが、俺もノエルも、好んで迷子になる人間の相手をする気はないぞ。ノエル、行くぞ」
「は、はい」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ。私も行くわよ!?」
フィーナはこのまま進んだ方が速いと主張するが、ジークは森の中でも自分達の位置を正確に認識しているようでフィーナがわがままを言うならおいて行くと言い切り、ノエルに声をかけて歩き出す。フィーナは慌てて自分の荷物を持ち上げると2人の後を追いかけて行く。