第668話
「何とか無事に着いたな」
「無事と言って良いのか?」
ジーク達は無事に集落に到着すると同時にノエルはゴブリン族とリザードマン族の子供達に囲まれて連れていかれてしまう。
そのスピードはかなりのものであり、集落にはノエルの悲鳴にも似た声が響き、その様子にレギアスは眉間にしわを寄せる。
「ずいぶんと早く到着した物だと思って見れば」
「ギドサマ、ノエルサマ、ツレテキタ。ホメロ」
「……カインと打ち合わせをしたものが、全て意味がなくなってしまったではないか」
ノエルの悲鳴を聞き、ギドとゴブリン族、リザードマン族の代表がそれぞれ顔を覗かせた。
予定では1部隊で来ると聞かされていたため、ジーク達しかいないのを見てギドは大きく肩を落とすがゼイは正しい事をしていると思っているようで胸を張っている。
「……ずいぶんと流ちょうに人族の言葉を話すのだな」
「まぁ、ギドは特別よ。えーと、レギアス様よ。ジークの伯父さん」
「待て。間違ってはいないけど、その紹介の仕方はおかしいぞ」
集落まで来る途中で集落の代表は人族の言葉をつかえると聞かされたレギアスだが、ゼイのように片言だと思っていたようで驚きが隠せない。
その様子になぜかフィーナは満足そうに笑みを浮かべた後、レギアスの事を紹介するがその紹介はあまりに適当であり、ジークは大きく肩を落とした。
「今回、通訳をさせて貰うギドだ」
「レギアス=エルアだ。我が主、シュミット=グランハイムの命を受け、交渉役を任されました」
ギドはまずは自分の紹介をした方が良いと思ったようでレギアスに向かい頭を下げる。
レギアスも頭を下げた後、ギドに代表2人に伝えて欲しいと自己紹介と集落に来た目的を話す。
ギドは頷くとレギアスの事を代表に説明し、同様にレギアスへ代表の事を説明する。
「ねえ。ゴブリン族の代表ってギドじゃないの?」
「最近はカインの手伝いをするために集落にいない事も多いからな新しい代表を選んだだけだ。それに皆をまとめるのは資質がある者がやるべきだ」
「そうなんだ」
フィーナはギドが自分の事を通訳と言った事に首を傾げた。
ギドはすでにゴブリン族の代表を辞退したようであり、首を横に振るとフィーナは一先ず、納得できたようで小さく頷く。
「ギドがフォルムにいてくれると助かるからな。こっちとしては都合が良い」
「ここに何かあった時の準備をするのにも都合が良いからな。ただ、フォルムに転移魔法を使える者を育てておかないとならないがな」
「……ジーク、悪いが世間話は後にして貰って良いか?」
ジークはギドを頼りにしているため、笑顔を見せるとギドは笑い返すが心配事があるようで小さくため息を吐いた。
雑談を始めようとするジークとゼイの様子にレギアスは本題に移りたいようで注意をすると2人は顔を見合わせると苦笑いを浮かべて頷く。
「ジーク、私達はどうするの? 話し合いに参加する意味はないでしょ?」
「……フィーナは特にな」
「何ですって?」
名目上、ジークはレギアスと集落の代表の話を成立させるためであり、ギドがいる今となってはいる必要はない。
フィーナは話し合いの場などつまらないと思っているため、同席したくないと言うとジークはフィーナがいても仕方ないとつぶやく。
その声はしっかりとフィーナの耳に届いており、彼女はジークの胸ぐらをつかむ。
「ジーク、フィーナ、ゼイ、ここは任せておいて良いから、ザガロの元に行ってくれないか?」
「ザガロ? ……あいつもこっちに戻ってきてるの?」
「何かあるのか?」
今にもジークに殴り掛かりそうなフィーナの様子にギドはため息を吐くと2人を追い払おうとする。
ギドの口から出た名前にフィーナは嫌そうに表情をしかめるとジークはザガロが何かしていると思ったようで首を傾げた。
「ゼイが集落から出て少したった後から、集落の周りにおかしな気配があると言っていてな」
「……そうか。レギアス様、悪いけど、俺達は様子を見てくるけど」
「そうだったな。レギアス殿、我らの事を信頼してくれますか? レギアス殿の返事しだいでジークには残って貰わなければいけないが」
ジーク達が心配していたように集落の周囲にはおかしな気配が漂っているようであり、ザガロはいち早くその気配を感じ取り、対策を練っていると言う。
その言葉でジークとフィーナの表情は引き締まるがレギアスの護衛も兼ねているため、レギアスに許可を出して欲しいと視線を向けた。
ギドは視線に気が付くとレギアスに自分達を信用できるかと問う。
「信用しよう。ジーク、フィーナ、そのおかしな気配が父上の手の者だとしたら、ラースへの伝令も頼めるな?」
「警戒次第だけど、やれる事はするよ。それじゃあ、ギド、レギアス様の事、頼むぞ」
レギアスは迷う事無く返事をするとレギアスの反応にギドは満足したのか小さく口元を緩ませた。
ジークはフィーナとゼイに声をかけるとザガロの元に歩き出し、ギドとレギアスは3人の背中を見送る。
「ずいぶんと簡単に返事をしたな。我らは魔族、人族に仇をなす者達だぞ」
「長い間、離れていましたが、血の繋がった甥っ子ですから、信頼しています。それにギド殿達から見たジークやフィーナは信頼するに足らない人間でしょうか?」
「なるほど、なかなか意地の悪い質問だ」
3人の背中が見えなくなった後、ギドはレギアスに魔族の集落で1人になって良いのかと改めて問う。
レギアスは迷う事無く、ジークやフィーナ事を信頼していると言い切るとイタズラな笑みを浮かべて質問を返す。
その質問にギドはレギアスの人柄が見えたようで苦笑いを浮かべる。
「お互い様です。ギド殿」
「確かにそうだな。おかしな質問をして悪かった。それではこちらにお願いします」
「ああ、しかし……人里から離れた魔族の集落と言う割には綺麗な場所だな」
「カインがいろいろと協力してくれたからな」
レギアスは意地悪な質問をしたのはお互い様だと笑う。
ギドは品定めをするような質問をした事を謝るとレギアスを案内するように先を歩き出す。
レギアスは頷き、ギドと代表2人の後を歩くと集落の中はしっかりと整えられており、感心したと言うとギドの口から出たカインの名前に納得が言ったようで大きくため息を吐いた。