第608話
「……とりあえずは誰もいないな?」
「そうみたいだね」
火の精霊が暴走していた場所まで着くが周囲には人の気配はない。
ジークはレムリアが転移魔法を使用していた事を見ているため、警戒のために魔導銃を引き抜くがカインは魔法陣の位置を探そうと1人で歩き始める。
「おい」
「ジークは周囲を警戒していて、ノエルもあまり不安そうな顔をしない。あくまで可能性であって絶対とは言えないんだから」
「は、はい」
1人では危ないと思い、カインを引き留めようとするジークだが、カインはくすりと笑うとノエルに声をかけた。
ノエルは大きく頷きはするものの、やはり、レムリアの事を心配しているようで不安げであり、カインは何か声をかけろと言いたいのかジークの尻を蹴ると1人で歩いて行ってしまう。
「あいつは」
「ジークさん、すいません」
「別に謝る事でもないだろ。誰だって不安にはなるだろうしな」
カインの背中にジークはため息を吐くとノエルは申し訳なさそうに目を伏せた。
彼女の様子にジークも先日、知ったばかりとは言え、身内と戦う事にどこか抵抗があるためか頭をかく。
「……それに止められるのはきっとノエルしかいないと思うんだ。俺達はそれの手伝いしかできないからな」
「そう……ですね。今のレムリアお父様を止めないとアルティナさんが悲しみますから」
ジーク達が目指すのはレムリアを殺しての解決ではなく、説得でどうにか考え直して貰う事である。
それをできるのは実の娘であるノエルだけだと言い、ノエルは小さな頃に見たレムリアとアルティナの姿を思い出したようで大きく頷いた。
「とりあえず、ノエルの親父さんが今回は関わってない事を祈ろう。2つも3つも厄介事を抱えてると何やっていいかわからなくなるしな。自分達がめちゃくちゃな事をしてるのはわかってるけど、問題事がありすぎだ」
「そうですね。少しくらい手加減してくれても良いと思います」
ジークは改めて、種族間の争いのない世界を作りたいと笑い、ノエルは釣られるように笑顔を見せた。
「それじゃあ、その前にお仕事を終わらせようか?」
「見つかったのか?」
「元々、当たりは付けてたからね。調べたらあったよ。こっちに来てくれるかい?」
目的のものを見つけたようでカインは2人に声をかける。
ジークは少しだけ恥ずかしくなったようで鼻先をかくとカインはくすりと笑うとついて来いと言いたいのか歩き出して行き、2人は顔を見合わせた後、彼の後を追いかける。
「これが魔法陣か? 本当に地面に書かれてるんだな」
「ジーク、間違っても足で消そうとするなよ。魔力を込めて書かれたものだから、正確な手順を踏まないとトラップがかけれてるかも知れないからな」
「……そんな事、するわけないだろ」
カインの案内でたどり着いた場所の地面には小さく魔法陣が描かれており、淡い光を上げている。
ジークは初めて見る魔法陣に覗き込んだ後、足で魔法陣を消してしまおうと考えたようだが、彼の行動はカインにしっかりと読まれており、冷たい視線が向けられた。
その視線から逃げるようにジークは魔法陣から離れると周囲を見回す。
「それじゃあ、始めようかな? ジーク、ノエル、少しの間、警戒を頼むよ。まぁ、転移魔法で出てくるとしたら、あそこだけど」
「……あそこって、どこから敵が出てくるかわかるのかよ」
「これでも転移魔法に関して言えば、誰よりも研究しているのですよ。それに魔法陣の性質や暴走した火の精霊に攻撃を受ける事無く、魔法陣を発動させると考えると場所は限定されるからね。と言う事でジーク、任せるよ。ノエルは魔力をためておいてね」
カインは近くにある木の下を指差すとその言葉にジークは眉間にしわを寄せる。
その様子にカインはくすくすと笑うと魔法陣の前で目を閉じて魔法陣の書き換えを始め出す。
カインの身体を淡い光が包み込み、カインは目を開くと魔法陣の中心に立つ、彼の魔力に反応するように魔法陣は光を上げた。
「結構派手に光が上がるんだな。遠目からでもわかるぞ」
「そうですね」
カインの足元で光を上げた魔法陣に同調するように散って行った協力者達も魔法陣の書き換えを始めたようで空には光の柱が見える。
ジークはここまで派手な事をしてしまえば、今回の事を計画した人間にも気づかれるのではないかと思ったようで頭をかくがノエルはカインが指摘した場所から目が離せないようで返事はどこか上の空であり、ジークは仕方ないかと思ったようで頭をかく。
「特に何もなさそうだな。火の精霊の暴走を止めた時点でこの魔法陣を発動できなかったんじゃないのか?」
「そうかもね。ノエル、始めるよ」
「は、はい……あの、どうすれば良いんですか?」
魔法陣の書き換えが終わったのか光の柱は消えてしまい、ジークは何もなかった事に安心したのか胸をなで下ろす。
カインは一仕事終えた事にほっとしたようで苦笑いを浮かべるがすぐに表情を引き締めるとノエルを手招きで呼び寄せて魔法陣の中心に立たせる。
ノエルは大きく頷くがどうやって良いのかわからずに首を捻る。
「必要なのは大量の魔力、後は用意した魔法陣が発動するから気にしなくて良い。魔力を最大までためたら、何でも良いから魔法を発動させてくれれば良いよ。後は魔法陣が勝手にやってくれるから」
「わかりました」
カインは1度、ため息を吐いた後にノエルに指示を出すとノエルはまだ魔力をためられると思ったようで目を閉じ、精神を集中させる。
「やっぱり、ノエルには魔法の先生を用意した方が良いかもね。魔術学園にしばらく預けてみようか?」
「いや、あそこは危険だ」
「危険? ノエルに色目を使う人間でも居たかい?」
カインはノエルの魔法の知識を増やしておく事は必要だと考えており、魔術学園に通わせてみようかと言う。
その言葉にジークは首を横に振るとカインは自分の知らない間に何かあったと思ったようで口元を緩ませた。
「ノエルの持ってるのが魔導機器だってばれたら、奪い取られて研究対象にされそうだ」
「……そうだね。ノエルがドレイクだって事より、珍しい魔導機器に興味を持ちそうな人間ばかりだね」
ジークは巨大モグラに群がった学生達の姿を思い出してため息を吐くとカインもジークの言いたい事が理解できたようで苦笑いを浮かべる。