第606話
「どこに行くんだよ?」
「ジ、ジークさん、カインさん、待ってください」
協力の意志を見せた冒険者達、ソーマとフィアナを加えた新米冒険者達、セレーネ達、そして、ジーク、ノエル、カインの4つのグループに分かれてシギル村から出発する。
ジークとノエルはカインに目的地を教えられないまま、川の上流へと向かって進んで行くがすでにノエルの体力はつきかけており、死にそうな声でジークとカインを呼ぶ。
「どこって、この間の場所」
「この間って、火の精霊が暴走していた場所か?」
ノエルの様子からカインは立ち止まると目的地を話し、ジークは何のために行くかはわからないようで首を捻った。
「あの後、少し考えてみたんだけどね。ギムレット様……もう強欲爺で良いか?」
「……否定できないけど良いのか?」
「ジークだって血縁だって言ったって、自分の事しか考えない尊敬できない人間を様付けでなんて呼べないだろ」
「それは……そうだな。気にしないで良いんじゃないか?」
カインは話を進めるうえでギムレットの呼び方を決めたかったようでジークに祖父をバカにされているように感じるかと聞く。
ジーク自身は突然、知らされた血縁者ではあるが彼のやっている事にはまったく共感できないため、カインの好きにするように言う。
「それで、あそこに戻って何がしたいんだ?」
「ちょっと、調べ物をね。助かったよ。魔術師が足りなくてどうしようかと思ってたんだよね。どうしても魔術師が5人必要だったからね。最悪、村長さんに頼もうと思ってたから、さすがにお年寄りを連れまわすわけにはいかないからね」
「魔術師が5人? ノエル、カイン、フィアナ、後はセスさんももう動いてるんだよな? セレーネさんのとこと協力してくれた奴らのところにも居たな……6人居るじゃないかよ」
カインは魔術師が必要だと考えており、人数が足りたと笑う。
ジークは協力者の魔術師の人数を数えるがカインが必要としている人間より、1人余分に居るため、首を捻った。
「5人以外に発動者が必要だろ? せっかく、大々的に魔法の準備をしてくれたんだ。使ってあげないと可哀そうじゃないか」
「……とりあえず、ろくでもない事を考えている事はわかった。と言うか、セスさんのところって大丈夫なのか? 誰が付いて行ってるんだ?」
「フィーナとレインと……ラース様、シュミット様とレギアス様の緊急避難はカルディナ様に任せてある」
ジークはカインの表情に頼もしさとともに不安も覚えたようで大きく肩を落とすと合流していないセスの部隊が大丈夫かと聞く。
カインは苦笑いを浮かべながらセスと一緒に動いている人間の名前を挙げて行くがフィーナやレインだけではなく、ラースまで駆り出されているようでジークの眉間にはしわが寄った。
「おっさんまで出てきてるのかよ? と言うか、他に比べて俺達の戦力が低くないか?」
「低くない。低くない。それにあまり遊んでいる時間もないからね。シュミット様達がシギルに到着する前に終わらせるよ……ノエル、そろそろ、出発しても良いかな?」
「は、はい」
ジークは人数的に自分達の戦力が不足していると感じたようでがカインは首を横に振ると話の間に休憩していたノエルへと視線を移す。
ノエルはだいぶ、息が整ったようで大きく頷くが1度、足を運んだ場所だと知っているため、まだ先が長い事を知っており、不安そうな表情をする。
「ジーク、ノエルを背負ったら?」
「……こう言う体力が必要ならおっさんをこっちに連れてきておいてくれよ」
「まぁ、そういうわけにも行かなくてね。それじゃあ、ノエル、目的地に着いたらやるべき事を話すから覚えておいてね」
彼女の表情にカインは苦笑いを浮かべるとジークに1つの提案をする。
時間がない事を理解しているジークはため息を吐くと文句をぶつぶつと言い、ノエルを背負う。
文句を言いながらもノエルの事をしっかりと背負っているジークを見て、カインはニヤニヤと笑った後、時間がないようで歩きながら説明する事を告げる。
ノエルはジークの背中で頷くがジークは自分への負荷に納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。
「ノエルは魔法陣の事はわかるよね?」
「は、はい。主に使われるのは結界魔法など防御に特化した魔法に使われる事が多いです。他にも魔法陣を引く事で魔術師1人では魔力が足りなくて使えない魔法でも大地から魔力を借り入れる事ができるので強力な魔法を使う時の補助的な事もできると聞いています」
「うん。正解、それじゃあ、魔法陣を引くにはどうすれば良い?」
ノエルはカインの質問の意味がわからずに自分の知識の中にある魔法陣の説明をする。
カインは彼女の答えに薬と笑った後、新たな質問を出す。
「基本的には地面に魔法陣を書く……ですよね?」
「そうだね。それ以外にも魔力のこもったものを魔法陣の要所要所に配置して、魔力を通してやる。この間、火竜の瞳を割って暴走した火の精霊を閉じ込めていたのはこの方法だね」
「……それって、他の場所でも火竜の瞳みたいなものが壊されているって事か?」
カインの説明にジークは火竜の瞳が他にも置かれていると思ったようで眉間にしわを寄せる。
ノエルは火竜の瞳1つだけでも大変だったのに他にも同じような事が起きていると思ったようで顔の血の気は引いて行く。
「そこまで資金があったらどうしようもないけどね。俺はそう思っていない。あくまであの火竜の瞳で閉じ込めていた火の精霊が暴走した魔力を使って魔法陣を発動させようとしていたんだと考えている。あの場所が魔法陣の書き始めと書き終わりの位置なんじゃないかなと思ってね」
「……火の精霊の魔力を使ってシギル村ごとシュミット様やレギアス様を焼き殺そうって事なんだよな? 本当にそんな事をする気だったのか?」
「その可能性が高いね。だから、予想される魔法陣の要所に向かって貰ったんだよ。結界魔法は規模が大きくなると厄介なんだけどね。どんな魔法陣が引かれるか予想できればわりと簡単に防げるんだ。それも他の魔法に書き換える事も出来る」
カインはシギル村の水不足を解決してもまだ何も終わっていなかったとため息を吐いた。
彼の表情にどこか解決していたと思い込んで浮かれていたジークとノエルは気を引き締めないといけないと思ったようで表情を引き締める。