第679話
「で、俺の意見か? ノエルやフィーナはなんて言っていた?」
「あ……すいません。カインさんの前で聞けなくて、その、逃げてきました」
「そうか……仕方ないよな」
アノスとフィアナに距離を取らせるとジークは同じ意見を思っているノエルとフィーナの意見を聞いたか確認する。
フィアナはバツが悪そうに目を伏せてしまい、彼女の様子にジークはポリポリと首筋をかくと小さく頷いた。
「あの……それで」
「そうだな……別に特に話すような事もないんだけどな」
「……一先ずはお前が魔族と共存できると考えた理由を話してやれば良いだろ」
ジークは改めて話すと考えると何から話して良いかわからずに首を捻る。
アノスは理解できないと言いたいのか眉間にしわを寄せたままだが、このままでは時間の無駄のため、何か話せとジークに言う。
「……俺が思ったのは偶然だよ。たまたま、薬草を採りに行った先である遺跡に入った」
「遺跡ですか?」
「……話にまったく関係がなさそうなんだが」
ジークはノエルがドレイクだと言う事を伏せながら、遺跡の話を持ち出す。
しかし、多種族との共存と遺跡ではまったく共通するものが有るとは思えないようでフィアナとアノスは首を捻る。
「そこの遺跡に昔住んでいた人達は住処を追われた人達だったんだよ。肖像画があってさ。男性は人族で女性はドレイク族だった。絵では2人は幸せそうに笑っていたけど、遺跡の奥でしか暮らせなかったって考えると納得がいかなくてさ」
「愛し合っていたのに、周りからは認めて貰えなかったと言う事ですか……それは悲しいです」
「別に結婚は家同士の繋がり合いだろ。そこに愛だなんだと言うものは存在しない。それにその絵はただそう書かれていただけで、お前が思ったような事実ではないかも知れないではないか?」
自分とノエルの事は伏せながら、遺跡の主の話をするとフィアナは女の子のためか、2人に同情してしまったのか涙が頬を伝う。
アノスは騎士や貴族には結婚を割り切っているようで理解できないと鼻で笑うと絵が真実を告げているとは限らないと言い、ジークは頭をかくと困ったように笑った。
「ジークさん、まだ何かあるんですか?」
「そうだな。その遺跡に住んでいた男性は魔術師で遺跡には1つの仕掛けがしてあったんだ」
「仕掛けだと?」
フィアナは話にはまだ続きがあると思ったようでジークに詰め寄る。
ジークは距離をあけると遺跡について話そうとするが仕掛けと聞き、アノスは怪訝そうな表情をするとジークに首で続きを話すように促す。
「その遺跡には特別な仕掛けがしてあった。俺達人族だけでも魔族だけでも奥に進めないようになっていた」
「魔族と人族が一緒じゃないと進めないと言う事ですか? ジークさんはどうやって?」
「その遺跡でギド達に出会ったんだ。最初はお互いに偏見があったからな」
ジークは遺跡の中でギド達と出会った事を話すが、その時にギド達と戦った事を思い出したようで苦笑いを浮かべる。
彼の様子からジーク達とギド達の間で戦いになった事は見て取れ、フィアナとアノスはその後の話が気になるようで息を飲んだ。
「いや、俺は薬剤師なんで殺し合いは遠慮したいんで、戦況が有利に傾いた時に降伏勧告をした」
「降伏勧告? 良く話が通じたな」
「あ、でも、ギドさんは人族の言葉を使えますし」
ジークは期待されても困ると言いたげにため息を吐く。
アノスは何もない状況で人族であるジーク達とゴブリン族であるギド達に話し合いでの解決はあり得ないと思ったようで眉間にしわを寄せる。
フィアナは相手がギドだった事もあり、無事に終わったと思ったようで胸をなで下ろす。
「しかし、言葉が通じただけで魔族が話を聞き入れると思うか?」
「……いや、なんかノエルとゼイが気が合っちゃって」
「ゼイさん、好奇心旺盛ですからね」
降伏勧告が受け入れるとはどうしても考えられないアノスは眉間にしわを寄せたままであり、ノエルがドレイクだと言えないジークは視線を泳がせた。
フィアナは好奇心旺盛で何にでも興味を示すゼイがいた事が良い方向に繋がったと思ったようで納得できたのか苦笑いを浮かべる。
「後はなし崩しかな? 遺跡の奥には人族と魔族が一緒じゃないと進めなかったし、進んだ先に見えたのは報われなかった2人の想い……そう感じたのは俺達だけじゃなかったって事だ」
「……そうですね」
「……人族と魔族が結ばれるか?」
理解されなかった2人の想いに感化されてしまったと笑うジークだが、彼の中にはノエルとの未来に対する想いも含まれている。
フィアナはジークの想いには気が付かないものの、過去の2人に同情しているようで小さく頷くが、アノスはあまり共感できないようでくだらないと言いたげに鼻で笑う。
「アノスさん、どうしてそんな反応なんですか?」
「確かに多種族と結ばれる者も多くいたが……魔族とはないな」
「それは確かにそうかも知れませんけど……それだけじゃないはずです!!」
フィアナは種族を超えた愛情にすでに共存側に傾いてきているようであり、アノスへと非難するような視線を向ける。
アノスは人族と魔族では容姿が違いすぎるため、恋愛感情などわかないと言いたいようで首を横に振ると自分とは異なる形をしているゴブリン族とリザードマン族へと視線を向けた。
彼の言いたい事は少しわかったようでフィアナは1度、言葉を詰まらせるが年頃の少女であるフィアナの恋愛脳は別種族との禁断の恋と言うものに興味津々のようで拳を握り締めて叫ぶ。
「……おい」
「俺に言うな。それにゴブリン族やリザードマン族はわからないけど、人族と似た姿の魔族だっているだろ。それこそ、ドレイク族とかラミア族とかヴァンパイア族とかもしかしたらアノスだって、別種族に惹かれるかも知れないだろ」
「そんなもの、家名を守るための物だ。興味などない」
フィアナの変わりようにアノスはジークにどうにかするように言う。
ジークは自分に言われても困ると言いたいのか大きく肩を落とした後、多種族に恋愛感情を抱く事がアノスにだってある可能性があると言ってみるがアノスは興味などないと言いたいようである。
「そうか?」
「そんなのダメです!! 良いですか? 結婚と言うのは好きな相手と結ばれる事なんです。家のためとか、そう言うのではないんです」
「……攻守逆転だな」
ジークは苦笑いを浮かべるが、恋愛脳に火が付いたフィアナには結婚に対して淡白なアノスが我慢ならないようで彼につかみかかるように言う。
先ほどまでアノスに怯えていたように見えたフィアナは勢いづいているようでアノスに対する怯えはまったくなくなっており、逆にアノスの顔に戸惑いの色が浮かぶ。
2人の様子にジークは小さくため息を吐くと逃げるようにその場を離れようとする。
「貴様、逃げるな。この娘をどうにかしろ!!」
「いや、お前のおかしな方向に頭が固いところは、頭の中に恋愛事でも入れれば何か変わってくるんじゃないか?」
アノスは逃げようとするジークを見て、助けを求めるように声を上げた。
ジークはアノスに付いて回られる事に嫌気がさしているため、笑顔で彼を見捨てると2人を置いて一気に駆け出して行く。