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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ジーク=フィリス
640/953

第640話

「……偵察部隊って言うけど、これ、戦争する気じゃないよな?」


シュミットに指定された日の朝にワームに訪れたジーク、ノエル、フィーナの3人は集合場所に集められた兵士達の人数を見て眉間にしわを寄せた。

騎士鎧に身を包んだ者がラースとアノスを含めた5人、ワームの警備兵らしき者が20人ほど、出発の準備をしている。


「来たか」


「ちょっと、私達って本当に様子を見に行くだけよね? 私達は戦わないわよ」


「……わかっている。それに噂では集落にはゴブリンとリザードマンが合わせて200人ほどいるようだからな。この人数では正直、戦える気もしない。危険なら撤退するように指示を出してある。ジーク、ラースが熱くなりすぎたら、魔導銃で頭を冷やせ」


シュミット自ら先頭に立ち、積み荷の指示を出しており、3人を見つけて声をかけた。

フィーナはゴブリン族とリザードマン族とは親交もあるため、先頭などする気はなく、唇を尖らせながら聞く。

彼女の言葉にシュミットは手にしている噂から、戦うのは無理と判断しているようで撤退を念頭に入れておくように釘を刺す。


「……だから、魔導銃こいつはツッコミ用じゃないって言ってるだろ」


「だとしても、使える道具なら、使わなければもったいないだろう」


「確かにそうかも知れないけど、納得が行かない」


冷気の魔導銃の扱われ方に納得が行かないのかジークは大きく肩を落とす。

しかし、シュミットは冷気の魔導銃に正当な評価をしていると言いたいようで迷う事無く言い切った。


「……もう良い。それで後どれくらいで出発できそうなんだ? ちょっと話があるんだけど」


「まだしばらくかかるが、どうかしたか?」


「ちょっと、カインから伝えておいて欲しいって言われた事があるんだよ」


ジークはあまり他の人間に話を聞かせたくないのか、シュミットに時間が取れないかと聞く。

シュミットは時間がないようでその表情は難色を示すがカインの名を聞き、小さく頷いた。


「レギアスとラースを呼ぶ必要はあるか?」


「呼ばなくても良い。レギアス様はまだしもおっさんがいると騒がしくなりそうだから」


「そうか? それでどこに行けば良いんだ?」


ラースとレギアスを呼ぼうとするシュミットだが、ジークは彼を止める。

シュミットは了解だと言いたいのか、話をする場所に案内するように言うとジークは彼を先導するように近くにある冒険者の店に歩き出す。


「……冒険者の店か?」


「内緒話をするのにはちょうど良いんだよ。この場所は腕ききもいるし、信頼関係で成り立つ仕事でもあるから、盗み聞きにも警戒できる」


「金さえ払えば、何でもすると言うイメージがあるんだがな」


シュミットが冒険者の店に入るとホールで酒や食事を楽しんでいた冒険者達の視線は彼に向けられるが、すぐに何事もなかったかのように視線が戻って行く。

ジークは店主に部屋を借りるとついて来いと言いたいようで奥の部屋に向かって歩き出すが、シュミットの冒険者への印象はどこかジーク達とは違うようで難しそうな表情をしている。


「悪いね。私達にも雇い主を選ぶ権利はあるよ。この間のやつら見たく、使い捨てのコマにされたくはないからね」


「レーネさん、朝から飲んでいるんですか?」


「この間の報酬が思ったより、良かったからね。しばらくは楽しめるんだよね」


その時、木製のジョッキを手にしたセレーネがジーク達を見つけて声をかけてくる。

彼女はすでにかなりの量のお酒を飲んでいるようでノエルの肩に手を伸ばしてジョッキから酒を飲む。


「レーネさん、俺達、時間がないんですけど」


「わかってるよ。だけどね。あんまりいい顔してないみたいだから、言って置こうと思ってさ。冒険者わたしたちだって人だよ。国を動かしているやつらはそれもわからなくなる時があるみたいだからね。それを忘れないでくれれば、緊急時には冒険者わたしたちはあんたの力になるよ。少なくともギムレットあっち側よりはあんた側の方が良さそうだからね」


「わかった。肝に命じておこう」


ジークは酔っぱらいの相手などしたくないと言いたいのか大きく肩を落とす。

そんな彼の様子に口うるさいのがいると言いたげにセレーネため息を吐いた後、シュミットにいざと言う時には力になってやると言う。

それは先日のシギル村での事件でギムレットが裏で手を引いた悪事に彼女達は嫌悪感を抱いたと言う事であり、シュミットは彼女の言葉に大きく頷いた。


「安心しな。少なくともこの店には盗み聞きをして手に入れた情報を売ろうなんてバカなマネをする奴らはいないよ」


「そうか。それなら、店主、少なくて悪いが、ここに居る者達に1杯、奢ってやってくれ」


「金払いの良い男は嫌いじゃないよ」


シュミットの言動に満足したのかセレーネは口元を緩ませて言う。

彼女の表情にシュミットは釣られるように笑うとカウンターの中にいる店主の前に数枚の金貨を置く。

金貨は1枚でも普段平民達が使用する通貨の何倍もの価値があり、この場にいる冒険者達の酒代には充分すぎるものである。

セレーネはシュミットの行動に驚いたような表情をするものの、すぐに表情を戻すとイタズラな笑みを浮かべた。


「それは光栄だな」


「……なんか、悪役みたいね。と言うか、この小者臭は消えないわね」


「小者とは言わないけど、良いのか? 結構、今回の件で出費も大きいんだろう? シギル村への援助もあるし、大丈夫なのか?」


フィーナはシュミットとセレーネの間に流れる空気に悪事を働いているとしか思えなかったようで微妙な表情をする。

ジークは苦笑いを浮かべると兵を動かすのに出費も大きいと聞いていたためか、不安を覚えたようでシュミットに向かい聞く。


「必要な経費だ。それでも心配だと言うなら、セス=コーラッドをしばらく貸してくれ。カルディナにも手伝わせてはいるのだが、大雑把なところも目立つからな」


「……いや、セスさんにワームのお金管理までさせるとセスさん、過労死するから」


「フォルムだけでも大変そうですからね」


シュミットは冒険者達との縁を深める事が後々のために良策と判断したようであり、気にする必要はないと言うが優秀な人材は欲しいようである。

その言葉にジークとノエルはいつも忙しそうにしているセスの顔を思い浮かべたようで苦笑いを浮かべると首を横に振った。


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