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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ジーク=フィリス
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第649話

「ずいぶんと兵達とも打ち解けたようだな」


「打ち解けたも何もただテントを張ってただけだぞ」


同行してきた兵士達は平民出身者が多く、テント作りを終える頃にはジークは兵士達と気兼ねする事無く、会話を交わしている。

その様子にラースは感心したように言うが、当の本人であるジーク自身は気にしてもいないようで首を傾げた。


「偵察とは言え、魔族と戦闘になるかも知れないからな。重苦しい物があると思ったが、小僧や小娘に同行して貰って正解だったな」


「……おっさん、それは私の事をバカにしてる?」


ラースは魔族と言う恐怖に対して兵士達の精神状態を心配していたようで、ジーク達がいる事で良い意味で緊張感がほぐれていると笑う。

その時、食事の準備を終えたようでフィーナが食事を運んできたのだが、2人の会話に自分の事をバカにされたと判断したのか額には青筋が浮かび上がり始める。


「別にそんなつもりはないが、野営になれた者がいるだけで気持ちは楽になるからな。むしろ、助かっていると言う事だ」


「楽になるって、緊張を解きすぎるのも良くはないだろ? ……あそこまで警戒するのもどうかと思うけど」


「……本当にお前達は何がしたいんだ? なぜ、あそこまでおかしな空気になるんだ?」


彼女の反応にラースは1つ咳をすると誉めていると伝え、フィーナは気を良くしたのか食事をジークとラースに渡して配膳に戻って行く。

ジークは、兵士が警戒心を緩める事は良い事だと思えないようでため息を吐くとフィーナがアノスに食事を渡しているのが目に映る。

2人の間には妙な緊張感が流れており、食事に毒でも盛られているのではないかとアノスが考えている事は見て取れ、ジークとラースは顔を見合わせた後、力なく笑う。


「おっさん、アノスはどうなんだ? テント作りには協力してたけど、騎士だからか、イオリア家の子息だからかわからないけど、あいつ、見るからに浮いてるだろ?」


「心配か? 小僧はアノスを嫌っていると思ったんだがな」


「別に俺は嫌ってはいない。と言うか、嫌うまで付き合いも長くないからな……美味い」


フィーナはアノスの様子に眉間にしわを寄せるが、アノスにかかわっていたくないようで配膳の続きを行う。

アノスは食事を警戒しながらも、空腹には耐え切れなかったようで食事に口を付ける。

ジークはその姿に苦笑いを浮かべた後、アノスが自分から他の兵士達と話しているのをあまり見ておらず、気になったようで首を捻った。

ラースはジークとアノスの間はあまり上手く行っていないと思っていたようでその言葉に驚いたような表情を見せるが、ジークはラースの言葉を否定すると夕飯を口に運んだ。


「うむ……ノエルやフィアナが手伝っているからな」


「おっさん、フィーナに聞かれると面倒な事になるぞ」


「そうだな。気をつけよう」


ラースも食事に口を付けると思っていたより、美味かったようで小さく頷く。

その時にフィーナの手柄ではないと思ったようで小さな声でつぶやくとジークの耳にはその声がしっかりと届いており、ラースにフィーナに聞かれないように言う。


「それで、どうなんだ?」


「そうだな。やはり、浮いてはいるな。剣の腕は幼い頃から、オクスを師事していたようで同世代で言えばかなりのものだ」


「……かなりのもの?」


食事を続けながら、ジークはアノスに付いて聞く。

ラースは少し考えるようなそぶりをすると、彼の叔父であるオクスを剣の師として幼い頃から剣の腕を磨いていたと言う。

しかし、ジークは何度かアノスが剣を振るう姿を見ている事もあり、信じられないようで首を捻った。


「そう言うな。剣を師事した叔父は認められなかった。それには様々な理由もあるだろう。ただ、アノスはそれに納得が行っていないらしい」


「納得いっていない?」


「……以前に話しただろう。オクスには才があった。いや、才はある。信じているのはワシだけでないと言う事だ。アノスは考えているのだ。オクスがイオリア家を離れてから、全てを失ったのは誰のせいかを。そして、あ奴の中ではオクスの邪魔をしたのは自分の父親ではないかと疑っている。それが騎士としての本懐をとげるより、騎士の地位が欲しいだけのイオリア家なら自分が変えると」


ラースが見るアノスは尊敬していた叔父を嵌めた人間へ対する復讐も含まれている。

正当な評価をされなかった叔父のために地位を金で買っているとバカにされているイオリア家を変えるために動いている。

ジークはその言葉でアノスがからまわっているとしか思えないようで頭をかく。


「……もっと、誰かを頼れないものかな?」


「難しいだろう。アノスには本音をぶつけられるような者はいないだろうからな。あ奴の本音を引き出せるものがいれば良いのだが」


「本人が何も言わないなら、俺は知らない」


ジークの目に映るアノスは後ろ盾を得て、根回しをして父親を失脚させるような事はできない。

ラースはイオリア家がアノスの代で変わってくれると願っているようで応援したいようであり、ジークにアノスを補佐して欲しいと意味を込めて視線を向けた。

ジークは自分の事で手一杯だと言いたいようでため息を吐くが、ラースはジークがアノスの心内を知って見捨てる事などできないと思っているようで口元を緩ませる。


「……と言うか、おっさんが手伝えよ。今はおっさんの下で学んでいるんだろ? それを教えるのも仕事だろ」


「小僧、お主も知っているだろう? ワシはそのような事にはむかん。それに裏工作などはあ奴は望まないだろう?」


「それは、そうだけど……最近はおっさんもそう言うのができるんじゃないかって思ってきたんだよな」


ラースの表情にジークは眉間にしわを寄せると自分でやれと言う。

ジークはそっぽを向こうとするが、ラースが裏工作などできるとも思っていないようでもう1度、アノスへと視線を向けた。

アノスは誰も寄せ付ける事無く、1人で食事を続けており、その様子に放って置けなくなったのか1度、頭をかいた後、食事を持ってアノスの元に歩き出す。


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