第673話
「お帰り、ジーク、ゼイ。おっさん達と合流できたのね」
「ああ、こいつら土産な」
「で、何が目的だったの?」
集落に戻るとラースは兵士達に指示を出す。
襲撃者がいた事で部隊は集落が襲われる可能性があるため、兵士達は森を警戒するように配置されて行く。
集落の周りで兵が動き出してきたのをフィーナが見つけて駆け寄るが、周囲を警戒していたゴブリン族とリザードマン族は初めて見る人族の集団に警戒しているようで距離をとっている。
その様子にジークは小さくため息を吐くと捕縛した3人をフィーナの前にだし、フィーナは3人を見下ろしながら首を捻った。
「話を聞くのはこれからだけどな」
「そう? それなら、ジークの栄養剤の出番ね」
「……何度も言うけど、栄養剤だからな」
まだ話を聞き終えてはおらず、ジークはため息を吐く。
フィーナは迷う事無く、ジークの栄養剤を使って話を聞こうと言い、ジークは森の中で同じ事を考えたため、彼女から視線をそらす。
「それでも時間がないなら必要でしょ。ね。ゼイ」
「……ジーク、クスリ、マズイ」
「あ、あの。ジークさん、フィーナさん、ゼイさん、できれば先に紹介してくれるとありがたいんですけど」
緩い空気で話し始めている3人と距離をとって人族と魔族に分かれており、この状態は居心地が悪いようでフィアナは遠慮がちに手を上げた。
その声に3人は顔を見合わせた後、苦笑いを浮かべるとフィーナはフィアナの手を引っ張り、引き寄せると何かあっても困るため、アノスは剣に手をかけながら近づいてくる。
「警戒し過ぎよ……しまった。ノエルもギドもいないわ。会話が面倒よ」
「……だから、覚えろって言ってるんだろ。だけど、おっさんが来てからの方が良くないか?」
「あの、手間になるかも知れないですけど、お願いします。お、落ち着かないんです」
フィアナはどうして良いのかわからずに怯えたような表情を見せており、フィーナはため息を吐いた後、まともに通訳ができる2人がいない事に気が付いたようで眉間にしわを寄せた。
ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとゼイよりは自分の方が通訳に向いていると思ったようでため息を吐くが部隊の隊長であるラースがいないためまた同じことをしないといけなくなると思ったようで首を捻る。
フィアナは魔族が距離をとっている様子に彼らが何を考えているかわからないため、不安に押しつぶされそうになっており、ジークとフィアナの服を引っ張った。
「……まぁ、仕方ないか?」
「そうね」
彼女の様子にジークとフィーナは苦笑いを浮かべるとジークとゼイは集落の魔族と部隊の人族の間を取り持つように紹介をして行く。
「小僧、ゼイ、疲れているな」
「……フィーナ、ノエルを連れてきてくれ」
「無理じゃない。子供達に捕まったままだし。あの子もきっとばててるわよ」
何度も紹介をしている間にラースが集落に入ってくる。
ジークとゼイは忙しなく異種族間を行き来している様子を見て苦笑いを浮かべると2人は限界が来たようで地面に座り込んだ。
ジークは消えそうな声でフィーナにノエルを呼んでくるように頼むが、フィーナは子供達に振り回されているであろうノエルの体力が心配になってきたようで苦笑いを浮かべる。
「……それもそうだな」
「騒がしいと思ってきて見れば、ラース達が到着したようだな」
「レギアス」
フィーナに言われてジークもノエルがへばっている姿が目に浮かんだようでふらふらと立ち上がった時、レギアスとギドが顔を出す。
ジーク達にこの森にいる魔族は協力的だと聞かされてはいたが、どこかで友人であるレギアスを心配していたようでラースはほっと胸をなで下ろした。
「レギアス様、ギド、話し合いは終わったの?」
「ああ、ワシらには人族の街を襲う気はない事も伝えた。それと王都で噂されている王女の病が魔族の呪いだと言うのも否定させて貰った。少なくともこの集落にはそのような事をできる者はいない」
「そうだよな。魔術師ってギドだけだろ……いや、これはダメだ」
フィーナは2人が一緒にこの場に来た事で話し合いが無事に終わったと思ったようで結果を聞く。
レギアスは王都にいるアンリ王女の症状についても質問したようであり、ギドは疑いたくなる気持ちも理解できるが、そのような事ができるような魔術師がいない事を素直に白状したと言う。
ギドのため息交じりの言葉に疑ってしまった事を申し訳なく思ったようでレギアスは気まずそうに笑い、ジークは苦笑いを浮かべると疲労回復をするために栄養剤を取り出すが味に躊躇する。
「……あんた、もう自分でも毒扱いしてるでしょ」
「そ、そんなわけないだろ。それより、話が終わったなら俺達はワームに戻って良いのか?」
「いや、しばらくはこの集落の警備のために駐留する必要がある。小僧、集落になっていると言う事は水源があるのだろう? 数名を案内してくれるか」
その様子にフィーナは呆れたようにため息を吐く。
ジークは気まずそうに視線をそらすと目的を達したと思ったようで転移の魔導機器を取り出して見せた。
ラースは首を横に振るとギムレットの手の者が集落を襲う事を危惧しているようである。
すぐに帰る事はできないため、水の確保は必要条件であり、ラースは水源まで行ってきて欲しいと頼む。
「水か? 確かに必要か」
「ギド、フォルムまで往復して汗流してきたい。フィアナも行こう」
「え? え? どうしてギドさんが転移魔法を? ジークさん、どういう事なんですか?」
ジークは納得したようでフィーナに手伝わせようと視線を向けた。
しかし、フィーナは面倒な事をしたくないと言いたいのか、ギドにフォルムに連れて行けとねだり始め、フィアナは状況が理解できないのか不安そうな表情をしてジークに説明を求める。
「フィーナ、ノエルも連れてけよ。何度もギドに往復して貰うのは悪いからな」
「わかってるわよ。フィアナ、ギド、行くわよ」
「……ワシがフォルムに行くのは決定なんだな」
ジークは説明が面倒なようでフィアナをフィーナとギドに押し付けるとフィーナは2人の手を引っ張ってノエルを探しに駆け出す。