第666話
「……うむ。お互いに干渉していないか? 確かに魔族は宿場町にも来ていないようだし、下手に争っていないのなら話し合いの余地はありそうだな」
「そうだな……しかし、話を聞く限り、この道はなかなか大変そうだ」
「デモ、ハヤイ」
ゼイを呼び寄せたラースは彼女になぜ、魔族の集落への道を知っているか聞く。
おかしな事を言い出しそうなゼイをジークが方向修正しながら、魔族とは一線を引いて生活をしている事と集落への道順を説明する。
レギアスは説明を聞きながら集落までの道順を記録しており、なかなか困難な道順だと思ったようで難しい表情をしてつぶやいた。
人族と魔族はお互いに干渉しない事で平和に過ごしていると話を誤魔化して説明した事でラースは少なくとも森で生活しているゼイが魔族に危険な目に遭わされていない事に安心したようで大きく頷く。
シュミットには話し合いで済ませたいと言われていたが、ラースとしては魔族を信用しきって良いのかわからないようで眉間にしわを寄せている。
それでもゼイから与えられた情報はシュミットの指示を遂行するためには有益な情報で光明が見えたとも思ったようであり、ゼイは集落で子供達がノエルに会えるのを楽しみにしているため、早くノエルを連れて戻りたいようで、ついて来いと駆け出そうとしてジークは彼女を取り押さえた。
「なかなか、頭がまわるじゃないか」
「……おっさんしかだませないだろうけどな。ゼイ、頼むからもう少し待ってくれ。煩くするとおっさんも考えがまとまらないから」
「ワカッタ」
ラースがどうするか考えている様子にレギアスは時間がかかると思ったようでジークに声をかける。
それはジークがゼイをフォローしながらも、ラースが考えるに値するだけ情報を作り出した事を褒めているようであり、ジークはすぐにレギアスが何を言いたいのか理解し、ラースをだませた事にほっとしたようで胸をなで下ろす。
ゼイはジークにつかまれながらもラースを急かすように声をかけており、ジークは彼女を落ち着かせようと声をかけるがゼイは不満のようで頬を膨らませている。
「……ラース様、出自もわからない人間の言葉を信じるのは危険だと思いますが」
「うむ……だが、ワームの事を考えると長く、ワシらが留守にしているわけにはいかないからな」
「しかし……」
アノスは予測不能の動きをするゼイの事を得体の知れない者だと思っており、彼女の言葉を信じてはいけないと進言する。
ラースは頷くものの、ギムレットが何かする可能性が高いため、危険だとしても飛び込んでみるのも選択肢の1つだと言う。
ラースがジーク達の進言を聞き入れるのに対して、自分の進言が無碍にされる事はアノスには面白いわけもなく、その矛先はジークに向けられる。
アノスからの突き刺さるような視線にジークは逃げるように視線をそらす。
「おっさん、早くしなさいよ。私はさっさと帰りたいんだから、そっちも変な因縁をつけてないでよ。だいたい、あんただって森の中を歩き回るより、さっさとワームに帰りたいんでしょ。顔に書いてあるわよ」
「……そんなわけないだろ。俺は隊の安全を考えて進言しているのだ」
「説得力がないわね。おっさん、移動なれしていないこの部隊の事を考えれば、最短距離の移動。ゼイの事は私が保証するわ」
フィーナはゼイに巻き込まれて息も絶え絶えになっているノエルと森の中を歩き疲れたフィアナを見ながら、あまり長い間の森の中は歩かせられないと判断しており、ラースを煽った。
その言葉の中にはアノスも含めた森の中を少し歩いただけでへばっている兵士や騎士への皮肉も込められており、鋭い視線がアノスへと向けられる。
アノスは森の中には長時間居たくないのだが、情けない事は言えないため、あくまでも部隊の安全を考えてだと主張する。
フィーナは信用する気などないようあり、ため息を吐くとラースにゼイの事を信じて欲しいと偉そうな態度で言う。
「……あれだな。ゼイの事は俺も信用してるけど、フィーナに保証されると途端に不安になるのはどうしてだろうな」
「うむ。確かにそうだな」
「……ジーク、おっさん、どう言う意味?」
フィーナが胸を張っているのを見て、ジークはなぜか不安になったようで大きく肩を落とし、ラースは大きく頷いた。
2人の言葉にフィーナの額にはぴくぴくと青筋が浮かび始めるが、息の整ったノエルとフィアナに押さえつけられジークとラースから距離を離される。
「おっさん、それでどうするんだ? 俺としてはゼイの案内でさっさと行きたいんだけど」
「そうだな……だが、話を聞くとこの人数で移動するのは大変じゃないのか?」
「オッサン、デカイ、ニブイノカ?」
ジークは改めて、ラースに判断を求めるとラースはレギアスの書いた道順を覗きながら、部隊を動かすには適さないのではと首を捻った。
ゼイはラースの体格から鈍そうだと判断したようであり、大きく肩を落とすと彼女の礼儀の知らない態度にアノスはゼイを睨み付ける。
「そこまで鈍くはないが身軽なお主に比べると少し骨が折れるな」
「そうだな。それなら、私がゼイの案内でジーク達と共に行くとしよう。ラース、お前は隊を率いてゆっくりとこい」
「何を言っている? そんな事を許可できるわけがないだろ」
ラースはアノスを目でいさめるとゼイに向かって笑いかけた。
レギアスはゼイがジーク達と懇意にしている魔族である事に気が付いているため、危険はないと判断しているせいかゼイについて行くと言うが、それを許可するわけにはいかない。
ラースは眉間にしわを寄せてバカな事を言うなと言うが、レギアスはすでに行くと決めたようでゼイに道順を確認し始め、ゼイも早く集落に戻りたいためか嬉々としてレギアスに説明をしていく。
「……なんか、話が決まって行ってるんだけど、良いのか?」
「隊を分けるのは良策とは言えんが、最悪の場合は小僧の転移の魔導機器で逃げられるか……それで移動できるのは5人までだったな」
「俺、ノエル、フィーナ、レギアス様、ゼイって事か? わかった。ノエル、フィーナ、行くぞ」
ラースは眉間にしわを寄せるがレギアスがこうなっては聞かないとも考えているのか、ジークに退路の確保を確認する。
ジークはこの流れに苦笑いを浮かべるとノエルとフィーナに声をかけ、2人は大きく頷く。