第614話
「それでどうするんだ? 何か作戦があるんだろ?」
「とりあえず、住民を村長の屋敷の前に集めるようにソーマ達には指示は出してきたよ。森側はジークのえげつない罠があるから、あまり心配していないけど、見張りはいるから、こっちは新米冒険者とソーマに任せよう。セレーネさん達は遊軍、入り口以外で侵入してきたら対処してくれるかな」
「……ジークさん、村の外に何を作ったんですか?」
襲撃者達への対策を立てるためにカインへと指示を仰ぐジーク。
カインはすでに指示を終えており、次々と指示を出して行くがかなり当てにされているジークの罠にフィアナは眉間にしわを寄せる。
「……何も、俺は身体に叩き込まれた罠を真似て作っただけだからな」
「文字通り、身体に叩き込まれた技術だよね」
「そ、そうですか? そ、それで私は何をしたら良いんでしょうか?」
ジークの頭にはアーカスの罠に引っかかった時の事を思いだしたようで険しい表情をし、カインは楽しそうに笑う。
フィアナはジークの表情に追及するのが怖くなったようで苦笑いを浮かべると話をシギル村の防御に戻す。
「フィアナはジークとノエルと3人で村の入り口で襲撃者を押さえる事かな?」
「……おい。いくらなんでも戦力が不足しすぎだろ? 俺は近距離で戦うような人間じゃないぞ。ノエルとフィアナも魔術師だ。危なすぎるだろ」
カインはたった3人で襲撃者を防ぐように言うがその作戦は無謀としか言えない。
ジークは眉間にしわを寄せ、ノエルとフィアナの顔からは完全に血の気が引いている。
「大丈夫、大丈夫。それに正面からぶつかるとケガするかも知れないだろ?」
「正面からぶつかったら、俺達は簡単に死ねる……なあ、シュミット様とレギアス様には護衛の兵士が付いてきてただろ? そいつらにも手伝って貰えば良いんじゃないのか?」
「彼らには最悪の場合に転移魔法で住民を避難させるまでの時間稼ぎに働いてもらう」
カインの作戦にはさすがに乗れないとため息を吐いたジークは増員を掛け合うがカインは他にもやるべき事があると言う。
その口調にジークはまた良からぬ事を企んでいるんだろうと思ったようで頭をかく。
「時間稼ぎね……カイン、お前の本体はこっちだろうな。襲撃者を捕まえて何か探る気なんだろうけど、お前の魔法が1番、適任なんだからな」
「そうだね。あっちはレギアス様に任せられるから、そっちに行くよ。なるべく、撤退なんかしたくないしね」
「まだ何か企んでいるのかよ?」
カインの言葉から、ジークはカインの目的を察したようでため息を吐くとカインへ合流するように言った。
元々、そのつもりのようで小さくため息を吐くカイン。
彼の様子にジークは自分が考え付かないような悪巧みをしていると感じ取り、眉間にしわを寄せる。
「違うよ。撤退なんかするって言ったら、説得が面倒だからね。納得はさせたけど、その時はどうなるかわからないからね。人気取り、大好きだろ?」
「……その言い方は止めてやれよ」
「冗談だよ。それにすべてを知らない人達にはシュミット様は良い領主様だからね。ここでも領民の好感度を上げないといけないじゃないか」
カインはシュミットの性格を理解した上で転移魔法での撤退は難しいと判断しているようで困ったように笑う。
ジークは悪意のある言い方にため息を吐くと、カインは本気でそんな事は思っていないようではあるがそれでも余計な事を言わなければ気が済まないようである。
「それじゃあ、話が決まったみたいだから、私は行くよ。ノエル、フィアナ、あんまり気負わないようにね」
「は、はい。わかっています」
「セレーネさん、生け捕りでお願いしますよ。殺したらダメですよ」
セレーネはジークとカインの話に付き合っていると時間が無くなると判断したようで、仲間と合流するつもりのようでノエルとフィアナに声をかけて歩き出す。
ノエルはセレーネの背中に声をかけると彼女は振り返る事無くひらひらと手を振った。
「大丈夫でしょうか?」
「どうかな? ただ、信じるしかないんじゃないかな?」
「……相変わらず、この状況にはなれないな」
心配そうな表情をするノエル。
その時、カイン本人が現れてノエルの肩を叩いた。
ジークはカイン本人と使い魔が同時にいる事に違和感があるようで眉間にしわを寄せる。
「ジークもくだらない事を言ってないで行くよ。先手必勝」
「……一応、本当に襲撃者なんだろうな? 普通に旅人だったりはしないよな?」
「そう言う期待も込めて観察していたけどね。あんな殺気をまき散らしていたら、旅人として判断はできないね」
眉間にしわを寄せるジークの肩を叩くとカインはシギル村の入り口に向かって歩き出す。
ジークはカインが使いまで偵察してきた人達が、まったく関係ない人達の可能性を示唆するとカインは振り返り立ち止まり首を横に振った。
「そうか……面倒だな」
「なるべく、面倒にならないように俺も作戦を立ててるんだけどね。もちろん、シギル村の住民、そして、強欲爺の手の内で踊らされている人達にもね」
改めて、殺す覚悟をしている人間の相手をしなければいけない事にため息を吐くジーク。
カインは苦笑いを浮かべるとなるべく被害を出さないために動いていると笑う。
「はい。頑張りましょう」
「……頑張るって言っても、戦力に不安しか感じないんだけど、1番、過酷になりそうな場所が魔術師3人に薬屋1人だぞ」
「そ、そうですよね。ジークさんしか前に出る人がいないでしょうから」
両手を握り締めて大きく頷くノエルだが、ジークはカインが何かを企んでいるにしても不安は拭い去る事はできず、乱暴に頭をかいた。
フィアナもジークと同じ事を考えているようで賛同するように大きく頷く。
「別に殺し合いをする気もないんだから、良いんじゃない?」
「こっちになくても相手にはあるだろ? 領主であるシュミット様を殺そうとしているんだ。覚悟だってしっかりとしてるだろ」
「してるだろうね。失敗したら死ぬ覚悟もできてるかも知れない。そんな人間と真正面からぶつかるのはバカのやる事だよ」
襲撃者達の覚悟を理解した上でそれでもカインはあざ笑うように言う。
その言葉は一見、相手の事をバカにしているがカインなりに考えた結果であり、彼の表情にジークは覚悟を決めたようでシギル村の入り口に向かって歩き出す。