第677話
「カインさん、フィアナさんはわたし達と同じ思いを持ってくれるでしょうか?」
「どうだろうね……そう言えば、ノエルとフィーナはどこに行っていたんだい? 子供達の世話?」
「ギドに頼んでフォルムに戻っていたわ。森の中を歩いて汗かいちゃったし」
フィアナが出て行ったドアを見て、ノエルは小さな声で不安を漏らす。
カインは首を横に振った後、ふと、3人がどこに行っていたか気になったようで首を捻る。
フィーナは女の子として当然の権利だと言いたげに言うとカインの眉間にはくっきりとしたしわが寄った。
「どうかしたんですか?」
「……ジークは集落に残っていたんだよね? フォルムに戻ったのはノエル、フィーナ、フィアナ、ギドの4人?」
「そうよ。何か文句あるの?」
その様子にノエルは首を傾げ、カインは状況を整理しようとしているのかフォルムに戻った人間の事を聞く。
難癖をつけられると思ったようでフィーナは不機嫌そうにカインを睨み付ける。
「……フィアナにばれなくて良かったね」
「へ?」
「ノエルの持っていた魔導機器はノエルとジークの魔力で動いているんだよね。ジークと離れてフォルムまで行っていたら、角が見えてたんじゃないの?」
ノエルがドレイクだとばれないようにしている魔導機器は2人の魔力がそろって初めて起動する物であり、ノエルとフィーナは完全に忘れていたようで顔を見合わせた後、頬が引きつって行く。
「……昨日、ジークと離れる時に確認したのにすっかり忘れてたわ」
「ほ、本当ですね」
「……フィアナも抜けてるところがあるから、良かったけどばれていたら確実に騒ぎになってたよ。2人とも何があるかわからないから、注意する事、良いね」
今回、自分達に非があるのは明らかであり、フィーナは顔を引きつらせたまま反省の言葉を口にだし、ノエルはうつむいてしまう。
カインは先ほどのフィアナの様子からノエルがドレイクだと言う事実に気が付いていないと判断したようでおおきなため息を吐いた後に注意をする。
2人は何か言える立場にない事も理解できているようで大きく首を縦に振った。
「……魔族との共存」
ノエル達からわかれたフィアナは集落の様子を見ながら大きなため息を吐いた。
集落はゴブリン族とリザードマン族と言う事なる種族が住んでいるにも関わらず、上手く回っているように見えるだけではなく、今回の偵察部隊に入っていた人族の中でも適応力のある者達は完全に言葉は理会していないようだが身振り手振りで親交を深めているようにも見える。
その様子からもカインの言う人族と魔族だから戦争が起きると言うのは違うと言うのはなんとなく理解ができている物の彼女がここまで生きてきた中で真実と教わってきた事を捨て去るのは難しいようである。
「……ノエルさんやフィーナさんはどうしてそんな風に思えるようになったのかな?」
魔獣師であり、若くして領主にまでなるカインの意見にはきっとフィアナに理解できないような小難しい言葉で丸め込まれてしまうだろう。
カインもそれがわかっていたから、自分に考えるように言ったのも理解できた。
そんななか、先ほどまで一緒にいたノエルとフィーナの顔が目に浮かぶ、フィアナの目には2人も魔族とともに生きる事に賛成しているように思え、2人がどのような過程を経てその考えに至ったかが気になるようで大きなため息が漏れる。
「フィアナ、ドウシタ?」
「ゼ、ゼイさん、あの、こちらの方は?」
「ギドサマダ」
その時、ゼイの声が聞こえ、慌てて顔を上げると彼女は人族の少女の姿をしており、彼女の隣には1人の人族の青年が立っている。
フィアナは青年の顔に見覚えがなく、ジーク達以外にもこの集落に人族が来訪していると思ったようでゼイに紹介を頼む。
青年はギドが魔法で人族になった姿であり、ゼイはギドの魔法は凄いと自慢したいのか胸を張った。
「あ……先ほどはありがとうございます」
「ああ、気にする必要はない。ワシもフォルムの様子が気になっていたからな」
「あの、ギドさんはどうして人族の姿に?」
フィアナは青年がギドだと知り、フォルムに連れて行ってくれた事に対して礼を言うがその態度には戸惑いの色が色濃く出ているように見える。
ギドはそれに気が付いたようだが、その事に対して何か言うつもりはないようで、自分にも用事があったと答えた。
フィアナは魔族の側からカインの考えはどのように映っているのか気になったようで話をするとっかかりになれば良いかと考えたのか、ギドが魔法で人族の姿になっている理由を尋ねる。
「人族には我々の姿に戸惑う者も多いからな。通訳をできる者は限られている。なるべく、話しやすい姿の方が良いだろう?」
「そうですね……すいません」
「別に謝る必要はない。姿形が違うのだから仕方のない事だ」
言葉が伝わらない事で集落の中で争いが起きる事を良しとしないため、ギドは通訳を買って出てくれている。
それだけではなく、フィアナのように魔族への偏見を持った人族への気持ちにも配慮してくれており、フィアナは頷くがすぐに自分が失礼な事を言ったと気が付いたようで深々と頭を下げた。
ギドはフィアナの考えもわかると言いたいのか首を横に振るが、彼女の顔は申し訳なさでいっぱいのようで表情は硬い。
「あ、あの、ギドさんとゼイさんはどうして人族と共存できると思ったんですか?」
「オレ、ジーク、フィーナ、スキ。カイン、コワイ。デモ、スキ、フィアナ、スキ」
「あ、ありがとうございます」
ギド達が人族の事を考えてくれているなか、自分が何もしていない事を申し訳なくなっているフィアナは魔族側の考えを聞きたくなったようで勇気を振り絞って聞く。
その言葉にゼイは特に何も考えずにジーク達が好きだからと答える。
ゼイの好きな人族の中にはまだあったばかりのフィアナの名前もあり、彼女は戸惑いながらも笑顔を作り、礼を言う。
「ワシらも人族全てを信じているわけではない。魔族同士、人族同士でも争いは起きるものだからな。少なくともワシらは友だと思った者達とは争いたくはない。それほど、難しい事だろうか?」
「そ、そんな事はないと思います。それが凄く良い事だと言う事はわかります」
「そんなに難しい事ではないと思うなら、もっと単純に考えれば良いのではないか? ……悪いな。ワシらはもう行く」
ギドは逆にフィアナに質問を投げかけるとフィアナは大きく頷いた。
彼女の様子にギドは満足そうな笑みを浮かべた時、揉めているような声が聞こえギドとゼイは騒ぎが起きた場所に走って行く。