第633話
「平和だ。やっぱり、平和が1番だよな」
「ジーク、現実逃避は止めた方が良いと思うよ」
「……もう少し時間をくれ」
ジークは暖かい日差しの中、ゆっくりとした時間が流れている事を強調している。
しかし、どうやら問題事は多々あるようでカインが苦笑いを浮かべながら現実を見るように言う。
ジークはカインから目をそらし、何かを覚悟する時間が欲しいと言うが時間を与える暇はないのか、カインは首を横に振る。
「いや、この現実は簡単に受け止められないと思うんだ」
「覚悟を決めなさい。まったく情けないですわ」
「そうよ。だいたい、後回しにしてたのは、あんたでしょ。さっさとレギアス様と話をしてきたら良いじゃない。ちょうど良い機会じゃない。レギアス様にはいろいろと世話になってるんだから関わらないで逃げ切る事なんかできないでしょ」
力なく笑うジークにカルディナは眉間にしわを寄せるが、フィーナはわりとどうでも良さそうに投げやり気味に言う。
ティミル、ラース経由でジークがレギアスの甥だと気が付いたのがシュミットとレギアスにばれたようであり、シュミットはジークを今より有効的に使う手段を考えるのにじっくりと話をしたいようである。
そのため、カルディナをフォルムに送って来たようだが、ジークは改めて、レギアスと顔を合わせるのは気まずいようで腰が引けている。
「確かにちょうど良いのかも知れないけど、ほら、ワームで話をすると爺さんにばれるかも知れないし、俺が行くのはまずいと思うんだ。そうだろ?」
「そこまで、ワームに行きたくないと言うなら、シュミット様とレギアス様を連れてきますわよ」
「待て!? だいたい、カルディナ様がティミル様に確認しなければまだ時間が稼げたんだ」
ジークは言い訳をして、何とか時期をずらそうとするがカルディナはジークの事を待っていられなくなったようでシュミットとレギアスをフォルムまで連れてくると言い、立ち上がる。
彼女の行動にジーク声を上げてカルディナを引き留めた。
「確かにあの時、信じなかった私も少しは悪いのかも知れませんが、人には好き勝手言うくせに何ですか? その体たらくは?」
「……仕方ないだろ。慣れてないんだから」
カルディナはジークに家族の事で好き勝手言われた経験もあるため、自分の時に腰が引けるのは許せないようである。
しかし、ジークの中では祖母であるアリア以外に家族はいないものとして生きていた事もあり、どう対応して良いのか線引きができていないようで視線をそらした。
「別に気にするほどの事でもないんじゃないでしょうか? ほら、レギアス様は最初からジークの事を甥だって知っていたわけですし、今更、何かを言う事はないんじゃないですか?」
「止めてください。笑われている気しかしません!?」
「別にレギアス様は笑うような人じゃないでしょ」
ミレットはジークが悩み過ぎだと苦笑いを浮かべて言うが、ジークは冷静になった時に今まで何も知らずにレギアスと話してきた事に負い目があるようで頭を抱えてしまう。
あまり見ないジークの姿にフィーナは呆れたのか大きく肩を落とした。
「……どうして、ジークはここまで嫌がるんですか?」
「やっぱり、慣れてないんだろうね。ジークは血の繋がりを感じた事ってあまりないだろうし、もうないと思っていた物がまだ残っていたとなるとね」
「いや、まだ、いるでしょ。おじさんとおばさんが」
セスはジークが頭を抱える理由が理解できないようでため息を吐くとカインは苦笑いを浮かべる。
フィーナは呆れたようにため息を吐くとジークの両親を挙げるがカインは首を横に振った。
「ジークの中では2人はいないものとなってるだろうからね」
「そうかも知れませんけど、それは少し悲しいです」
「悲しくてもね。ジーク自身で超えないといけないものだからね」
ジークのなかにある家族への憧れや憎しみにノエルはどうして良いのかわからずに表情を曇らせる。
カインは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとジークの成長の1つだと言う。その姿は純粋にジークの成長を楽しみにしている兄としての目線に見えた。
「そうですね。まずは両親の前に伯父、平和的な解決を考えればできれば祖父も乗り越えて貰いたいですから、最初は攻略しやすそうなレギアス様と話をするべきですわ」
「セスさん、落ち着こう。それとこれはきっと別問題だ。ほら、ここで俺とレギアス様の関係がばれるとエルト王子やライオ王子に知れるだろ。そうなると面倒になるぞ」
「シュミット様はエルト様とライオ様がおかしな事を考えるような情報は渡しません。それくらいの分別は付きます。すべて上に報告して判断を仰ぐ事しかできないような方ではありません」
カインの言葉からセスは彼がどこかでジークに判断を任せようとしているように感じたようでジークに向かい強く言う。
ジークは予想していなかったセスの攻撃にエルトやライオに巻き込まれると言い、セスを説得に移ろうとするが、セスはシュミットの評価をかなり上げているようで彼の言葉を一蹴する。
「くっ……」
「いい加減諦めなさいよ。あんただって、どう接して良いのかわからないかも知れないけど、関係がわかったのに会うのを拒否されてるレギアス様の気持ちも考えないさいよ」
「そうです。レギアス様はジークさんが真実を知るまで我慢していてくれていたんですから、早くレギアス様と話をするべきです!!」
冷静になり切れていないジークにはいつものようにセスを丸め込むほどの勢いはなく、完全に後手に回ってしまう。
その様子にフィーナは呆れ顔で言うと、フィーナの意見にノエルは大きく頷く。
「レギアス様の気持ち?」
「そうです。レギアス様だって、ジークさんとしっかりと話せる機会を心待ちにしているはずで……フィーナさん!?」
「最初から、こうすれば良かったのよ。ミレットさん、ロープない?」
ノエルとフィーナの言葉は少しだけジークに届いたようで彼は小さくつぶやくと先ほどまでのように情けなく逃げ回る事を止めた。
ノエルはそんな彼の様子に説得を試みようと話かけようとするが、フィーナは彼女とは別の方法を取ろうと思ったようでジークの背後に回り込むと剣の鞘で思いっきりジークの後頭部を叩きつける。
不意を突かれて対処が遅れたのかジークは直撃を受けてしまい、顔から床に倒れ込む。フィーナはそれを見逃さず、ジークの上に馬乗りなり、彼の行動を塞ぐと目の前でノエルが慌てるのも気にする事無く、ジークを縛り付けて行く。