第622話
「……シーマさん、どんな答えを出してくれますかね?」
「わからないな」
カインの屋敷に戻るとノエルはシーマの出す答えが気になるようである。
ジークも彼女と同じ事を考えているようだが、考えても仕方ない事だとも思っているようで苦笑いを浮かべた。
「ジーク、ノエル、いちゃついてないで、フィーナを引き取ってくれないかな?」
「いや、元々、フィーナはお前の管轄だろ。俺に言うな」
フィーナはシーマをそのままにしておく事は納得できていないようであり、テッドの診療所からずっとカインを威嚇している。
カインは鬱陶しくなってきたようでジークとノエルを呼ぶが、ジークは面倒だと言いたいようでため息を吐いた。
「何で、あんな女、そのままにしておくのよ!!」
「さっきも説明しただろ。いろいろと必要なんだよ。相手の出方を探れるかも知れないからね。仮にノエルのお父さんがシーマさんの気持ちに応える気になってたとして、彼女を取り戻しに来たら、罠でもなんでも張って捕まえないとね」
「……シーマさん、囮かよ。と言うか、捕まるとは思えないんだけど」
フィーナが力任せにテーブルを叩いた音が部屋に響く。
カインは1度、ため息を吐くとテッドの診療所で話した事を思い出すように言った後、レムリアを捕まえたいと言う。
ジークは捕まるわけないと思っているようで頭をかくとカインへと視線を向けた。
カインは笑っており、その笑顔からカインが何かを企んでいるのがわかり、ジークは大きく肩を落とす。
「別に何かを企んでいるわけでもないけどね。ただ、ノエルのお父さんを止められるなら早い方が良いだろ? 仮に説得して味方に引き込めればおかしな争いは起きなくなるだろうし、それにジークも娘さんを僕にくださいって言わないといけないだろ?」
「……真面目な話をしているんだから、おかしな話に持って行くな」
「結婚となると家族の問題だから、お義父さんとの話は必要だろ?」
カインはレムリアが大規模な戦争を始める前に止められる事をベストだと思っているようであるが、真面目に話は出来ないようでジークをからかうように笑う。
彼の言葉にノエルは顔を赤くしてうつむいてしまい、ジークは彼女の反応が恥ずかしいのかノエルから視線をそらすとカインに話を誤魔化すなと言いたいのか彼を睨みつける。
しかし、カインは2人をからかう事を止める気はないようで楽しそうに笑った。
「カイン、いい加減にしなさい」
「はいはい」
カインの様子が見ていられなくなったのかセスは眉間にしわを寄せる。
セスに止められてしまっては仕方ないと言いたいのかカインは小さくため息を吐く。
「シーマさんの身柄の確保は必要な事だけど、ワームには置いておけないんだよ。ノエルのお父さんの転移魔法を防ぐ事ができないからね。シーマさんを取り返しに来るか、始末しに来るかもわからないけど、魔族の血を引いていれば、ノエルのお父さんが現れてもわかるだろ。ワームくらいの都市なら魔族も隠れ住んでいるかも知れないけれど、協力はしてくれないだろうからね。レギアス様は俺達の考えに目をつぶってくれてるけど、シュミット様とラース様には種族など関係ない世界を作りたいって言ってないしね。と言う事でフィーナとレインはゼイとザガロとシーマさんの警護を頼むよ。村の外の探索は人手が足りてきたしね」
「……」
「フォルムに戻ってきてくれた人達が加わってくれたから、充分だろうけど、シーマさんの警護は大丈夫なのか? 下手したらフィーナは見捨てるぞ」
カインは改めてシーマをフォルムに留め置く理由を説明するが、フィーナはシーマの事が気に入らないようで不機嫌そうに頬を膨らませている。
ジークはフィーナの様子に不安に思ったのか大きく肩を落とし、シーマの事が心配だと言う。
「大丈夫。大丈夫。そんな状況になった時に、見捨てられるような人間に育てたつもりはないよ」
「そうですね。フィーナさんは人の命がかかっていれば守るべき相手が誰であろうとも1番最初に駆け出して行きますよ」
「それは……まぁ」
カインはフィーナの性格を理解しているようであり、フィーナはシーマを見捨てる事はできないと言いたげに笑った。
彼の言葉に同調するようにレインは笑い、ジークは2人の言いたい事もわかるのか頭をかく。
「それに種族なんか関係ないってシーマさんに示すの難しい事を頭で考えるような人間より、フィーナくらいでちょうど良い」
「誰がバカよ!!」
「フィーナ、後はゼイもかな?」
感情で動いてしまうフィーナとゼイがシーマの心を動かすには必要だと言うが、フィーナはカインにバカにされている事に腹を立てており、唾をまき散らす勢いでまくし立てる。
「フィーナさん、落ち着きましょう。これは」
「……こうなるよな」
「カイン、もう少しどうにか出来ないのですか? フィーナが頑丈だと言ってもやりすぎです」
フィーナがまたカインに沈められる事に予想が付いたノエルはフィーナを止めようとするが、すでに遅くフィーナは床に叩きつけられて白目をむくがカインは追い打ちをかけるように彼女の身体を足蹴にする。
2人の様子にジークは大きく肩を落とし、セスは眉間にしわを寄せた。
「しっかりとしつけはしておかないといけないだろ?」
「カインさんのはしつけじゃなくてただの暴力です!?」
「カイン、もう気を失っていますし、それくらいにしましょう」
カインは笑顔でしつけだと言い切るが、明らかに行き過ぎており、レインはカインの背後に回り、彼を押さえつけ、ノエルはフィーナに駆け寄ると治癒魔法の詠唱に移る。
「とりあえず、ノエルの親父さんがどんな行動に出るかだな。人をただのコマと考えるような人ではあって欲しくないけど、シーマさんを取り戻しに来たらきたでまったく勝てる気がしないんだけどな」
「勝つ必要はないよ。戦うのは最終手段だからね。説得は難しいかもしれないけど何もしないで戦うのは野蛮だよ」
「……その場合、フィーナをシーマさんの警護に置いたらやっぱりダメだろ」
ジークはレムリアがどのような行動に出てくるか心配のようで眉間にしわを寄せた。
カインは何とかレムリアを説得できないかも考えているようでくすりと笑うが、ジークは不安しか感じないようで大きく肩を落とす。




