第626話
「……いつまで待てば良いんだ?」
「少しは落ち着けないのですか?」
王城に到着するとジーク達はすぐにエルトに謁見する事ができたのだがいくらエルトやライオと面識があろうが平民であるジーク達には国王に謁見は認められず、エルトとライオが代わりに事情説明を行っている。
対応が決められるまでジーク達は用意された部屋で待っているように指示が出ており、時間だけが進んでいるようでジークはいら立ちを隠せないようで部屋の中を歩き回っており、カルディナも同じ思いではあるものの、自分が慌ていても何も変わらない事を理解しているのかため息を吐いた。
「……今はフィリム先生の転移魔法で移動できるようになってたけど、転移魔法を使わなければ半日くらいか?」
「それくらいだろうな。単純に遺跡を破壊すれば良いと考えてるなら、ジーク達が俺を訪ねてきた時間を考えると疲労具合にもよるが研究員達のテントを強奪して1泊してから、明日と言うところだろう」
「俺達がアズさんのところで話を聞いたのが昼すぎだからな。だけど、休憩するか? あんな場所で1泊とか耐えきれるのか?」
ジークは改めて鉱山の中にある遺跡まで到着する時間を計算する。
フィリムも歩いて遺跡まで行っているため、小さく頷いた後、アノス達が遺跡に突入する時間を予測した。
フィリムの予想に少しだけ心配事が減ったようで胸をなで下ろすジークだが、気位の高いアノスの性格を考えるとやはり強行突破の可能性は高いと思ってしまったようで眉間にしわが寄る。
「確かにその可能性もあるが、今回、ルッケルに派遣された新米どもはあのイオリア家の小僧だけではなく、他の者も騎士が何たるかを知らん未熟者ばかりだ。騎士をただの名誉職程度にしか考えていない。自分達が何かを言えば、誰もが従うとな。ただ言っておく、魔術学園の門戸を叩いた者は家名ではなく、自分の才覚だけで今の場所を手に入れた者達だ。実力のない者達を簡単に通すような素直な人間はいない」
「まったくですわ」
「そ、それは心強いですね」
フィリムは自分がルッケルに連れて行った魔術学園の生徒達を信頼しているようで、アノス達を簡単に遺跡まで通す事はないと言い切った。
カルディナはフィリムの言葉に大きく頷くと、自信溢れる2人の言葉にノエルは鉱山内で大規模な争いになると思ったのか顔が引きつり始める。
「……確かに一癖も二癖もある人間ばかりだからな」
「研究者を研究室に閉じこもっていると思い込んでいる人間も多いが、フィールドワークもあるんだ。あの程度の小僧どもを武でも退ける奴らもいる」
「……思った以上に魔窟だな。魔術学園」
改めて聞く魔術学園の生徒達の話にジークは魔術学園に恐ろしいものを感じ取ったようで顔を引きつらせた。
「失礼します」
「リアーナさん、どうかしたんですか?」
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえ、ジーク達の視線がドアへと向けられる。
騎士鎧に身を包んだ女性騎士が入室し、女性騎士はリアーナであり、ノエルは彼女が部屋に来た理由を聞く。
「伝令を頼まれました。フィリム=アイ教授、申し訳ありませんが、ご同行、お願いします」
「仕方ないな」
「フィリム先生だけ、呼び出しですか?」
リアーナはフィリムを呼ぶと何があるか理解しているようでフィリムは立ち上がる。
しかし、フィリムだけが呼ばれている理由がわからずにノエルは首を傾げた。
リアーナは説明した方が良いのかと悩んでいるのか苦笑いを浮かべるとフィリムは彼女を促すように視線で合図をする。
「新米とは言え騎士達が強行突破に出てしまったからね。結果の出ない魔術学園に任せるより、騎士団を動かして力づくで解決してしまえば良いと主張する人間もいるんだよ」
「……エルト王子、どうしてここに戻ってきたんだ?」
「私と兄上は魔術学園の研究を待つべきだと主張したんだけどね。何もわからない若造が口を挟むなと追い出されてしまったんだよ」
リアーナが話し出そうとした時、彼女の背後からエルトが顔を覗かせて、ノエルの疑問に答える。
彼の登場にジークは眉間にしわを寄せるとエルトの後ろからライオまで顔を出す。
「ライオ様まで? 追い出されたとはどう言う事ですか?」
「そのままだよ。騎士も1枚岩ではないからね。今回のルッケルに派遣された騎士達の行動を推す者も多い。自分達の権力を維持するためだけに彼らの行動を推す者、ルッケルの民の事を思い魔術学園の研究結果を待つように言う者、一先ずはどちらかが有利になるか日和見を決め込む者、それぞれだよ」
「何だよ。すぐに決定できないのかよ」
エルトとライオが部屋を訪れた事に驚きの声を上げるノエル。
エルトは困ったと言いたいのか大きく肩を落とすとジークは苛立っているようで舌打ちをする。
「そう言わないでよ。父上だって独断と偏見で方針を決められないからね。慎重に話を聞かないといけない事もある。だから、話を聞いてみようって事に話を持って行っただけでも誉めて欲しいね」
「……どうしてだろう? イヤな予感がする」
「話を代表者から直接聞こうって話に変えたんだよ。幸い、今、王城の一室にはジークと言う転移の魔導機器を持っている人間がいるんだ。ルッケルまで行って、イオリア家のアノスと言う騎士を連れてきて貰おうと思ってね」
悪態を吐いたジークを見てエルトは楽しそうに笑う。
その表情にジークはイヤな予感がしたようで眉間にしわを寄せるとエルトは楽しそうにジークの肩を叩く。
「わかったよ。元々、あいつらを止めるつもりだったんだ。行ってやろうじゃないか」
「良し、それじゃあ、行こうか?」
「……待て。俺が行くのはわかるけど、エルト王子、あんたが付いてくるのは違うだろって、ライオ王子もか!?」
ジークは諦めたようでルッケルに戻り、アノス達を引き留めると覚悟を決めた。
彼の決意に準備は完璧だと言いたいのかエルトは笑顔を見せると、使用人がエルトの剣と鎧を運んでくる。
その様子にジークは眉間にしわを寄せると新たな使用人がライオの杖と魔法衣を持って入室し、ジークは驚きの声を上げた。
「いくら騎士だと言っても、私と兄上が2人で現れれば、高圧的には出れないだろう? カルディナはどうする? ついてくるかい?」
「わ、私はフィリム教授の手伝いをしますわ」
「……カルディナ様、裏切ったな」
「……この場合は仕方ありませんわ」
ライオとエルトはすでに打ち合わせを済ませており、ジークに逃げ道はなく彼は大きく肩を落とす。
ライオはジークが諦めた姿に気分が良いのか笑顔を見せるとカルディナに同行するかと問う。
カルディナはエルトとライオのお守は勘弁したいと言いたいのか大きく首を横に振り、ジークは彼女へと恨み言を言い、カルディナも非難される事は理解しており、申し訳なさそうに視線をそらした。