第63話
「やっぱり、そう都合よくはいかないですよね」
「まあな。だいたい、こんな片田舎だ。都合の良い仕事があるわけないだろ」
「そうですね。それなら、商品を持って行ってみるかな。売れれば儲けものだし、ノエル、一先ず、店に戻ろう」
ジークは依頼がないため、自分の店で取り扱っている商品を持って鉱山に行くと決めるとノエルに声をかける。
「は、はい。わかりました」
「……」
ノエルはジークの言葉に頷くが、フィーナがジークの事を思いっきり睨みつけているため、居心地が悪いようで助けを求めるようにジークへ視線を移す。
「あ、あの。ジークさん」
「ノエル、構うな。構うと面倒な事になるからな」
「で、ですけど」
シルドはノエルにフィーナの相手をする必要はないと言い切るが、ノエルはどうしたら良いのかわからずに、ジークとフィーナの顔を交互に見つめると何か考え付いたようで真剣な表情をする。
「ジークさん、これから、鉱山に行くなら、もしもの事があった時に前衛は必要ですよね?」
「そうだとしてもフィーナは要らない」
ノエルはジークとフィーナを仲直りさせたいようでジークに1つの提案をするが、ジークは迷う事なく、却下し、フィーナの額にはぴくぴくと青筋が浮かぶ。
「ど、どうしてですか!? 魔導銃が片方、壊れてるんですよ。何かあったら困ります」
「その時は何とか逃げる」
「まぁ、ジークの実力なら、ノエルを連れて行ってもこの近辺の獣なら、倒せはしなくても、逃げるだけならどうにでもなるだろ」
ノエルはジークの返事に驚きの声をあげるとシルドは苦笑いを浮かべて、ジークの実力にお墨付きを与える。
「それに、ジークが本気で前衛を探すなら、名乗りでる人間もいるだろ」
「持ち上げたって何も出ませんよ。俺は貧乏な薬屋の店主なんですから」
シルドはノエルにフィーナなど選ぶ必要はないと言い切ると、ジークはシルドの言葉に裏があると思ったようで大きく肩を落とす。
「持ち上げてるつもりはないな。ここは田舎で小さいとは言え、冒険者の店だぞ。店に来る冒険者の実力は理解してるぞ」
「……いや、何度も言うけど、俺は薬屋の店主であって冒険者じゃないですから、そんなものになる気もありませんけどね」
「それは知ってる」
ジークは冒険者扱いされる事に嫌悪感しかないようであり、苦虫をかみつぶしたような表情をするとジークの様子にシルドは苦笑いを浮かべた。
「それなら、おかしな事を言わないでください」
「まぁ、勧誘みたいなものだから、そこまで気にするな。俺『は』無理強いする気はないからな。俺達庶民は職業選択の自由ってものがあるからな」
シルドはジークを冒険者にしたがっているフィーナに反省を促すような視線を向けるが彼女はすでに意地になっているようで不機嫌そうに頬を膨らませてそっぽを向く。
「それじゃあ、俺達は行きますよ」
「ん? そうだ。ジーク、鉱山に行くなら、砥石になるような石を貰って来てくれ」
「はいはい。了解しましたよ」
ジークはシルドからのお願いに頷くと店を出て行き、ノエルはフィーナとシルドに頭を下げた後、ジークを追いかける。
「……」
「フィーナ、お前は反省するって事を覚えろ。いつまでもジークに甘えてられるわけじゃないんだからな」
シルドは不機嫌そうな表情をしたままのフィーナの様子に大きく肩を落とすが、彼女は怒りを隠す事なく店を出て行った。