第676話
「……なんで、こいつがいるのよ?」
「カインさん、何をしているんですか?」
フォルムから戻ってきたノエル達は集落に来た時に借りている建物をあけると目をつぶり、集中しているカインを見つける。
フィーナはカインを見つけて舌打ちをするがカインには反応はなく、フィアナは彼が使い魔を同時に扱っている時には無防備になる事を知らないため首を傾げた。
「たぶん、使い魔さんを使って森の中を警戒していると思うんですけど」
「使い魔を使って……あの、私達って何しにこの集落まで来たんでしょうね?」
「ホントよね」
ノエルは苦笑いを浮かべながらフィアナに説明をすると、彼女はこの隊に同行している物の特に何か役に立っているわけでもないと思っているようで自信がなくなってきているのか小さく肩を落とす。
フィーナもただ振り回されている気しかしないようでため息を吐くとカインの顔を覗き込む。
「フィーナさん、イタズラをしたらダメですよ」
「しないわよ……だけど、よく考えたら、私達、フォルムにいても良かったんじゃない? 寝袋で寝るより、疲れとれるし」
「そ、それは魅力的ですけど……ダ、ダメですよ。私達はお仕事の依頼を受けているんですから!?」
ノエルはフィーナが動けないカインにここぞとばかりに仕返しをすると思ったようで彼女を止める。
カインが集中して使い魔を操っている時にフィーナが何かしようとするとタイミング良くカインが気付くため、彼女はどこかトラウマになっているのか目をそらす。
その様子にノエルとフィアナは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
フィーナは少し気まずそうに頭をかくとカインが集落に来ているため、人員も足りていると思ったようでフォルムに戻ると言う。
フィアナには先日の野宿はきつかったようで少し気持ちがぐらつくがすぐに自分の煩悩を振り払おうと大きく首を横に振った。
「迷ったわね」
「そ、それは仕方ないと思いますよ」
「ん? 3人とも何をしてるの?」
フィーナは彼女の反応に小さく口元を緩ませるとノエルも少しだけ心が揺るいでしまったようでバツが悪そうに笑う。
その時、カインが使い魔とのつながりを切ったようで目を開き、目の前に立っている3人を見て首を捻った。
「こっちのセリフよ。あんたはワームで強欲爺の動向を探っているんじゃなかったの?」
「探ってはいるけどね。あっちは魔術学園の皆が協力してくれているから俺が増えても意味なさそうなんでね。こっちの方が調査しやすい。野営を張る場所は当たりが付いてるからね」
「当たりですか? いつの間に調べたんですか?」
フィーナはカインがこちらに来ると聞かされていなかった事もあり、また何か良からぬ事を企んでいると思ったようで怪訝そうな表情で何しに来たかと聞く。
フィーナの表情にカインは小さくため息を吐くとワームは魔術学園の協力者に任せてきたと伝えると調べたい場所があったようで使い魔を飛ばしてきたと笑う。
ノエルはカインが調査したい場所にまったく想像がつかなかったようで首を捻った。
「……ノエルにも心当たりはあると思うんだけどね」
「わ、わたしが知ってる場所ですか? フィーナさん、わかりますか?」
「興味ないわ」
彼女の様子にカインは苦笑いを浮かべながらノエルも知っている場所だと言う。
しかし、ノエルはまったく想像がつかないようでフィーナにも聞くが、聞いた相手が悪くフィーナはきっぱりと言い切った。
その清々しいまでの様子にノエルとフィアナは苦笑いを浮かべるが、カインは頭が痛くなってきたのか頭を手で押さえる。
「ノエルとフィーナは初めてここに来た時に何日か野営しただろ。野営するには適した場所ってあるからね。集落の明確な位置まで噂で流せる奴らが、その場所を押さえていないわけないだろ」
「そうですね……それで、どうだったんですか?」
「まだ全部は見切れていないけど、ここ最近で野営をした後は有ったよ。たぶん、場所を変えながら集落の様子をうかがっているね」
カインは頭を手で押さえたまま、ギドを助けに来た時の事を思い出すように言う。
ノエルは心当たりがあったようで大きく頷くとカインが見てきた事を聞く。
全て調べきれていないようでカインは小さくため息を吐くとまだ調査が必要だと頭をかいた。
「ねえ。面倒だから、その場所を叩いたらダメなの?」
「フィーナさん、さすがに無理じゃないですか?」
「こっちから仕掛ける事も視野には入れてるけど、せめて、どこにいるかと人数は確認しないといけないね。それに森の中を隊で歩くと目立つから動かすとしたら考えないといけない事も多いからね。今はその時じゃないよ。戦いにならないならそれに越した事はないだろ。強欲爺は魔族だから滅ぼしても良いと思っているかも知れないけど、ここには子供だっているんだから、ここの子供達には種族が違ったって争う必要はないって心から思って貰いたいからね」
カインの調査など待っていられないと言いたいのか、フィーナはこちらから仕掛ける事を提案する。
フィアナはフィーナほど好戦的には慣れないようで彼女を引き止めようとし、カインは戦えない子供達の事も考えているようでどんな理由があっても殺し合いを見せたくないと言う。
その言葉にノエルは大きく頷き、フィーナは考え足らずだった事を理解したのか気まずそうに視線をそらした。
「あ、あの」
「フィアナは魔族だから、一緒に暮らせないと思ってる?」
「わ、わからないです。小さい頃から、魔族は敵だと言われていました。で、でも、この集落の人達を敵だとは思えなくて」
フィアナはカインの言葉に思う事はあるようだが、今まで信じてきた事があり、その間で葛藤をしているように見える。
そんな彼女の様子にノエルは自分がドレイクだと言う事を黙っている事に胸が痛んだようで真実を言いかけるが、カインが手で彼女の言葉を制止する。
ノエルは以前にもカインに注意された事があり、フィアナが出す答えを待とうと考え直したようで小さく頷いた。
「フィアナが悩んで自分で答えを出すと良いよ。フィアナはこれからも多くの人と出会うんだからね。それは人族だけじゃなく、魔族とも他人の意見に惑わされる事無く、自分で判断したら良いよ」
「あの皆さんは……ちょっと出てきます」
フィアナはカイン達を信頼しているため、彼らの言葉に従おうと言う答えが頭をよぎる。
それはカインが投げかけた質問の答えになっていないとも思ったようで目を伏せると建物から出て行く。