第625話
「時間がないって言ってたよな?」
「うん。だから、同行しようと思ったんだけど」
「そうじゃなくて、首を突っ込むなって言ってるんだよ!!」
後を追いかけてくるライオにジークは眉間にしわを寄せる。
ライオはどうしても首を突っ込みたいようであり、ジークはライオに振り回されている時間がないため、声を上げた。
「ジーク、待ちなさい。ライオ様、私達が急いでいる理由を知りたいのでしたら、私達がエルト様への謁見を求めていると伝えていただけないでしょうか? 私達が謁見を求めるより、ライオ様が仲介をしていただけた方が速く済みそうです」
「兄上と?」
「本当は国王様かラング様に直接、お目通しをお願いしたいのですが、私達ではすぐに謁見できないでしょうから」
カルディナはジークを止めるとライオにエルトと話をする場を用意して欲しいと告げる。
何のためにエルトと謁見したいかライオは心当たりがないため、首を捻り、カルディナはエルトより、もっと上の立場にある人達に相談したいと本音が漏れた。
「父上や叔父上に? とりあえず、大変な事なのはわかったよ。だけど、内容もわからずに謁見の場を用意するわけにはいかない。簡潔にで良いから話して」
「ルッケルにいる新米騎士達が暴走した。魔術学園の研究してるものを壊して力づくでルッケルの騒ぎを治めようとしてる」
「……それは大変な事になってるね。わかった。至急、伝令を送ろう」
カルディナの言葉に大事だと言う事は理解できたライオは表情を引き締め、何が起きたか聞く。
ジークは簡潔に説明するとライオは事の重大さをすぐに理解したようで頷くと早足でジーク達とは逆側に向かって歩き出す。
「とりあえず、納得してくれたみたいですね」
「カルディナ様、助かった。止めてくれなかったら、ライオ王子のペースに巻き込まれていたところだ。ただ、仮にも王子様なんだけど、使って良いのか?」
「まったくですわ。時間がないのですから、少し冷静になりなさい……ライオ様を使った事は緊急事態ですから仕方ありませんわ。その辺は後でジークが埋め合わせをすれば何も問題ありません」
遠くなるライオの背中に胸をなで下ろすノエル。
ジークはライオの注意をそらしてくれた事に礼を言い、カルディナは呆れたようにため息を吐くと3人は再び、フィリムの研究室に向かって歩き出す。
「失礼しますわ」
「……勝手に開けて良いのか?」
「どうでしょう?」
フィリムの研究室の前に到着するとカルディナはドアをノックする事無く、ドアを開けて研究室に入って行く。
ジークとノエルはカルディナの様子に戸惑うものの、このまま待っているわけにも行かず、彼女の後を追いかける。
「……ラースの娘、何の用だ?」
「カルディナ=オズフィムですわ。あんなものと一括りにしないでください」
「そうか……ジーク、ノエルも一緒か? まだ、研究は終わっていないぞ」
フィリムは忙しいようでカルディナを見て追い払うように言う。
カルディナはラースと1セットにされるのが我慢ならないようで頬を膨らませるがフィリムは気にする事無く、遅れて研究室に顔を出したジークとノエルに声をかける。
「それはなんとなくわかる」
「そうか。なら帰れ。研究の邪魔だ」
「そう言うわけにはいかないんです。ルッケルが大変なんです」
フィリムは研究の邪魔をされたくないようで冷たい声で言い、ノエルはルッケルが大変な事になっていると声を上げた。
しかし、明確な言葉はすぐに続かず、フィリムは目でジークに状況を説明するように指示を出し、ジークは頷くとアノス達新米騎士達が暴走した事をフィリムに伝える。
「……あの若造が暴走したわけか。何も起きないと高をくくって、魔導機器を壊せば事件が解決すると思ったわけだな。上手く行けば手柄を自分達のものに何か起きれば失敗は魔術学園に押し付ける気だな。私がいない時を見計らう事と言い、流石、利に聡いイオリア家の血を引くものだな」
「変な事で感心しないでくれ。それで、フィリム先生なら転移魔法で鉱山の中に移動できるだろ。一気に時間が縮められると思ったんだよ」
「その判断は正しいが私が鉱山に行っても、奴らが止まるとは思えんがな。奴らは騎士であり、地位のある自分達の威光があれば平民は何でも言う事を聞くと考えている愚劣の集まりだからな」
ジークからの説明を聞き、フィリムはすぐにアノスの目的を察知する。
彼らは遠方の地であり、監視の目が緩い事で自分達の都合の良いように事実を捻じ曲げる気のようでフィリムは感心したのか、考え込むように頷いた。
フィリムの様子にジークはため息を吐くと何とかアノス達を遺跡の奥に進ませたくないようですぐにルッケルに戻ろうと言うが。フィリムは強行突破に出たアノス達が止まるわけないと言う。
「それなら、どうするんですか? ルッケルに何かあったら」
「それを止める手段を考えろと言うんだろう」
「馬車の移動ができたよ。城に行こうか?」
心配そうに表情を曇らせるノエル。
フィリムは小さくため息を吐くと席を立つ。
ジークとカルディナは次のフィリムの言葉を待っているのか息を飲んだ時、研究室のドアが勢いよく開き、ライオが入ってくる。
「……王城に戻ったんじゃないのか?」
「私が戻るのは効率が悪いじゃないか。私の護衛の1人にわけを話して先に戻って貰ったよ。城に行くのも歩いて戻るのは時間がかかるだろうしね。だいたい、ジークは王族である私を伝令に使う気かい?」
「そうなんだけど……なあ」
乱入してきたライオにジークは大きく肩を落とす。
ライオは効率を重視した結果だと言った後、ジークをからかうように笑う。
馬車を用意してくれた事は実際ありがたいのだが、隣にいるノエルは馬車と聞くなり、顔を青くし始めている。
彼女の様子にジークは困ったように眉間にしわを寄せた。
「一応、騎士達の暴走だし、ルッケルの事は魔術学園に調査依頼が来てるんだから、知らせた方が良いと思って」
「そうか。良い判断だ。行くぞ。時間がない」
ノエルが青ざめていようがフィリムには関係なく、馬車が用意されている理由を聞くとフィリムは先頭に立って研究室を出て行き、ジークとカルディナは馬車を嫌がるノエルを引っ張って彼の後を追う。