第637話
「……」
「……」
シュミットの説明が終わると気を失っていたジークがタイミングよく目を覚ます。
目を覚ましたジークはレギアスと目が合い、2人の間には微妙な沈黙が流れた後、お互いに視線をそらした。
「あ、あの、ジークさん、レギアス様?」
「……なんでもない。ノエルは気にしなくて良い」
「気にしなくて良いじゃないでしょ。このおかしな空気をどうにかしなさいよ」
ノエルは2人の様子に心配そうに声をかけるが、ジークは極力、レギアスと話をするのを避けたいようで首を横に振る。
そんな彼のなさけない様子にフィーナはため息を吐くとジークの顔を無理やり、レギアスの方へ向かせた。
「……」
「……」
「……レギアス、お主も何をしているのだ?」
再度、流れる微妙な沈黙にラースは大きく肩を落とすとレギアスの肩を叩く。
「……何なのよ?」
「う、うむ。すまないな。シュミット様も情けない姿を見せてしまい。申し訳ありません」
「私はかまわんが、今のままにして3日後の任務に影響が出るのは止めてくれ」
レギアスの調子にどうして良いのかわからずに苛立ってきたのか乱暴に頭をかくフィーナ。
彼女の様子にレギアスは申し訳なさそうに謝罪をするとシュミットはレギアスまでジークと同じ状況になっている事に不安を覚えたようで大きなため息を吐いた。
「めんどくさいわね。レギアス様、なんで、ジークに関係を隠してたのよ? 最初に言ってれば、ここまで、微妙な空気にもならなかったでしょ?」
「小娘、その事については」
「おっさん、黙ってなさいよ。今、私達は巻き込まれてるの。知る権利があるわ。だいたい、おっさんだって、知ってて黙ってたんでしょ。同罪よ」
我慢の限界が来たようでフィーナはレギアスに納得のいく説明を求める。
ラースはレギアスがどうしてジークに何も語っていなかったか知っているようで彼女を止めようと止めようとするがフィーナはラースを同罪だと切り捨てた。
彼女の言葉にラースも若干の気まずさがあるのかバツが悪そうに鼻先を指でかく。
「……確かにおっさんは知ってて、俺を笑いものにしていたんだよな?」
「ジーク、それは卑屈になりすぎではないですか?」
「そ、そうですよ。レギアス様が何も言ってくれていないんですから、ラース様が何かを言うわけにはいきませんよ」
ジークはラースに小バカにされていたと思ったようで自虐的な笑みを浮かべ、カルディナはジークのあまりの言い分に大きく肩を落とした。
ノエルは慌てて、ラースのフォローに入り、ジークをなだめようとする。
ジークは納得が行かない表情をしているが、自分が理不尽な事を行ったと言う自覚はあるようで言葉を飲み込んだ。
「……レギアス、このままではどうしようもないだろう。この場でジークと話をするか、この後に2人で話をするか選べ。私もいつまでも家族間の事にかかわっていられるほど時間はないのからな」
「そうですね」
シュミットは多忙な事もあり、彼の目的は達成されているため、後は当人同士の問題だとレギアスを促す。
レギアスは主君を困らせるわけにも行かないためか、小さく頷くと話し始めようとするが、言葉が出てこないようである。
「ラース、話せ。このままでは時間が過ぎるだけだ」
「……わかりました」
シュミットはレギアスの様子にため息を吐いた後、ラースへと矛先を変える。
ラースは1度、レギアスへと視線を向けて、視線を合わせた後、小さく頷いた。
「レギアスが小僧に伯父だと言う事を隠していたのは、まずはギムレット殿からその身を隠したかったため、ギムレット殿はレギアスの弟で小僧の両親であるトリスとルミナに執着していたからな」
「ジークさんのお母さんにもですか?」
「……子供と同じくらいの娘に手を出そうとしたの? ジーク、あんたの爺さん、やっぱり、人として終わってるわ」
祖父であるギムレットがトリスに執着していた事はジーク達も知っていたのだが、ラースはギムレットが追っているのは母親であるルミナもだと聞かされる。
首を捻るノエルに対して、フィーナはギムレットが特殊な性癖を持っていると思ったようで、彼の孫になるジークに向かって憐れんだような視線を向けた。
ジークは直接的な面識はないにしても祖父が変態だと言う事にショックが隠せないようで眉間にはくっきりとしたしわが寄る。
「……お前達は真面目に話を聞く気はあるのか?」
「悪かったよ。続けてくれ」
ラースはギムレットを変態と決めつけるジークとフィーナの様子に話をおかしな方向に持って行くなと言いたいようで大きく肩を落とした。
ジークはバツが悪そうにラースから視線をそらすと反省しているのか謝り、続きを話して欲しいと頼む。
「ギムレット殿が求めていたのはルミナではない。ルミナの利用価値だ」
「……利用価値? ジーク、アリア殿の夫、お前の祖父に何かあるのか?」
「いや、会った事ないから知らない」
ラースは続きを話し始めるが、彼の言葉にシュミットは何かが引っかかったようでジークにもう1人の祖父の事を聞く。
ジークが物心ついたころには祖父の姿はなかったため、首を横に振ると幼馴染であるフィーナへと視線を向けた。
しかし、彼女も同じようにジークの祖父の事は何も知らないため、首を横に振るだけである。
「わからないか? ラース、レギアス、お前達はジークの祖父が何者か知っているのか?」
「知りません。以前、調べようとしたことがありましたが、止められました」
「……そう言えば、ラング様は何か知ってそうだったよな?」
シュミットはラースとレギアスにも聞くが、何かの圧力がかかりとん挫したようで首を横に振った。
ジークは以前にアリアの事でラングと話した時の事を思い出す。
彼の口ぶりから、ラングが何かを知っている事は容易に想像がつくが追及するわけにも行かない事や今の問題は目の前にいるレギアスの事であり、それ以上、何かを言う事はない。
「父上か? ……話を聞くのは難しそうだな」
「何でよ? 知ってる人間がいるんだから、聞けるでしょ?」
「利用価値があると言うんだ。調べて何が出てくるかはわからないからな。それにこちらの動きが多くなればギムレットにジークの存在が見つかる可能性が高い。今はその時でもないだろう」
今は詮索する時期でもないと感じ取ったようでシュミットは小さな声で言う。
フィーナは彼の出した答えに納得が行かないのか声を上げるが、シュミットには彼の考えがあるため、ギムレットの名前を出して彼女を抑えつける。
フィーナは納得が行かなさそうではあるが、問題が多すぎては対処できない事もわかっているのか不機嫌そうな表情で頷いた。