第647話
「ジークさん、アノスさん、お帰りなさい」
「何かわかったか?」
「……おっさん、暑苦しい」
ジークとアノスが兵士達の休んでいた場所に戻るとフィアナが笑顔で出迎える。
遅れてラースが顔を出し、何か使える情報が出たのかと2人に詰め寄り、ジークはため息を吐くとラースから距離を取った。
「何かわかったんですか?」
「……時間の無駄だった」
「そうでもない」
ラースから逃げるジークの様子にフィアナはジークからは話が聞けないと思ったようでアノスに宿場町での事を聞く。
アノスは後ろに余計な人間が付いてきているため、無駄な事をしたと言い切ると自分の騎士鎧をまとい始めるが、ジークは収穫があったと言いたいのかにやりと笑う。
「あれで何がわかったと言うんだ?」
「森を探索したやつがいた。そして、そいつらは何もないって言って回ってた。そして、俺達が森にある魔族の集落の話をしたら、こちらの様子をうかがうように後をつけてきている」
「あ、後をつけられているんですか? ……誰もいませんよ」
アノスはジークが無駄な時間をつぶしたと言いたくなかっただけと判断したようで彼の事を鼻で笑う。
ジークはやってきた事実だけを話すとフィアナは慌てて周囲を見回すが彼女にはジークとアノスをつけてきた人間を見つけられないようで首を捻る。
「……後をつけられた上で、そのままにしてきたか?」
「追い払う必要性を感じなかったからな」
「……血が繋がっていなくても、狐の弟と見るべきか? トリスの血と見るべきか?」
フィアナとは違いラースは何かを感じ取ったようであり、ジークへと鋭い視線を向けた。
ジークは何かをはぐらかすようにとぼけた感じで言うとラースは彼の物言いに何か考える事があるのか小さくため息を吐く。
「わけのわからない事を言うな」
「あの、ジークさん、後をつけられていたんですよね? どうして、そんなに落ち着いているんですか?」
「相手がボンクラだからかな?」
ラースの言葉に大きく肩を落とすジーク。
フィアナはきょろきょろと周囲へと視線を向けているが、追跡者の事は見つけられないようで不安になってきたのかジークの服を引っ張る。
彼女の反応にジークは何ともないと言いたいのか笑顔で追跡者の事を見下す。
「……油断をすると足元をすくわれるぞ」
「わかってる。とりあえず、今は仕掛けてこないと思う。このまま後をつけてくるか様子をうかがう必要がある。もしかしたら、森の中で仲間が待ち構えてる可能性も高いからな」
「うむ。わかっているなら良いのだ」
ラースはジークに気を抜くなと言い、ジークは口で言うほど相手を甘く見ていないようであり、視線を鋭くすると追跡者の行動からこれから先の事を見定めるつもりだと答えた。
ジークが状況を理解している事にラースは満足そうに頷くがアノスは忌々しそうに舌打ちをしている。
「あの、ジークさん、どういう事なんですか?」
「この森を俺達が来る前に見て回ってる奴らは、この森には何もないって言って回ってた。素直に受け取れば、何もなかったで終わりだけどな。ひねくれて受け取れば、森に近づいて欲しくない奴がいる。俺達より先に魔族を倒して地位や名声を手に入れたい奴か? はたまた、俺達を亡き者にしたい奴か? どっちだろうな?」
「な、亡き者って、私達はワームの人達が安全に生活できるか調べに行くんですよね?」
フィアナは良く分かっていないようで首を捻っており、ジークは苦笑いを浮かべながら考えられる可能性について話す。
彼の言葉にフィアナは少し考えると人族と戦闘になる事からは目をそらしたいようで、その場にいたジーク、ラース、アノスの3人に聞くがジークとラースは首を横に振り、アノスは答える義理はないと思っているのか反応すらしない。
「……あの」
「俺が人族の方が怖いって言った理由。フィアナはシギル村が巻き込まれたんだから、もっと警戒してくれ。冒険者を続けるなら、警戒心を持つのも大切だと思うぞ」
「そうだな。いつも小僧達のようにお人好しばかりではないだろうからな」
人族との戦闘に一気に不安になったのかフィアナは不安を脱ぎ払って欲しいのかジークとラースを見る。
しかし、2人は現実的なため、帰ってきた言葉は厳しく、フィアナは小さく身体を縮めた。
「フィアナの事は才能あるって言ってる奴がいるからな。お人好しなところを利用されて悪事に加担させられるのは勘弁してくれよ」
「さ、才能ですか? 私にそんなものはないですよ!?」
「そう言ってるのは本人だけだと思うけどな。少なくとも俺はフィアナの事は頼りになると思ってるぞ」
自信なさげなフィアナの様子にジークは彼女を励ますように肩を叩く。
フィアナはジークにそんな事を言われると思っていなかったようで慌てて首を振るが、ジークは嘘など吐いていないと言いたいのかくすりと笑い、ラースも同感だと言いたいのか大きく頷いた。
2人に褒められ、フィアナはどんな反応をして良いのか顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「ジーク、戻って来たの?」
「ああ、ノエルとレギアス様の体調は戻ったか?」
「はい。ご迷惑をかけてしまい。申し訳ありません」
真っ赤になってうつむいているフィアナを見てジークが苦笑いを浮かべていると、体調が戻ったのかノエルとフィーナが馬車から降りてくる。
ジークはノエルの体調を気にするとノエルは迷惑をかけてしまった事に頭を下げた。
ノエルはジーク達だけではなく、同行していた兵士達にも頭を下げ始め、彼女の姿を見た兵士達の表情は綻んで行く。
「……小僧、落ち着け」
「俺は落ち着いてる。それでレギアス様は?」
「まだダメみたいよ。そこでぐったりしてるわ」
彼女のノエルに他の男達から向けられる視線にラースはジークが独占欲を出すと思ったようで声をかける。
ジークはまったく気にした様子はなく、フィーナにレギアスの様子を聞くと彼女は木陰で休んでいるレギアスを指差す。
「……回復力は体力より、若さか?」
「言ってやるな。レギアス、そろそろ行くぞ。あまり時間はかけられないからな」
ジークは伯父であるレギアスがぐったりしたままだと知り、眉間員しわを寄せるとラースは苦笑いを浮かべるがこれ以上は休んでいる時間はないと判断したようでレギアスに声をかけ、兵士達に指示を出す。