第630話
「……これはどういう事ですか?」
「どういうつもりと聞かれても困るね。君達は父上が命令を出した事に反逆したわけだ。相応しい処置だろう。それもわからないのか?」
エルトとライオの指示で縛り付けられた騎士団達は意味がわからずに2人に尋ねる。
エルトは小さくため息を吐いた後、騎士達に自分達が何をしでかしたか考えるように言う。
その様子はいつもの緩いエルトとは異なり、高圧的であり、場数も踏んでいない新米騎士ばかりである騎士団は委縮してしまうだけではなく、最初に言い出したのは誰だと罪の擦り付けを始め出す。
「……予想以上に情けないな」
「まったくだね。新米騎士とは言え、ここまで情けないとは思ってもいなかった。今回、これに参加した者には騎士剥奪も視野に入れて欲しいと父上に進言しよう」
見苦しい騎士達の様子にジークは大きく肩を落とすとエルトも情けなくなってきたのか眉間にしわを寄せる。
「とりあえず、騒がしくなって申し訳なかったね。騎士達はルッケルに連れて帰ろうか?」
「無理、転移の魔導機器は人数制限有りだ。ここまで戻ってくるのはしんどい。とりあえず、今回の件を最初に言い出したヤツを王都に連れて帰ろうぜ。後は悪いんだけど、フィリム先生が戻ってくるまで預かってくれ」
エルトは魔術学園の研究員に謝罪をするとジークに騎士達を連れて戻ろうと提案する。
しかし、ジークは首を横に振ると代表者を王都に連れて帰ると言い、他の騎士達の事を研究者達に頼む。
「……良くわからないが、1人は王都に連れて帰ると言う事か?」
「ああ……」
「それなら、転移魔法で俺がルッケルまで戻ろう」
ジークの頼みに騎士達と正面切って言い合いをしていた1人が返事をする。
ジークが振り返るとそこにはローブを頭までかぶった人物が立っているが、その人物の声は高く少女のようだが俺と言った事にジークは疑問に思ったようで首を捻った。
しかし、少女と思しき人物は気にする事無く、騎士達を見下ろしながら転移魔法を使うと言う。
「えーと、俺?」
「ジーク、紹介するよ。彼女はコッシュ=アモンド。そこは気にしない方が良いよ。フィリム先生がいない状況だと現場責任者かな?」
「いや、気になるだろ」
ジークの疑問にライオは苦笑いを浮かべると『コッシュ=アモンド』と言う彼女の名前を教える。
気にするなと言われてもジークは気になるようで頭をかくが、ライオは追及するなと言いたいのか首を横に振った。
「気にしても答えは彼女しか知らないから、仕方ないんだよ。それより、コッシュ、いつ、転移魔法を覚えたんだい」
「……拒否だ。王子に教えないようにとフィリム教授から指示が出ている」
「まだ、教えて欲しいと言っていないじゃないか」
コッシュが転移魔法を使用できると聞き、ライオは彼女に声をかけるが、コッシュはライオが何を考えているかすぐに察知したようで話を聞く前に拒否をする。
ライオは彼女の言葉に苦笑いを浮かべるが、転移魔法を習得できる機会が失われた事は残念なようで表情は歪んでおり、彼の様子にジークとエルトは小さくため息を吐いた。
「……言わなくてもわかる。それに先輩からも先日、釘を刺されたからな。王子にだけは教えるなと」
「カイン、やっぱり、手を打っているか」
「当然だ。先輩がその辺に抜かりがあるわけがない。それでこの無能なバカどもアズ殿に預かって貰えば良いのか?」
コッシュはライオの考えている事などわかると言いたいのか鼻で笑う。
彼女の言う先輩とはカインのようでライオは小さく舌打ちをし、コッシュはライオの相手をしていても時間の無駄だと思ったのかエルトに聞く。
その態度はエルトの事も尊敬しているようには見えず、ノエルはどうしたら良いのかわからずに苦笑いを浮かべる。
「アズに任せるのは荷が重くないかな? あまり頭は回らなくても名家と言われるところの子息だからね」
「アズさんにこれ以上迷惑をかけるのは良い気がしないな。今回の件でただでさえ迷惑をかけてるのに」
ノエルの心配を余所にエルトは気にする事無く、騎士達をどこに置いておくか考え始める。
心配しているのは名を立てにアズを脅す事であり、エルト自身はアズが屈する事はないと思っているようだが、ルッケルは今も不安定な情勢であり、有力権力者を敵に回すのは都合が悪い。
ジークもエルトの考えている事を察したようで頭をかくとどうするべきかと頭を悩ませる。
「それなら、ラース様はどうですか? 今回は騎士さん達の失態のわけですし、ラース様なら性根を叩き直すと言って責任を持って預かってくれると思いますけど」
「おっさんか? ……確かに騎士として性根を叩き直して貰った方が良いとは思うけどな。ワームに問題集まりすぎじゃないか?」
「ラースなら、預かってくれそうだけど、、ジークの言う通り、あまりワームに問題を持って行きたくないね。コッシュと言ったかい? 王都には戻れないのかい?」
ノエルはすぐにラースの顔が思い浮かんだようで手を上げるが、今のワームは大変な時期であり、あまり問題を押し付けるのは歓迎できない。
ジークが首を傾げるとエルトは騒ぎを起こした騎士達を王都に連れ帰ろうと思ったようでコッシュに声をかける。
「王都に連れて帰るのは賛成しかねる。連れて帰れば、このバカどもの親がしゃしゃり出てくるぞ」
「確かにそうだね。そう考えると……」
「フォルムは無理だぞ。それにコッシュはフォルムに来た事もないだろ?」
コッシュは王都にも転移魔法で移動できる事は否定しないが、エルトの提案は賛成できないようで首を横に振った。
彼女の言葉にはエルトも納得したようでジークへと視線を向けるが、これ以上の厄介事をフォルムに持ち込めないと思ったようでジークは大きく首を横に振る。
「ないな。俺は王都とルッケル、そして、ここにだけしか移動できない」
「……やっぱり、違和感あるな」
「ジーク、気にしない。そのうち、慣れるよ。一先ずはアズに預かって貰うしかないんじゃないかな? その後、カインかカルディナに協力して貰ってワームに連れて行こうか?」
コッシュはフォルムには飛べないと答え、彼女の口調にジークは慣れないようで小さくため息を吐いた。
ライオは彼の様子に苦笑いを浮かべるとジークの肩を叩き、騎士達を一時的にアズに預けようと言い、それ以外に妙案が浮かばないため、一先ず、ルッケルの街に戻る事に決定する。




