第669話
「そう言えば、ノエルは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないか? ……今更だけど、人族の姿になってないと見分けがつかないんだけど」
「そうね……ノエルは何でわかるのかしら」
ザガロの元に向かう途中で、フィーナは子供達に拉致されて行ってしまったノエルの事を思い出す。
ジークは苦笑いを浮かべると何度もこの集落に来ているのだが、未だにゴブリンとリザードマンの個別認識は出来ないようで苦笑いを浮かべる。
フィーナもジークと同様に見分けがつかないようで頷くすれ違う住人達を見ながらため息を吐いた。
「ジーク、フィーナ、コッチダ」
「ああ……ザガロ、どうなってる?」
「……」
そんななか、ゼイはザガロを見つけたようでジークとフィーナを先導して駆け出す。
ジークは顔では見分けがつかないものの、いつも使っている剣で識別できたようで手を上げてザガロの名前を呼ぶ。
ジークの声にザガロは1度、視線を向けるがすぐに集落の外へと視線を向ける。
「……相変わらず、愛想がない」
「そうね」
「ザガロ」
ザガロはギドやゼイとともにフォルム運営を手伝ってくれているため、人族の言葉も片言だが話せるようになっているのだが、彼は必要最低限の事しか話さない。
ジークとフィーナは会話が成り立たない事に顔を見合わせた後、大きく肩を落とすがゼイは気にする事無く、状況を知りたいようでザガロにまとわりつき始める。
「……ザガロ、キレなければ良いな」
「そうね。それより、ジーク、他の人に話を聞いてよ。あいつは説明しないでしょ」
「そうだな……と言うか、フィーナ、お前もザガロやゼイと一緒にいるんだから少しは言葉を覚えろよ」
ゼイがうろちょろし始めた事でザガロはいらいらし始めたように見える。
ジークは2人の様子に苦笑いを浮かべるとフィーナは賛成のようで頷くが、集落の様子をうかがっている気配について詳しい話を聞きたいため、ジークに情報を集めろと言う。
ギムレットの指示を受けた者が、集落をつぶそうとしている可能性もあるため、そばにいるゴブリン族やリザードマン族に話を聞こうとするが、ゼイやザガロが多種族の言葉を覚えて行っているのに対して覚えようともしないフィーナに呆れているのか深いため息を吐く。
「別に必要ないでしょ。誰も困らないし」
「……現時点で俺が困ってる。情報集めろって言うなら、絶対に2人でやった方が速いだろ」
「2人で聞いて、どちらかが聞き間違いして面倒な事になっても嫌でしょ」
フィーナは周りにいつもいる魔族が人族の言葉を使えるため、何も困っていないようで気にする事はない。
ジークは言っても無駄だと思いながらも、言うべき事だと思ったようで覚えろと言うがフィーナは聞く耳など持たず、さっさと話を聞いて来いと言いたいのかジークを追い払うように手を払う。
彼女の様子にジークは大きく肩を落とすとそばにいたリザードマン族に話を聞く。
「気配を見る限り、大軍じゃないのね?」
「みたいだな。まとまった感じじゃなく、突然、現れるみたいだから、潜伏能力はかなりのものだと思うぞ」
状況を確認すると集落の周りから、時折、集落の気配をうかがっているような視線を感じると言う。
気配としては集落を蹂躙するような大軍ではないため、フィーナは少し安心したようで胸をなで下ろすが、ジークは相手の実力がかなりのものだと思ったようで難しい表情をする。
「気配がばれてるんでしょ。雑魚じゃない」
「……あのな。わざと気づかれるように気配を見せてるなら、相当厄介だぞ。誘導攪乱するには充分な能力だ。それも突然、他の場所にも現れるって事は複数人いるって事だろ。突然現れた気配に対処している間に集落に忍び込まれて火を点けられたりしたら、全滅だってあり得るぞ」
「そうなの?」
ジークとは違い、フィーナは相手を雑魚と言い切るがジークは不安しか感じないようで頭をかく。
しかし、フィーナは事の重大さを理解していないようで首を傾げると集落の外の森へと視線を向ける。
「……森の中だしな。おっさん達が到着したタイミングも見計らって森に火を点けられたら、結構、深い所まで来てるから脱出もできないし、火から逃れられる所まで逃げた瞬間に部隊に襲われるとかな」
「変な事を言わないでよ。あんたがおかしな事を言うと本当に起こりそうでイヤなのよ」
「俺だって起きて欲しくないから、警戒したいって言いたいんだよ……ワームの方はどうなってるかな? カイン、こっちに来れないかな? どうして、必要な時にあいつは居ないんだ」
ジークは起きて欲しくない事を上げて行き、フィーナはジークを睨み付ける。
自分に言われても困るため、ジークは眉間にしわを寄せて考え込むが良い考えが浮かばないようで転移魔法で集落まで移動できるカインの顔を思い浮かべて文句を漏らす。
「あんなの必要ないわよ」
「……とりあえずは様子を見てくるしかないか? レーネさんについてきて貰えば良かった。フィーナ、お前は集落の中から気配を探ってくれ」
「ジーク、モリ、ミニイク? オレ、イク」
フィーナはカインの名前にものすごく嫌そうな表情をする。
ジークは気配の正体を確認したいようで頭をかくと森の中を見てくるとフィーナに集落の事を任せて森へと歩き出す。
その時、ジークの目の前にゼイが顔を覗かせ、自分もついて行くと言う。
「……」
「……本人に言いなさい」
「……ツレテイケ」
ジークは自由奔放なゼイが一緒だとこちらの動きがばれてしまうと思ったようでフィーナにゼイを押し付けようと目で訴えた。
フィーナはゼイのペースに巻き込まれるのは遠慮したいようで大きなため息を吐くとザガロはジークにゼイを連れて行くように提案する。
「いや、ダメだろ」
「……コノモリヲイチバン、シッテイル」
「マカセロ」
ジークはゼイを連れて行くのは危険だと言うが、ザガロにはザガロなりの考えがあるようである。
ゼイは自信があるようで胸を張って言う。
その様子からジークがなんと言おうがついてくる気であると言う事がわかり、ジークは不安しか感じないようで大きく肩を落とした。