第603話
「……まさか、本当に捕まえるとはな」
「俺も驚いている」
「……と言うか、村の人間が引っかからなくて本当に良かったな」
ジークが罠を張ってしばらくした頃、寝る前に見回りに行ったジークとソーマは罠に3人ほど引っかかっているのを見つけてため息を吐いた。
罠にかかった3人は網で捉えられて木の上に吊るされており、ソーマは罠にかかったのが村人ではないと判断したようで胸をなで下ろす。
「一先ず、下ろすぞ。話も聞きたいし」
「と言うか、これくらいの罠に引っかかるって本当に冒険者なのか? これくらいの罠、フィーナでも突破するぞ」
「あいつは力技で潜り抜けるが正しいだろ。とりあえず、話を円滑に進めるために地面に落とすか?」
罠に捕らえられた3人はジークとソーマを睨み付けており、見上げた状態では話がしにくいと思ったソーマはため息を吐く。
ジークはこの程度の罠に引っかかるのが信じられないようで眉間にしわを寄せるとソーマは呆れた様子で言った後、3人を下ろそうとするがその方法は酷く雑である。
「……雑じゃないか?」
「見覚えもないヤツらだし、こっちへの敵意もありありだからな。腕か足の1本くらい折れてた方が逃げられないから良いだろ」
ソーマの提案にジークの眉間のしわはさらに深くなるが、ソーマは気にする事無く、短剣を抜き取ると木に括り付けてある網を狙って短剣を投げつけ、3人は網にくるまれたまま、短剣は狙い通りに飛んで行き、網を木に結び付けている場所を切り裂き、3人は地面に落下した。
網に捕らえられたままでは受け身なども取れなく、3人は地面に身体を打ち付けて苦悶の表情を浮かべている。
「声は上げないか? それなりに場数は踏んでるみたいだな。どうする? 足の腱でも切っておくか?」
「そこまでする必要はないだろ? とりあえずは村長さんの屋敷に戻るか?」
「そうだな。2人で引きずって行けるか?」
3人の様子にソーマは口元を緩ませると3人を逃がす気はないと言いたいようで足を使い物にならないようにすると脅す。
ジークはそれが脅しだと理解したのかため息を吐くとウィンの屋敷に戻る事を提案し、ソーマは網に捕らえたままの3人を引きずって行こうと笑う。
「無茶だろ」
「いや、できそうだ」
ジークはバカな事を言うなと言いたげだが、3人が地面に落ちた音に気が付いたようでシギル村出身の新米冒険者2人が合流し、網に入った3人を引きずってそのままウィンの屋敷に移動する。
「ジークさん、やりすぎじゃないでしょうか?」
「俺もそう思うんだけどな。変な気を起こす気力を奪っておいた方が良いって言うから、ノエルとフィアナは動きを封じるまで近づくなよ」
ウィンの屋敷に着いた頃には3人はぼろぼろになっており、その様子にノエルは顔を引きつらせる。
ジークは頭をかくも情報を集めなければいけないため、3人の手足を縛りつけて行く。
「……なあ、なんか話してくれよ。別に命までは取ったりしないから」
「……」
「どうするんだよ?」
3人を縛り付け、誰の指示でシギル村の様子をうかがっていたかと聞く。
しかし、3人は話す気はないようで口をつぐんだままであり、ジークは困ったように頭をかくとソーマへと視線を向けた。
「ジーク、あれを出せ」
「あれ? ……これか?」
「待ってください!? ソーマさん、それは危険です!! 下手したら死人が出ます!!」
ソーマは少し考えるとジークに栄養剤を出すように言い、ジークは首を捻りながら栄養剤を取り出す。
ノエルは目の前にで手渡される毒薬とも言える栄養剤に3人の命の危機を感じ取ったようで声を上げる。
「大丈夫だ。ジークが言うにはただの栄養剤なんだ。誰も死なない」
「それなら、どうして、そんな邪悪な笑みを浮かべているんですか?」
「自白剤とかはジークは持ってないからな。これで苦しむ姿を見れば考えが変わるだろう?」
ソーマは楽しそうに口元を緩ませながら、3人の捕虜のうちの1人の顔をつかみ、無理やり口を広げさせると栄養剤の瓶のふたを片手で器用に開けた。
次の彼の行動は目に見えるものであり、フィアナは顔を引きつらせながら聞く。
彼女の言葉を気にする事無く、ソーマは捕虜の1人の口の中にジークの栄養剤を瓶の1/3ほどを流し込み、流し込まれた1人はむせ返った後、白目をむいて気を失ってしまう。
その様子に残された2人は自分達の身の危険を実感したようで顔は真っ青になって行く。
「次はどっちがこいつの餌食になる? 安心しろ。成分上では毒じゃないらしいからな。死ぬとしたらショック死だ。ジーク、あるだけ並べろ」
「……いい加減、人の栄養剤を毒薬扱いするのは止めてくれないかな?」
「そうだな。これを飲み終わる頃にはきっと素直に話してくれるようになっているだろうな」
2人の様子を見てソーマは楽しそうに笑うとジークに追加分を要求する。
ジークはため息を吐きつつも、テーブルの上に持っている栄養剤を並べて行く。
並べられる栄養剤の様子とソーマの物言いに仲間と同じ目に遭わされると思ったのか捕虜の2人の顔はさらに血の気が引いている。
「それじゃあ、もう1度、聞くぞ。お前達は何をうかがっていたんだ?」
「……ソーマさん、怖いです」
「こう言うのはカインより、向いてるかもしれないな。ノエル、フィアナは部屋の外にいたらどうだ?」
並べ終わった栄養剤を見て、ソーマは改めて2人の捕虜に向かって笑顔で問いかけた。
その様子は笑顔だがかなりの圧力があり、ノエルとフィアナは完全に聴取される側の人間と同調してしまったのか身体を震わせている。
ジークはなんと言って良いのかわからないようだが、2人のトラウマになってはいけないと思ったようで2人に部屋の外に出るように言う。
「そ、そうします」
「はい」
「ジークは良いのか?」
ノエルとフィアナはジークの提案に頷くと逃げるように部屋を出て行ってしまい、ソーマはジークにも出て行かなくて良いのかと聞く。
「仕方ないだろ。縄が解けでもしたら、さすがに3対1はしんどいだろうし、それに後学のために見とくのも悪くない。毒じゃないから死ぬことはないだろうし」
「心が壊れるかも知れないけどな」
「……何度も言うけど、栄養剤だからな」
ジークは何かあった時にソーマ1人では危険だと思ったようであり、ため息を吐くと壁にもたれかかり、ソーマの様子を見守る。
ソーマは楽しそうに笑うと次の獲物を決めたようで2人目の口の中に栄養剤を突っ込み、部屋には悲鳴が響く。
ソーマと捕虜に完全に栄養剤が毒薬扱いされている事にジークはムッとしながらも視線をそらす事はない。