第607話
「それじゃあ、わたしは魔法陣の書き換えを行えば良いんですね……どうやったら良いんですか?」
「何を言ってるのかな? ノエルが魔法陣を発動させるんだよ」
「へ?」
自分の役割を理解したようでノエルはカインに教えを請うがカインの口からは予想と反した言葉が返ってくる。
ノエルは理解ができずに間の抜けた声が発せられ、カインは彼女の反応を予想していたのか楽しそうに笑った。
「冗談ですよね?」
「本気」
「な、何を言っているんですか? こんな大規模の魔法陣の発動なんてわたしにできるわけがありません!?」
信じられずに聞き返すノエル。
しかし、カインは本気でノエルに魔法陣の発動を行わせる気のようであり、ノエルは絶対に無理だと言いたいようでジークの背中の上で大きく首を横に振る。
「……ノエル、背中の上で暴れる体力があるなら、歩いてくれないか?」
「す、すいません!? あ、あの」
「カイン、遊んでないで説明しろよ」
ノエルは本当に自分が魔法陣の発動と言う大役を果たさなければいけないのか不安のようでカインに聞こうとするが言葉が続かない。
彼女の様子にジークはため息を吐くとノエルの反応を見て笑っているカインに向かい言う。
「簡単な事だよ。俺の予想通りなら、かなりの規模の魔法陣だ。書き換えは出来ても魔法陣を発動させるには俺じゃ魔力が足りない。考えてもみなよ。あれだけ力を暴走させた火の精霊を使って魔法陣を発動させようとしていたんだ。ドレイクの魔力の使いどころだろ?」
「それはそうかも知れないですけど……」
「だいたい、ノエルに魔法陣の書き換えなんて細かい作業ができるのかい?」
必要なのはドレイクと言う強力な魔族の魔力だと言うカイン。
ノエルは納得が言ったようで頷きはするが、それでも不安なのかカインへと恨めしそうな視線を向ける。
彼女の視線にカインはため息を吐くとお世辞にも器用とは言えない彼女に向かって聞く。
「……」
「納得してくれたみたいだね」
「まぁ、ノエルは慌てて魔法を間違えたりするからな」
ノエルは何も言えなくなってしまったようで目を伏せ、カインは楽しそうに笑う。
ジークはノエルが落ち込んでいるのはわかったようだが、彼女の魔法の発動率はあまりよくない事も知っており、苦笑いを浮かべた。
「でも、他のところは大丈夫なのか? 魔法陣の書き換えとか難しいんじゃないのか?」
「いや、問題ないよ。書き換え自体はそんなに高位の魔術師じゃなくてもできるからね。ただ、これだけ大規模の魔法陣となると発動に多くの魔力がいるからね」
「……カイン、もう少し気を使ってくれ」
ジークは散らばった協力者達の方は魔法陣の書き換えができるのかと疑問を持ったようで首を捻る。
カインは難しい作業ではないと笑うとジークの背中の上のノエルはさらに自信を失ったようであり、ジークは背中から伝わるノエルの落ち込みように眉間にしわを寄せた。
「いや、ジークが聞いたんだから、俺は悪くないよ」
「そうかも知れないけど……なあ、カイン、魔法陣の書き換えって言ってたけど、どんな風にするつもりなんだ? 別に魔法陣を発動させなければ問題はないんだろ。火竜の瞳で捕まっていた火の精霊は解放したし、この規模の魔法陣を発動できるほどの魔力を持った人間を探すのだって難しいだろ? それなら、シギルでシュミット様とレギアス様を警護するための計画を立てた方が良かったんじゃないか?」
「そうだね。難しいかも知れないね」
カインはノエルを落ち込ませた原因はジークだと言い切り、ジークは若干、気まずくなったようで話を変えようとする。
魔法陣を発動させられる人間は滅多にいないと考えたようで首を捻るジークだがカインは何かあるのか眉間にしわを寄せた。
「何だよ。もったいぶらずに言えよ」
「これだけの魔法陣を引く事ができる人物だからね。火の精霊の暴走がなくても発動できるような何かを置いてある可能性があるよ。それに最悪、その人物との戦闘もあり得る」
「戦闘? ……それなら、どうして、このメンバーだ? せめて、ソーマを連れて来いよ魔法陣の発動場所にいる可能性が1番高いんだろ」
カインは魔法陣を引いた人物がかなり高位の魔術師だと評価しており、その人物との戦闘も視野に入れていると言う。
ジークは戦力に不安を感じたようでカインを睨み付けるが、カインは難しい表情をしている。
「……最悪の事態を考えるのは俺の役目だからね」
「最悪?」
「いるだろ。ジーク、俺達が知っている人間でドレイクと同等の魔力を持っていて裏で暗躍している人間が、シュミット様やレギアス様はハイムにとって重要な人物なわけだし、消しておきたいと考える人物が」
首を傾げるジークの姿にカインはもう1度、頭を働かせろと言う。
カインのヒントにジークとノエルの表情はこわばっていき、2人ともカインが誰の事を示しているのか理解できたようである。
「レムリアお父様ですか?」
「最悪はね。ノエルのお父さんがどの程度の復讐を考えているかはわからないけど、この先の事を考えた時に俺が邪魔と言ったんだから、復讐って思いに飲まれている分、俺達の考え方には納得していないだろうし、まだ、表には出てきたくないなら、欲にまみれた人間はコマとして使いやすい」
ノエルは信じたくない気持ちがあるため、カインが否定してくれる事を祈りながら、実父である『レムリア=ダークリード』の名前を出す。
しかし、カインは否定する事もなく、今回の事件もレムリアが糸を引いているのではないかと言う。
「……それは」
「これはあくまで俺の予測の1つだけどね。もし、ノエルのお父さんが居たら、ノエルがドレイクだってばれる可能性が高い。そうなると面倒だからね。フィーナくらい、こっちに回そうかとも思ったけど、あいつの場合は下手をしたら死体になるだけだからね」
「まぁ、それは否定できないな。とりあえずはカインの最悪の予想が当たらないように祈ろう」
カインはまだノエルがドレイクだと知られるわけにはいかないと考えており、戦力を分散させても必要な人選にしたと口元を緩ませた。
その表情は全滅などまったく考えていない自信に満ちた物であり、ジークはカインなら適切な判断をしてくれると信頼しているため、苦笑いを浮かべる。