第64話
「ジークさん、鉱山って遠いんですか?」
「ん? そうだな。今から行って、日帰りで帰って来れる距離じゃないな。馬があれば行けるかも知れないけど……まぁ、馬は無理だよな」
ノエルは鉱山に行くと決まりはしたが、あまり土地勘がないため、どのくらいの時間がかかるかわからずに首を傾げる。ジークはそんなノエルの様子に苦笑いを浮かべると馬を借りようとも思ったのだが、ノエルが絶対に馬に乗れないと思ったようで視線を逸らした。
「あ、あの。ジークさん、それはどう言う意味でしょうか?」
「……まぁ、人には向き、不向きがあるよな」
ノエルはジークが視線を逸らした理由がわからないようであるが、ジークはいろいろと諦めているのか彼の視線は生温かいくらいに優しい。
「と言う事で、ノエルの体力も考えると朝から行って、鉱山の下の宿場町で一泊ってところだな……結構、出費がでかいな」
「す、すいません」
ジークはノエルの体力を考えたようで大きく肩を落とすと、ノエルは彼のため息の意味を察したようで慌てて頭を下げる。
「まぁ、今日は河原にも行ってるし、休憩は必要だしな」
「そうなんですか?」
「あぁ。それにシルドさんの店でも言ったけど、荷物もあるから、今日は準備をして、朝から出発。ノエルは悪いんだけど、店番してて貰えるか? 在庫の少ない薬品の調合もするからさ」
ジークは出発を翌朝に決めると鉱山で売れそうな商品の準備のための調合を行うと言う。
「はい。わかりました」
「それじゃあ、よろしく」
「あれ? ジークにノエルちゃん、まだ、こんなところにいるのかい?」
ノエルの返事にジークはくすりと笑った時、村のお年寄りの4人が店が開いている事が不思議なようでドアを開けるなり、首を傾げた。
「まだ? 今日はもうどこも出かける気はないけど、明日は朝から鉱山に顔を出してくるから、明日、明後日は休みにする予定だから、みんなに話して置いて」
「そうなのかい? フィーナが村を1人で村を出て行ったから、ジークとノエルちゃんの一緒だと思ったんだけどね」
ジークは他の人達にも留守にする事を伝えて欲しいと伝えるとお年寄り達の口からはフィーナが1人で村を出て行った事を教えられる。
「……」
「ジークさん、フィーナさんはどうしたんでしょうか?」
ジークはフィーナが何を考えているか理解したようで眉間にしわを寄せるとノエルはフィーナの事が心配のようでジークの服をつかむ。
「……あいつは」
「何だい? ジーク、フィーナにきつい事でも言ったのかい?」
「常識を教えただけだよ。村の人間がフィーナを甘やかすから、こんな事になってるのに誰1人として、あいつに注意も何もしないだろ」
「仕方ないでしょ。フィーナもジークもみんなの孫みたいなものだからね」
ジークはフィーナがわがままなのは村の人間のせいだとため息を吐くがお年寄り達は自分達は悪くないと言いたげである。
「……そう思うなら、きちんと叱ってくれよ。甘やかすだけだから、って、人が話をしているのに商品を持っていくな!?」
「フィーナを叱るのはジークの仕事だよ。頑張んなよ。お兄ちゃん」
ジークはお年寄り達に言い聞かせようとするが、その途中でお年寄り達は商品を手にすると店から逃げ出して行く。
「ジ、ジークさん?」
「……もう良い。ノエル、悪いんだけど」
「はい。フィーナさんを追いかけましょう」
ジークはお年寄り達の行動に額に青筋をたてており、ノエルは遠慮がちに彼の名前を呼ぶ。ジークはノエルに当たるわけにもいかないため、大きく深呼吸をするとノエルにフィーナを追いかけると言い、ノエルは大きく頷く。