第642話
「はいはい。今回、協力してくれているのは師匠とコッシュだけじゃなくて他にも魔術学園の生徒が全面的に協力してくれていたりする」
「……全面的?」
「あの、どうして、魔術学園の生徒達が全面的に協力してくれる事になったんですか?」
カインの使い魔の口から伝えられたのは魔術学園からの全面的なバックアップであり、どうしてそのような状況になったのかわからないジークとシュミットの眉間にはしわを寄る。
ノエルは純粋に魔術学園が協力してくれるのは心強いと思ったようだが、協力してくれるに至った過程が知りたいようで遠慮がちに手を挙げた。
「俺達はルッケルの生物巨大化の件や今回のルッケルの遺跡の件でレギアス様から援助を受けている。そんな中で援助打ち切りは困るのが1つ、フィリム教授は個人的な付き合いもあるからな」
「レギアス様、流石ね……」
「……わかった。ワームから援助を出すのは無理でも私個人で出せないか、後は国王と父上に調査資金を増やせないか進言してみよう」
フィリムは興味なさそうにしており、コッシュはレギアスから魔術学園が援助を受けている事を話す。
フィーナはレギアスの功績に臣下にだけ、援助を指せるのかと言う視線をシュミットに向け、シュミットはフィーナに催促される意味がわからないようだが、ルッケルの事を考えれば必要だと思ったようでやれる事があるなら考えて置こうと頷いた。
「後は先日の新米騎士の暴走は裏で糸を引いている人間がいるのは明らかだ。その中にはガートランド商会が入っているだろうからな。そして、ガートランド商会とギムレットと言う男が繋がっているのはカイン先輩から聞いている。あいつらは魔術学園にとっては目障りだ」
「……繋がりって見えるのか?」
「見えなくても予想は付く。使い方がわからなくても遺跡から見つかったものと言うだけで高額で引き取る物好きはいる。遺跡の前に魔術学園の研究者がいるのは邪魔だからな」
先日の新米騎士の名誉欲への欲求を後押しした者がいるのは明らかのようでコッシュはあの時の裏にいたのはガートランド商会だと言う。
ジークは純粋に新米騎士の暴走だと思っていたようで頭をかくとコッシュは遺跡の中の物が狙われている可能性がある事を伝える。
「今回は魔術学園が見つけた遺跡だから、魔術学園の研究対象でもあるんだよね。それを取り上げたい人間は金に汚い人間だからね。自然に繋がって見える」
「ねえ。そんな状況なら、アノスとか言う奴を偵察部隊に同行させて良いの? いつ、裏切るかわからないでしょ」
「ほら、その時は人目につかない所で処分しちゃえば良いから」
暴走した新米騎士達の家はガートランド商会と繋がっている家も多く、カインは苦笑いを浮かべた。
フィーナはエルトに許されたとは言え、アノスを信用していない事もあり、彼の同行に反対の意思を見せるとカインは軽い調子でその時は殺せと笑う。
その言葉に迷う事無くフィーナは頷き、コッシュはアノスなど信じるに値しないと思っているため、フィーナを応援するように彼女の肩を叩いた。
「ダ、ダメですよ!? アノスさんを信じましょうよ」
「……どうして、お前達兄妹はそんなに物騒なんだ?」
「物騒かどうかは置いておいてね。実際は頭に入れておく事は悪い事じゃないよ。信用するのは勝手だけど、それは油断に繋がるからね。油断は慢心を生み、それに気が付いた時には手遅れになる事だってある」
ノエルは物騒な事を言う2人の考えを訂正して欲しいようで声を上げ、ジークは大きく肩を落とす。
カインはアノスが裏切る可能性も頭に入れておく事は必要な事だと言い、シュミットも同感であるようで大きく頷いた。
「……信用し過ぎるのは危険だよな」
「そうね」
「ジーク、フィーナ、それはどう言う意味かな?」
ジークとフィーナは背後からカインにいつ刺されてもおかしくないと思っているようで大きく頷くと、カインの使い魔である小鳥からは威圧感のある声が発せられると同時にそのくちばしはジークとフィーナの額に突き刺さる。
2人は悶絶して床を転げまわるが、カインの使い魔は2人を見下ろす。
「……先輩相手だから仕方ない」
「あ、あの、カインさんは魔術学園でもあの調子なんですか?」
「……魔術学園が誇る天才は天災とも言われているからな」
コッシュは3人のやり取りにため息を吐くとノエルは苦笑いを浮かべた。
カインの悪名は魔術学園でも広がっているようであり、コッシュはもう1度、ため息を吐く。
「……カイン=クローク、出発まで時間がないんだ。早くしてくれないか?」
「そうですね。使い魔を使用できる魔術学園の生徒達に強欲爺の屋敷を常に監視させています。情報を処理する人間がシュミット様のそばに必要だと思いますから、コッシュ=アモンドをしばらくの間、そばに置いてください。魔法の腕や処理能力の高さは私が保証します。ただ、口が悪いのが難点です」
「口が悪いのはジークやフィーナで慣れているから、何も問題はないが」
シュミットはこのままだと話がいつまでも終わらないと思ったようで強引に話を戻そうとする。
カインは1つ咳をついた後、ギムレットへの警戒のためにコッシュをシュミットにしばらくの間、そばに置いて欲しいと言う。
コッシュはシュミットに向かい頭を下げるとシュミットは彼女を見極めるような視線を向けた。
「……それはどういう意味だ?」
「そのままじゃないかな? 師匠には魔術学園が全面協力と言う事を知って貰うのに同行していただきました。師匠はこの後、研究に戻ります」
悶えながらも話は聞こえていたようでジークは額を押さえながら立ち上がる。
カインは気にする事は無く、シュミットにフィリムには現場を期待していないようで王都に戻ってしまう事を伝えた。
「そうか……フィリム=アイ教授、コッシュ=アモンド、協力、感謝する。しばらくは大変だと思うがよろしく頼む」
「こちらこそ。頼むが、俺も生物学的には女に分類されるからな。見定めるような目は止めろ」
「気をつけよう」
シュミットはコッシュを信頼しようと思ったようで小さく頷いた後、協力に対して礼を言う。
フィリムは無反応のためかコッシュが代表して頭を下げるがシュミットの先ほどの視線は気になったようであり、注意するとシュミットは困ったように笑った。