第599話
「あ、あの、ジークさん、ソーマさん、どうして、話をそらすんですか?」
「そらすも何も報酬だ。名誉だってのはあいつが1番うるさいだろ。たいした働きもできないのに」
ノエルはフィーナの事をもう少し信じて欲しいと主張するがソーマはバッサリと彼女の言葉を切り捨てる。
「えーと、話がそれたな。フィーナ以外は別に誰がシギルの事を解決した事になっても問題ない。ただ、今回は別だ」
「別なんですか?」
ジークは話を戻そうとフィアナに視線を移す。
フィアナはジーク達が名声になど興味がない事はルッケルとシギルの件でなんとなく理解しており、首を捻る。
「今回の件でレギアス様の足を引っ張ろうとしている相手が出てきているからです」
「どう言う事ですか? レギアス様って、ジークさん……」
その時、ウィンはカインの手紙を読み終えたようで難しい顔で言う。
フィアナは先日、ジークとレギアスの関係を知った事もあり、慌てて状況を確認しようとするがジークがレギアスの甥だと知らないソーマがいるため、ノエルは慌てて彼女の口を塞ぐ。
「なんか隠していそうだけど、厄介事っぽいから別に聞かない事にする」
「そうしてくれ。ワームにはレギアス様の足を引っ張りたいヤツがいるんだけど、シギル村の件を自分達の手柄にしたいらしい。ワームから冒険者も兵士も送られなかったのはそいつらがレギアス様を邪魔していたって話だ」
「それじゃあ、シギル村はレギアス様の邪魔をするために使われたと言う事ですか?」
ノエルとフィアナを見て苦笑いを浮かべるソーマ。
ジークは簡単な説明をするとフィアナは自分達の事を何とも思っていない人間がいると理解したようでその顔は小さく歪む。
「そのようですね」
「……すいません」
「いえ、ジークくんが謝る事でもないでしょう。それに水不足が起きた時にすぐに原因に気が付けなかったのは私の落ち度です。すぐに気が付けていればこのような事にはならなかったんですから」
ジークは伯父と祖父の権力争いにシギル村の人達を巻き込んでしまった事に負い目があるようで深々と頭を下げる。
ウィンはジークのせいではないと首を横に振り、自分にも原因があると笑う。
その言葉はジークを気づかっての年長者の言葉であり、ジークはもう1度、頭を下げるとこれ以上は言わない方が良いと判断したようでウィンの笑顔に合わせるように笑った。
「一応、今回、話に信憑性を持って貰うためにジークとノエルに同行して貰いました。おかしな事をしそうな奴らがいないか見張るためにこの村の出身者を第1部隊として連れてきました。見なれない人間を見た場合は連絡が来るはずです。しばらくしたら、俺と懇意にしている冒険者が数名来ると思います。それでおかしな事をしようとする人間への警戒になると思います」
「わかりました。本来なら村長である私が対処しなければいけない事なのですが、よろしくお願いします」
「確かにこの村の出身者なら、不審な人にすぐに気が付きますね」
1番、優先されるべきは村民の命であり、それを考えての人選だとソーマは言う。
ウィンは不甲斐ないと思っているのか深々と頭を下げてシギル村の事を頼むとノエルは新米冒険者だけを集めていた理由に納得が言ったようでうんうんと頷く。
「いや、確かに見張りとしてはこの村の人間の方が良いのかも知れないけど、大丈夫なのか? 実践経験はあまりないんだろ?」
「そこはほら、ジークが頑張るから大丈夫だろ」
「……やるよ。やれば良いんだろ。それで何をしてれば良いんだよ?」
しかし、ジークはウィンの薫陶を受けたフィアナを見ているため、才能は感じるようだが経験不足は否めないと言う。
ソーマはジーク伝いでラースと懇意にしており、ジークがレギアスと世話になっている事やジークの性格からこの状況では彼が断れない事がわかりきっているようで口元を緩ませた。
ソーマの表情にジークは大きく肩を落とすと第2部隊が来るまでの間に何をしてれば良いか尋ねる。
「とりあえずは、患者でも見てればいいんじゃないか?」
「患者? ……わかったけど、そんなに手持ちの薬はないんだけど」
「ジークさん、わたしも手伝います」
屋敷の中を村民達は覗き込んでおり、その様子からジークは何か察知したようで頭をかいて屋敷の外に出て行き、ノエルはジークの後を追いかける。
「医者がいない村だとジークは貴重だな」
「そうですね。転移魔法が使えるようになったら、ジークさんにはいろいろと助けていただこうと思います」
「転移魔法が使えるようになったらって、フィアナは冒険者を止めるのか?」
外に出るなり、ジークは村民達に拉致されて行ってしまい、ソーマはその様子に苦笑いを浮かべた。
フィアナは転移魔法でフォルムに行けるようになればジークに協力を仰ぎやすいと思っており、大きく頷くが彼女の言葉は冒険者を止めるとも聞き取れる。
ソーマは彼女の言葉の意味が気になったようで首を捻り、フィアナはきょとんとした後に自分の言葉を思い出したようで困ったように笑う。
「先日、ジークさんとノエルさんと一緒にお仕事をさせていただいて、私には続けて行くのは難しいかな? と思った事は事実です」
「そうか……」
「で、でも、すぐにやめると言うわけではありません。今のシギル村はこんな感じですし、少しでもお金を入れないといけませんから、カインさん達に負担ばかりかけられません」
フィアナはジーク達と仕事を受けた事で冒険者としてやっていけるか不安になっているようでうつむいてしまう。
ソーマは引退して行く冒険者達を何人も見送っている事もあり、彼女が決断した事なら仕方ないと笑った。
フィアナはカインとセスがフォルムのためにもなるからとシギルを支援してくれているが、かなり、シギル村にとって都合が良い事は予想が付いているようで恩を返したいと言う。
「……そうか。フィアナ、言っておく。カインとは縁を切れ」
「あの、どうして、その反応ですか?」
「フィアナが冒険者を引退するつもりでもカインは使えると判断した人間は使うぞ。少なくともカインは今回の件でフィアナを使えると判断しただろうからな」
フィアナの誓いを挫くようにソーマは彼女の肩を優しく叩き、フィアナは意味がわからないようで首を傾げる。
ソーマは彼女の道が前途多難だと思ったようであり、眉間にしわを寄せるとワームで周囲を掌の上で動かしているであろうカインの顔を思い浮かべて大きく肩を落とした。




