第612話
「シュミット様達はまだ来てないみたいですね」
「そうだな……他のやつらは帰ってきてるか?」
シーマをフォルムのテッド達に預けた後、カインの転移魔法ですぐにシギルに戻る。
村の様子は落ち着いており、まだ、シュミット達は到着していないように見え、ジークは協力してくれたソーマ達を探そうと村の中を見渡す。
「ずいぶんと遅かったじゃないか? カインが転移魔法を使えるから先に帰ってきてると思ったんだけどな」
「ジークさん、ノエルさん、カインさん、お帰りなさい」
「ちょっと厄介な事に巻き込まれてね」
ジークが村の中を見回しているとジーク達をソーマとフィアナが見つけて駆け寄ってくる。
ソーマはジーク達が戻ってくるのが遅かった事に何かを感じたようで険しい表情をするとカインはソーマやフィアナにはラミア族のシーマの事を話せないため、話をはぐらかすように笑う。
カインの様子にソーマは何か厄介事を抱えたと思ったようだが、追及する必要はないと思ったようで小さく頷く。
「それで、そっちは何かあったかい?」
「何も、至って平和だったぞ。他の場所もな」
「そうですか。良かったです……フィーナさん達は来てないんですか?」
ジーク達以外の場所は問題も起きなかったようであり、ノエルは胸をなで下ろすとフィーナ達を探す。
「フィーナ? あいつ、シギルに来てるのか?」
「だって、カインさんがもう1ヵ所にはセスさんが行っているって言ってましたし、フィーナさんとレインさんはセスさんと一緒に行動しているって」
「セスと一緒に行動しているとは言ったけど、魔法陣の書き換えに行って貰ってるとは言ってないね」
フィーナの名前に首を傾げるソーマ。
ノエルはカインから聞いていた話だと言うが、カインはそんな事は一言も言っていないと笑う。
「嘘だったんですか!? カインさん、ひどいです」
「いや、魔法陣の書き換えにセスが行ったって言ったのはジークだよ。俺は言ってないね」
「……そう言えば、言ったの俺だな。それなら、もう1ヵ所は誰が行ったんだよ?」
驚きの声を上げるノエルはカインに詰め寄るがカインはジークが犯人だと指差す。
ジークはその時の話を思い出して、バツが悪そうに鼻先をかいた後、最後の1ヵ所には誰を送ったのかと聞く。
「現状で優秀な魔術師を遊ばせておくほど、余裕はないんだよ。いるだろ。ジークも知っている優秀な魔術師が」
「……ギドか。お前、良くそんな危険な策を立てたな」
「ジオスに来るほど危険じゃないと思うけど、ギドは転移魔法も使えるしね。ただ、護衛がゼイとザガロってところが心配だね」
カインが口元を緩ませるとジークには心当たりが1人しかいないため、眉間にしわを寄せる。
ジークの言う通り、ゴブリン族のギドを人族の村の周辺で歩かせているのは危険ではあるがカインはギドならその程度の事を難なくこなせると笑う。
しかし、ギドの護衛についた2人の名前にジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、他にも何か企んでいるって事はわかった」
「そ、そうですね。あ、あの、馬車がこっちに向かってきていますけど、シュミット様がお越しになられたんじゃないでしょうか?」
「……ずいぶんと仰々しい到着だな」
3人の様子にソーマはため息を吐き、フィアナは苦笑いを浮かべるが彼女の目線には馬車が映り、ジーク達に馬車を見るようにと指差す。
彼女の声でジーク達は視線を移すと馬に乗った兵士達が先導している立派な馬車がこちらに向かって進んできており、ジークは大袈裟だと言いたいのか眉間にしわを寄せた。
「王位継承権の持っている人が粗末な馬車に乗ってくるわけにはいかないだろ。それに狙われているのはわかってるんだから、護衛くらいは必要だよ」
「とりあえず、無事に到着した事を喜ぶべきなんじゃないか?」
「そ、そうですね……カインさんとセスさんがいるんですから、転移魔法で良いと思うんです。馬車を使う理由がわかりません」
カインは必要な事だと笑い、ソーマは王族にかかわる気はないようで馬車から逃げるようにジーク達から離れて行く。
そんな中、ノエルはシュミットが馬車を使った理由が理解できないとぶつぶつとつぶやいており、その姿から馬車が苦手なのはよくわかる。
「……とりあえず、ノエルに効果がある酔い止めを作らないとな」
「あれはすでに酔い止めでどうにかなるものじゃないんじゃないかな? 完全に苦手意識から酔ってると思うよ」
「カイン=クローク、良いところにいた。シギル村の代表者のところまで案内してくれるか?」
ノエルの様子にジークとカインは苦笑いを浮かべた時、馬車がジーク達の前で止まり、レギアスが顔を覗かせるとカインに声をかける。
カインは快く承諾するとシュミットの許可を得て、馬車に乗り込んで村長であるウィンの屋敷に向かって行ってしまう。
「ジークさんとノエルさんはいかなくて良いんですか?」
「パス。難しい話は任せるよ。同席しても何を言ってるかわからないからな。カインもシュミット様もわかってたから、呼ばなかったんだろうし。フィアナこそ、良いのか? 村長さん以外にも村の話をできる人間が必要なんじゃないのか?」
「私は冒険者として、村を出た身ですから、話を聞くなら、ずっと、村に居る人達の方が良いと思います」
馬車を見送ったジークの姿にフィアナはジークとノエルが同行するものと思っていたようで首を傾げる。
彼女の言葉はジークにとって予想外だったようで首を捻った後、自分は場違いだと笑い、フィアナも釣られるように笑う。
「とりあえず、話が終わるまで時間をつぶさないとな……そう言えば、セスさん達は何してるんだろうな? カインが考えた事だから、ろくでもない事だろうけど」
「その言い方は酷いと思います。きっと、シュミット様達を守るために必要な事ですよ」
「ジークさん、わたし、決めました。転移魔法を覚えます!!」
話し合いは時間がかかると判断したジークは別行動をしているセス達の事を思いだして首を捻った。
彼の言葉にフィアナが苦笑いを浮かべた時、決意のこもった瞳で転移魔法習得をノエルが宣言する。
「そ、そうか。頑張れ」
「はい」
「……結局、1度、自分達の足か馬車で移動しないといけないんだけどな。やる気になってるから良いか」
転移魔法の特性を完全に忘れているノエルの姿にジークは応援しかできないようで苦笑いを浮かべた。