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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ジーク=フィリス
635/953

第635話

「……ひどい目に遭った」


「ひどい目と言うものを他人に勧めるな」


「まったくね」


栄養剤を無理やり飲まされたジークはフィーナを睨み付ける。

その姿にシュミットは眉間にしわを寄せ、フィーナは大きく肩を落とす。


「……味の改良は必要だな」


「そんな事、昔からわかっていた事ではありませんか? それより、シュミット様」


2人の様子にジークは舌打ちをするとこんな事に2度とならないようにしたいのか栄養剤の改善を考え始めたようで小さな声でつぶやく。

カルディナは呆れたようにため息を吐くとジークがいつもの様子に戻ったと思ったのかシュミットに本題に移るように進言する。


「そうだな。ジーク、お前達を呼び出したのは協力して欲しい事があったんだ」


「協力ですか?」


「ああ。以前にワーム周辺に魔族が出たと言う話を聞いた事はないか?」


シュミットは1度、頷くと表情を引き締め、本題に移った。

彼の口から出たのはおそらく、ゼイがギドを助けるためにジオスまで向かった時の事であり、ジーク、ノエル、フィーナの顔つきは変わる。


「あんなの噂だろ。ジオスにも冒険者が多く来たけど現に噂が出た後には何もなかったし」


「そう思いたいが、そうも言いきれなくて困っていてな。以前のはあの後に何事もなかった事もあり、噂として風化して行くと思ったんだが、最近、また、ゴブリンとリザードマンを見かけたと言う噂話がワームに広がっている」


「そ、そうなんですか?」


ジークはただの噂だと言い切るが、シュミットには多くの目撃情報が届いているようで険しい表情で首を横に振った。

ノエルは彼の様子に滑りそうになった口を押えると深呼吸をした後、噂の真意を聞きたいようでシュミットへと視線を向ける。


「ああ、今回は具体的に目撃情報があってな。それと以前、王都で噂になっていたアンリ様の体調不良の原因は魔族の呪いだと言う噂も重なって、先日の件で発言力を失った者達が活気づいている。魔族を討伐すれば復権する事ができるのではないかとな」


「別に目撃情報があったって揉めてるわけじゃないんだから。そのままでも良いでしょ。わざわざ探して、戦う必要なんてないわ。意味がわからない」


「そうだな。駆逐も1つの手段だが、争いが起きないのであればそのままにしておきたいと言うのもある。軍備を整えて討伐隊を出すには正直、予算が足りない。それにワームの兵達を動かすと良からぬ事を考えるものもいるだろうから、多くの兵は動かしたくない。だが、そう言うわけにもいかない」


「どうしてですか?」


フィーナは人族側から事を荒立てる必要などないと呆れたようにため息を吐く。

シュミットは以前の人気取りの時とは違う考えがあるのか、1度、頷くがやはり領主として不安要素である魔族をそのままにできないと言う想いもあるようでその表情は険しいままである。

ノエルは交流もあるゴブリンとリザードマンを危険な目に遭わせるわけにも行かないため、シュミットに理由を聞く。


「領民の声ですわ。自分達が住んでいる場所の周辺に魔族がいると思うと不安を感じられずにはいられませんから、それにアンリ様の事もあるので魔族を殺してアンリ様の体調が戻るなら、魔族は駆逐するべきだと煽る人間もいますから」


「それが抑えきれなくなっていると言う事か?」


「そうだ。それで、こちらとしてもソーマ=ゼリグリムやセレーネ達に協力して貰って情報や噂の真意を確かめようとしているのだが、情報戦では正直、遅れをとっているのが現状だ」


領主として領地運営を続けて行く上で民意をないがしろには出来ないとカルディナは大きく肩を落とす。

シュミットはどうするか考えるのに情報を集めたいようだが、上手く行っていないようであり、眉間のしわはさらに険しくなって行く。


「シュミット様の元に届いている魔族の噂ってのはどんな形なんだ? 目撃情報は少数か?」


「……集落があるのではないかと言う話だ。それもゴブリンとリザードマンは争いをしているわけではないと協力体制をとっているとなると人族に対して戦争も考えている可能性が高い」


「そうとは限りませんよ。平和に協力して暮らしていると言う可能性だって」


ジークは目撃されているのがギド達の集落か確認をしようとする。

シュミットは目撃情報をどうして良いのかわからないようで大きくため息を吐くと1度、ソファーから立ちあがり、書斎の机に向かって歩く。

ノエルは彼の背中を見ながら、魔族は争いなど考えていないと言うが魔族への偏見を持っているであろうシュミットをどう説得して良いのかわからないようで顔を伏せてしまう。


「その可能性も否定はできない。集落を築いていると考えれば優秀なリーダーがいると考えられる。しかし、それは同時に優秀な指揮官がいるともとらえられる」


「……そうなるわね」


「目撃情報が多いのはこの辺りだな」


シュミットはワーム周辺の地図を持ってきたようでソファーの前にあるテーブルに広げながら考えられる危険性を示唆する。

フィーナはどこかでシュミットがギド達の集落以外を指差す事を期待しているが、シュミットの指は無情にも交流がある魔族達が集落を築いている場所を指す。


「……それで、俺達にはここに行って噂の真意を確かめて来いって言うのか?」


「そうして欲しいが、さすがにお前達だけを送るわけにはいかない。少数で送り出してしまうと何かあった時に困るからな。数日後にラースの指揮する部隊を送ろうと思っているその部隊に同行してくれないか?」


「おっさんの部隊? ……できれば全滅させて来いって事か?」


シュミットはラースを先遣隊として様子を見に行かせたいようであるが、ジークはシュミットが魔族討伐を考えていると判断したようで険しい表情をする。

ジークと同じ事をノエルとフィーナも思ったようでその表情は暗い。


「全滅は無理だろうな。それになるべく争いを起こしたくないのがこちらとしての本音だ。できれば話し合いができればお互いの落としどころも見つかるかも知れないからな。誰から聞いたかは忘れたが、ジーク、お前はゴブリンとリザードマンの言葉を覚えようとしていたのだろう。使ってみる時ではないか?」


「まぁ、俺は軍人でも冒険者でもないから、命乞いでもして逃げ切れるなら戦いたくないしな……シュミット様、ひょっとして全部知ってるのか?」


シュミットがジーク達を同行させるのには思惑があるのは彼の言葉でわかる。

ジークは彼の言葉でエルトから何かを聞かされている可能性があると思ったようで聞き返すとノエルとフィーナの視線はシュミットに向けられた。


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