第652話
「連れて来たわよ」
しばらくするとフィーナがラースを連れて戻ってくる。
ラースとレギアスは一緒にいたようで何かあったのかと同行している。
「何かあったか?」
「ああ、ちょっとな」
ラースはジークが急げと言っていた事もあるためか、ただ事ではないと思ったようであり、すぐに本題に移ろうとする。
ジークは自分で言うよりはアノスが報告した方が良いと判断したようでアノスへと視線を向けるがアノスはジークの気づかいに気が付かないようで言葉は続いてこない。
その様子にジークは頭をかくと先ほど野営地の周辺でこちらをうかがっている人間がいた事を報告する。
「……まだ、見張られているか?」
「捕まえてきなさいよ。本当に役立たずね」
「あの、さすがに2人では危険ですよ」
ラースは難しい表情をすると対処をどうするべきかと考え出す。
フィーナはただ報告だけで済ませようとするジークとアノスに不満を抱いているようで文句を言うが、ノエルは状況を考えて欲しいとフィーナをなだめる。
「小僧、お前はどう思う? そろそろ捕まえて情報を引き出すべきか?」
「そうだな。後をつけてきている奴らに協力者がいるなら、そろそろ、何人か捕まえておいても良いかも知れないけど……まともに動けるのが俺しかいない」
「うむ。そこだな」
ラースもそろそろ追跡者が鬱陶しくなってきたようで、情報を得るためにも追跡者を捕らえたいと思っているようでジークに意見を求めた。
ジークは頷くものの、今回の偵察部隊の装備を見る限り、月明かりにまぎれて何かをするにはむかないと思っているため、困ったように頭をかく。
ラースもジークと同様の事を考えていたようで大きく頷くとアノスはラースが自分より、ジークを評価していると思ったようで表情は険しくなっている。
「あの、ジークさんしか動けないと言うのはどういう事ですか?」
「そうよ。バカにしてるの?」
「……すぐにバカにされてると行きつくからバカにされてるんだろ?」
ノエルは状況がつかめないようで遠慮がちに手を上げるが、フィーナはバカにされていると判断したようでジークの胸ぐらをつかんだ。
彼女の様子にジークは大きく肩を落とすと彼女の手を払う。
その言葉にフィーナのように行動はしなかったまでも、イラついてしまったアノスはわずかに視線をそらす。
「なら、どういう事よ?」
「装備の問題。鎧を着てガチャガチャと音を立てたら気づかれるだろ」
「兵や騎士は金属鎧だからな。小娘も軽装ではあるが、それでも金属鎧だ。見つかる可能性があるとなると捕縛にはむかないだろう。もう少し、軽装の人間も混ぜるべきだったか」
理由を話せと言うフィーナに大きくため息を吐くジーク。
ラースは苦笑いを浮かべながら、ジークの言葉を補足すると偵察部隊の選別にもう少し頭を悩ませるべきだったと笑う。
「しかし、今回は軍としての動く事が前提だったからな。あまり、ジーク達のような人間も増やせなかったからな」
「……面倒だな。もう少し緩くできないのか?」
「兵以外を数名入れるのも何とか他の者達を説得したんだ」
冒険者のような人間を本来組み込んだ方がバランスは良かったのだが、合議制を取っているワームの悪いところが出てしまったようであり、ラースが考える人選できなかったとレギアスが補足する。
融通の利かない議会の様子にジークは面倒だと言いたいようで頭をかくと仮に自分1人で動くと考えた時にどうするか考え始めたのか両腕を胸の前で組む。
「それって、こう言うヤツのせい?」
「……」
フィーナはアノスのようなプライドだけが高い人間が邪魔したと思ったようで彼を指差す。
その無礼に物言いにアノスの眉間にはくっきりとしたしわがよるが、フィーナのペースに巻き込まれては良い事はないと判断したようで何とか我慢をしている。
「そう言うわけではない。先日のシギル村の件でシュミット様が私とラースを重用しているのがさらに目立つようになったからな。足を引っ張りたいと思う人間は多い。元々、ワームはその色が強く出ていた場所でもあるからな」
「面倒ね」
アノスの態度に気が付いたレギアスは彼の尊厳のために議会の問題である事を話す。
フィーナはアノスの変化になど気が付いていないため、自分の思った事のみを口にする。
「とりあえず、相手も時間が遅くなると気を抜くところがあるだろうから、その時間を狙うしかないな」
「ジークさん、何か思いついたんですか?」
「いや、全然、とりあえず、気配も隠せないようなヤツらばかりだから、何とかなるだろ」
その時、ジークは考えがまとまったのか頭をかく。
ノエルはジークの思考が終了した事に何か良策が見つかったと思ったようだが、ジークは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「何とかなるって何よ? なんか考え付きなさいよ。もったいぶったんだから」
「もったいぶったとか言われたってな。まともに動けるのが俺くらいなんだから、仕方ないだろ。鎧もまとわないで襲撃とかしたいと思うヤツがいるか? 今だって、こちらの様子をうかがっている事に気が付いている人間が何人いる?」
「半数いれば良いところだな」
フィーナは呆れたと大きく肩を落とすが、ジークは今回の偵察部隊が連戦練磨の人間達ではない事も理解しており、追跡者の存在に気が付いている人間の比率を聞く。
ラースは誰よりも今回選別した兵達の実力を理解している事もあり、実力不足なのは否めないと言う。
「……もっと、考えて人を選びなさいよ」
「希望の人間ばかりを選べるほどワシらも余裕はないからな。希望の人間を集められるなら小娘ではなく、カインを呼ぶ」
「まったくだ。本来、こんな事を考えたりするのは俺の役目じゃないんだよ。悪いけど、少し休ませて貰うぞ。動くとしたらもっと遅い時間になるだろうからな」
兵士達の能力不足を聞き、ため息を吐くフィーナ。
ラースは本音を言えば部隊の作戦を決めるために軍略などに明るい人間を組み込みたかったと本音を漏らす。
ジークはラースの言葉に同意すると追跡者達の様子を探りに行く前に休むと言って振り分けられたテントに向かって歩く。