第601話
「……何とか収める事が出来たか?」
「そうですね。ただ、やはり、表だって攻撃はしてきませんでしたね」
有力者達からワームの実状を調査するために話を聞いたシュミットだが、密告書を出してきたにも関わらず、ギムレットは合議の時には上手く立ち回っていたようで特に非は認められなかった。
密告書の件に関しても問い詰めたところ、すでに根回しは終わっていたようであり、合議でレギアス達を快く思っていなかった有力者達に祭り上げられただけど言い、合議から外す事が結滞した有力者達もギムレットの名前を利用しただけだと口裏を合わせている。
シュミットはギムレット本人の力を削ぐ事はできなかったが、一派を排除する事で彼の力を削げたと思ったようで胸をなで下ろすが、セスは頷くもののギムレットが静かに動向を見ていた事に何かイヤな予感がしているようで難しい表情をして言う。
「カイン=クローク、一先ずはお前の予想通りに運んだわけだが、この後はどう動くと考える?」
「そうですね。考えられるのは街道整備の邪魔でしょうか? とりあえずはレギアス様とラース様の邪魔をしてくるのは確かですね」
「それくらいは誰でもわかる」
ワームの有力者への聞き取りだったため、レギアスとラースは同席していない事もあり、カインに意見を求めるシュミット。
カインは頷くと誰でも答えられる事を言い、シュミットは眉間にしわを寄せる。
「現状で言えば何もできません。シギル村の事件を起こした実行犯を捕らえる事が出来れば何か進むかも知れませんが、捕まえてもトカゲのシッポ切りでしょうから、ギムレット殿にはつながるとは思えませんから、そこはレギアス様に任せるしかないでしょう。実際、レギアス様が誰よりも相手のやり方を理解しているでしょう。今回の聞き取りで彼に近い人間は合議から外される人間も出てきていますから、合議での意見は通りにくくなるでしょうから、表だって何かをしてくる事はないでしょう」
「確かにそうかも知れないが……シギル村の件は何かわからないのか?」
「そうですね。証拠になるようなものも見つかりはしましたけど、出所を見つけるのは難しいでしょうね。きっと、非協力的でしょうから」
シギル村の件にはギムレットが関わっている事は予測できるが、追い詰めるまでの証拠はない。
カインは火竜の瞳を用意したのがガートランド商会だと考えているが、ステムの息がかかっている商会の人間が協力するとは思えないため、困ったように笑う。
「……面倒な事だ」
「そうですね……」
解決策の思いつかない問題に大きく肩を落とすシュミット。
セスは小さく頷くと何か気になったようで首を捻った。
「どうかしたかい?」
「そう言えばジークとノエルが戻ってきませんね。フォルムに戻ったんでしょうか? 噂もしっかりと広がってきていますから、上手くはやってくれたようですが、合流してこないのは気になりますね」
「そうだな。ワームにいるのだから、来ても良いはずだが……いや、そう言えば、あの2人はこの屋敷の場所を知らないか?」
セスは先にワームに移動したジークとノエルが現れない事を疑問に思ったようである。
シュミットは頷くと王都で仕事をしている事の多い自分の屋敷に2人が足を踏み入れた事がない事を思い出して首を捻った。
「ノエルはまだしもジークがいるんですから、領主のお屋敷です。少し探せばわかりますよ。たぶんですが、ソーマに頼んだ事に協力しているんだと思います」
「そうか? 何か見つかれば良いが……人選的に大丈夫なのか?」
「フィーナが居ないので問題ないでしょう。ジークとノエルには村の人間も協力的でしょうし、何かあれば世間話的な情報でも入るはずです」
カインはソーマが2人を連れてシギル村に移動した事を予測しており、シュミットは先行で噂話を広めた事でシギル村に起こりうる事は予想しているようだが人を選んだソーマとは面識がないため、不安そうにつぶやいた。
カインはシギル村の水不足を解決した事やその時に医師のいないシギル村の人達の診療をしたジークとノエルには村の人達も警戒は薄いと考えているようで情報収集には適切だと笑う。
「そう思いたいものだな……レギアスを呼んでくれないか。シギル村の事で話を詰めなければいけないからな」
シュミットはジーク達に任せるしかないと思ったようで小さく肩を落とすと切り替えようと思ったようであり、使用人を呼びつけてレギアスを再招集するように指示を出す。
「やっぱり、医者が欲しいな」
「そうですね」
村長であるウィンは魔術師であり、治癒魔法は使えるようだが治癒魔法は主にケガを治す事に使用される。
病気に関して言えば医師の診断が必要であり、薬学の知識がある者はいないようで風邪や慢性的な病気の事に対しての質問が多い。
さほど大きな村でもないため、日が沈むころには村人達の診察が終わったわけだが問題は多いようでジークとノエルは大きく肩を落とす。
「ジークさん、ノエルさん、お疲れ様です」
「フィアナもお疲れ様……ソーマ、何かわかったか?」
その時、ソーマとフィアナが2人に声をかけ、ジークはソーマに何か変わった事はないかと聞く。
「今のところはないな。ただ、声をかけた冒険者達が集まらない。ここまで来るのに何かあったかもしれないな」
「それってどういう事ですか?」
「最初に言った通り、シギル村の件を解決したのがジーク達じゃ、都合の悪い人間がいるって事だよ。カインの事だ。ワームの合議で上手い事やってるとは思うけどな。状況を確認するために人が送られてくる可能性だって高い。その時に解決したのは他の人間だと言い切れば再度、情報を改めないといけない状況になる。そうする事で何かをやる時間ができるからな。最悪、このメンバーでどうにかしないといけない事も出てくるぞ」
ソーマが手配した冒険者達の到着が遅れているようでソーマは困ったように頭をかくとジーク、ノエル、フィアナに気を引き締めるように言う。
ノエルとフィアナは大きく頷くがジークは何かあるのか険しい表情をしている。
「ジークさん、どうかしましたか?」
「何でもない」
ノエルはジークの表情に気づき、不安そうに聞くとジークは鼻先を指でかいた後、彼女に心配させないように笑顔を見せた。