第678話
「……」
「なんで、俺に突っかかってくるかな? フィアナ、1人で何をしているんだ?」
ジークが森から戻ってくると彼の後をアノスが付いて回る。
彼の様子にジークは大きく肩を落とすがアノスは返事をする事はない。
ジークはアノスをラースに押し付けようと思ったようで彼を探そうと集落をきょろきょろと見回すと1人で物思いにふけているフィアナを見つける。
「ジークさん、アノスさん?」
「戻ってきたんだな。ノエルとフィーナは一緒じゃないのか?」
「は、はい。ノエルさんとフィーナさんはカインさんと一緒です」
ジークの声にフィアナは顔を上げると目に映り、笑顔を見せようとするが考え事をしているせいか表情は硬い。
彼女の様子にジークはフィアナとノエル達に何かあったと思ったようで2人がどこにいるのかと聞く。
フィアナは大きく頷いた後、カインと2人が一緒だと話すとカインの名前を聞きたくないのか、アノスは顔を歪めた。
「アノスさん、どうかしたんですか?」
「……何もない」
「……いろいろと有ったんだよ。それでどうかしたのか?」
フィアナはアノスの様子に何かあったと思ったようで首を捻る。
質問された事でカインへ対する怒りがまたも湧き上がってきたようでこめかみにはぴくぴくと青筋が浮かび出す。
彼の様子にフィアナは自分がアノスの怒りを買ったと思ったようで助けを求めるような視線をジークに向けた。
フィアナは悪くないとジークは首を横に振ると彼女が1人でいた理由が気になったようで彼女の隣に座る。
彼女はジークがどのような考えを持っているか気になるようで質問をしようとするが言葉が続かないようで目で何かを訴えており、ジークは何を言って良いのかわからないようで困ったように苦笑いを浮かべた。
「あ、あの」
「別に遠慮しなくても良いぞ。まともにアドバイスできるかはわからないけど、話すだけで楽になる時もあるからな。待っているから、話をまとめてくれ」
「は、はい……すいません。あの、アノスさんも相談に乗って貰っていただいても良いでしょうか?」
フィアナの様子からジークは聞きたい事がまとまるまで時間がかかると判断したようでゆっくりと考えて良いと言う。
彼の言葉に安心したのかフィアナは胸をなで下ろした後、アノスの意見も聞きたいのか遠慮がちに聞く。
自分に話を振られるとは思っていなかったのかアノスは少し驚いたような表情をするも、ジークが相談に乗って、自分が乗れないのは我慢ならないようでジークを睨み付けた後、小さく頷いた。
「……絡まないで欲しい」
「す、すいません」
「フィアナのせいじゃない……むしろ、こっちこそ、すまないな。きっと、カインがまた、面倒な事でも言ったんだろ」
アノスからの突き刺さる視線にジークは大きく肩を落とし、フィアナは自分が原因だと考えているようでジークに向かって深々と頭を下げる。
申し訳なさそうな彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべるとフィアナが1人物思いにふけっていた原因はカインにあると判断したようで小さくため息を漏らす。
「カインさんは悪くないです……私に勇気がないから悪いんです」
「勇気? ……まさか、カイン相手に? ダメだ。カインにはセスさんがいる」
「……あの性悪は止めて置け。苦労するのが目に見えているぞ」
フィアナは首を横に振った後、不甲斐ない自分の問題だと力なく笑う。
その様子にジークとアノスはおかしな考えが頭をよぎってしまったようであり、ジークは眉間に深いしわを寄せ、アノスは早まるなと彼女の両肩に手を置いて言う。
「あ、あの。そう言う話じゃないです。それに私もカインさんにはセスさんがお似合いだと思っていますから」
「それは良かった」
「お2人の中ではカインさんはどういう位置づけなんですか? ……いえ、この話は後で良いです」
2人の勘違いにフィアナは苦笑いを浮かべる。
彼女がカインに恋愛感情を抱いたのではと言う疑惑が払しょくされたジークとアノスは心底安心したようで胸をなで下ろす。
ここまで言われるカインに問題があるような気はしつつも、今、話をする事ではないと考えたフィアナは話を中断するとぽつぽつとカインの質問に答えられなかった事を話して行く。
その様子には人族と魔族の在り方についての問題に自分が何も考えて生きてこなかったと言う後悔もまぎれているように見える。
「……人族と魔族の共存だと?」
「は、はい。カインさんはそう言う事を言いたかったんだと思います」
「だろうな」
フィアナの話にカインが何を言いたいのかアノスにも理解できたようで眉間にしわを寄せた。
ジークはフィアナが悩んでいる理由も理解できたようでポリポリと首筋をかいた後、苦笑いを浮かべる。
「私は何も答えられませんでした……小さな頃から魔族は人族の敵だと聞かされていましたから、でも、この集落の人達は私が思っていたのとは全然違って」
「フィアナは魔族を殲滅するって息巻いていたからな」
「息巻いていません!?」
少なくともフィアナの魔族に対する考えはこの部隊に参加する前とは明らかに変わってきており、ジークは彼女をからかうように笑う。
真面目な話をしていたはずなのに話をおかしな方向に持って行こうとするジークの反応にフィアナは声を上げた。
そんな彼女が面白いようでジークは笑いをかみ殺して笑い始め、フィアナは頬を膨らませて彼を非難するような視線を向ける。
「真面目な話をしていたのに……ジークさん、ひどいです」
「悪かったな。それで俺の考えを聞きたいって事か?」
「はい。ジークさんはきっと共存する事に賛成だと思っているでしょうし……アノスさんはどちらかと言えば反対する方かな? と」
ジークは表情を引き締めるとフィアナに質問の内容を確認する。
フィアナはこくんと頷いた後、言い難そうに賛成側、反対側の意見を比較したいと言うが、アノスに怒鳴られると思ったようで彼と距離を取るようにジークの背後に隠れてしまう。
「……なぜ、隠れる?」
「い、いえ、怒られそうとだとか、怖いとかじゃないです」
「説得力ないって」
彼女の反応にアノスの眉間に寄っていた眉間にしわはさらに深くなって行き、フィアナは全力で怖がってなどいないと首を横に振る。
しかし、彼女の様子からアノスを苦手としているのは明らかであり、ジークは苦笑いを浮かべた。