第605話
「で、この6人は何も知らないわけね」
「そういう事だ。特に依頼主からは何も聞かされてなかったみたいだぞ」
「さすがに相手が相手だ。自分につながるような依頼の出し方はしてないからな」
翌日、カインは転移魔法を使ってフォルムからシギル村への支援物資を運んでくる。
カインはジーク達が捕まえた6人の捕虜を前に小さくため息を吐くとあの後に質問を繰り返しては見たが重要な情報は聞き出せなかったようでジークはため息を吐いた。
捕虜達に依頼を出した人間もそれなりの対策はしており、ソーマは面倒な人間の相手をする事になったと乱暴に頭をかく。
「カインさん、あの、それでワームの方はどうなったんですか? レギアス様は無事なんですよね?」
「レギアス様は無事だよ。とりあえずは尻尾が切られて終わったね。わかってたけど、黒幕の首には届かなかったよ」
「そうか。それで俺達はいつまでシギル村に居れば良いんだ? お前の事だから何か策があるんだろ」
ノエルはレギアスが心配のようでカインに詰め寄るとカインはくすりと笑う。
ソーマはカインの様子から、彼の頭の中で想像している通りに話が進んでいると感じたようで視線を鋭くして聞く。
「シュミット様がレギアス様を連れて馬車でシギル村の事を見に来る予定になっているから、その時に仕掛けてくるんじゃないかな?」
「シュミット様がシギルに来るんですか?」
「うん。問題が起きてるなら、1度、自分の目で見ておきたいって言うからね。支援物資とかはセスがまとめてくれたものがあるけど、フォルムだけじゃ賄えないものもあるからね。昔からだけど、シュミット様はその辺りのタイミングってものを知っているね。今はワームの事はレギアス様やラース様にまかせっきりって事だけど、シュミット様が主導で行えばワームの民意がシュミット様に傾く。そうなってくるとエルト様の補佐で王都に戻っても表立って何かをし難くなるし、今は有力者達で合議をしているけど自分達の保身を考える者達はシュミット様に傾く」
カインはこの後にシュミットとレギアスがシギル村を訪問する事を告げる。
信じられずに首を傾げるノエルだが、カインはシュミットの成長を見ている事で以前より、かなり高い評価を付け直したようである。
その言葉にノエルもシュミットには世話になっており、頼りにしている部分が多いため、賛成だと言いたいのか大きく頷く。
「……お前、シュミット様とレギアス様を囮にする気か」
「囮ですか?」
「だって、ちょうど良いタイミングじゃない?」
しかし、ジークはカインの言葉に裏がある事を読み取ったようでシュミットが囮だと険しい表情で言う。
意味がわからずに首を捻るノエルに対してカインは口元を緩ませて笑った。
その表情からジークの思った事が正解だとわかる。
「良かったね。先にジーク達に捕まって、このままいけばきっと、シュミット様とレギアス様の暗殺の実行犯に仕立て上げられてたよ。捕まって大勢の民衆の前で斬首刑とかになるんだ。反逆者の公開処刑、盛り上がるかもね。どうする? 冒険者になる人間は名声を求めるって言うけど、悪名も立派な名声だよ」
「良くはないだろ。だけど、このままだとシギル村が襲われるって事か? どうするんだよ。戦えない人達ばかりなんだぞ」
「そ、そうです。ジークさん、どうしましょう? 皆さんでフォルムに退散しましょうか?」
カインはジーク達が捕まえた冒険者達はギムレットの捨て駒の1つだと彼らの傷口を笑顔で広げて行く。
カインの物言いに自分達が完全に厄介ごとに足を突っ込んだと理解した捕虜達の顔は真っ青である。
ジークはカインの想像通りなら村人を守りきるのは難しいと眉間にしわを寄せ、フィアナは顔を真っ青にして慌て出す。
「そうだね。火竜の瞳を壊して、火の精霊を暴走させるほどの魔術師がいるんだから、下手をしたらこの村このまま燃えちゃうかもね。いや、元々、シギル村ごとシュミット様とレギアス様を燃やし尽くすつもりだったのかも知れないね」
「カインさん、笑顔で何を言っているんですか!? 笑っていないで何か考えてください。どうするんですか? カインさんの頭はこういう時に役立てるものなんじゃないですか」
フィアナの慌てる姿を見てもカインは気にする事無くさらに話を広げて行く。
その話はノエルにとっては笑えなく、カインの首をつかみ、彼の身体を大きく揺らす。
「……ノエルも言うな」
「仕方ないだろ。ノエル、落ち着け。それだとカインからの指示がでない。セスさんもいないし、何か考えがあるんだろ」
「そうなんですか?」
ノエルとカインの様子に眉間にしわを寄せるソーマ。
ジークはため息を吐きながらノエルをカインから引きはがすとセスが同行していなかった事が気になっていたようで早く準備するべき事を話すように言う。
ノエルは首を傾げながらカインへと視線を向けるとカインは表情を引き締めるがどこかその表情は暗い。
「実はまったく策はないんだ。セスは巻き込みたくないからフォルムに置いてきた」
「そ、そんな冗談を言ってないで早く方法を話してください」
「どうして、疑うかな? 重苦しい空気も出して見て結構迫真の演技だったと思うんだけど」
カインは無策だと言い、ノエルはその言葉に半泣き状態で叫ぶ。
彼女の取り乱した様子が楽しいのかカインはくすくすと笑うが周囲からは冷たい視線が向けられる。
「カイン、バカな事を言ってないで早く説明をしろ。シュミット様とレギアス様の命が狙われているなら、失敗するわけにはいかないだろ? 何かやらないといけないなら時間だって必要だろうし」
「そうだね。あまり遊んでいる時間もないかな? その前に……選べ。悪事の片棒を担がされて、みじめに死んでいくか? こっちに乗り換えるか?」
ジークは本題を始めようとしないカインの様子に大きく肩を落とす。
カインはそろそろ本題に移った方が良いと判断したようで捕虜6人に向かい高圧的に問う。
その態度はいつものふざけた感じは一切なく、彼の変化に捕虜達は息を飲むと仲間内で顔を見合わせた後、カインの指示に従うと大きく頷いた。