第598話
「ジークさん、ソーマさん、どうしたんですか?」
「ちょっとな。フィアナもちょっと、来てくれないか?」
「ノエルさんはやっぱり、馬車はダメなんですね」
シギル村に到着して村長であるウィンの屋敷に向かう途中、村の子供達と歩いていたフィアナがジーク達に気づき、手を振る。
ソーマは馬車を止めるとジークはフィアナに馬車に乗るように言う。
フィアナは先日の件に関係ある事だと思ったようで子供達に家に帰るように言った後、馬車の中を覗き込むとぐったりとしたノエルを見つけて苦笑いを浮かべた。
「……すいません」
「いえ、気にしないでください。誰にだって苦手なものはありますし」
力のない声で返事をするノエル。
彼女の様子を見てフィアナはノエルを励ますように言うと同行していたメンバーがシギル村出身の幼馴染達だった事に気づき、挨拶を交わして行く。
「フィアナ、昨日、ジーク達が帰ってから、怪しい人間は来てないか?」
「怪しい人間ですか? 特に来てはいないと思いますけど」
「なんか、原因に突き当たりそうなんだよ」
運転席からソーマはフィアナに声をかける。
フィアナは質問の意味がわからないようで首を捻り、ジークは簡単な説明をするが祖父であるギムレットが黒幕とは言えないようで面倒だと言いたげに頭をかいた。
「そうなんですか? そうなるとやっぱり、あの場所で火竜の瞳が壊されていたのは偶然じゃないって事ですよね? こんな村に何の恨みがあったんでしょう? 村長さんは良い人なんです。恨まれる事なんてないのに」
「あー、どうやら、村長さんは関係なさそうだ」
「少し安心しました……ジークさん、どうかしましたか?」
フィアナは火竜の瞳の件はウィンへの恨みがある人物の犯行だと思っており、表情を曇らせる。
ジークはどこまで話して良いかわからないようで眉間にしわを寄せるが当事者の1人であるフィアナに隠しておいても仕方ないと思ったようで困ったように笑う。
ジークの心内を知る余地もないフィアナは純粋にウィンが恨まれていない事を知り、安心したのか胸をなで下ろすがジークの表情が気になったようで首を捻る。
「ちょっとな。厄介な事が多くて困ってるんだ。カインが次から次と余計な仕事を持ってくるからな」
「余計な事ね。それはジークにとっての余計な事か、カインにとっての余計な事か」
ジークは面倒事を全てカインのせいにして話を終わらせようと思ったようで小さくため息を吐く。
ソーマはそんな彼の表情に苦笑いを浮かべた時、ウィンの屋敷に到着したようで馬車が止まる。
馬車に乗っていた新米冒険者達は次々に降りて行く。
「……」
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
「ジークさん、ノエルさん、今日はどうかしたんですか? ……あの、こちらは?」
ノエルはフィアナに手を引かれて馬車を降りると外から聞こえる声に気が付いたようでウィンが顔を出す。
2人以外にソーマがいる事に気づき、ウィンは首を傾げる。
「村長さん、こちらはソーマさんです。ソーマさんが居なければ、私はジークさん達に出会えませんでした」
「ソーマ=ゼリグリムです」
「ウィンです。この村の村長をさせていただいています」
フィアナはウィンにソーマを紹介するとお互いに挨拶を交わす。
挨拶を交わした後、同行した新米冒険者達は各自、家に帰ってしまい、ジーク達はウィンの屋敷に案内される。
「それで今日はどうしたんですか? 転移魔法が使えるようになるにはまだ早かったはずですよね?」
「私は使えるようになっていませんけど、私、転移魔法を覚えるのに失敗したんですか?」
「いや、転移魔法が使えたら、馬車で来ないから」
ウィンはジーク達がシギル村に来た理由がわからないようで首を捻り、フィアナはまだ使えない転移魔法に自分には才能がないと思ったようで肩を落とす。
ジークは冷静になれとため息を吐くとその言葉はもっともであり、フィアナは気まずそうに視線をそらした。
「そうですね。馬車でシギル村に来たと言う事は急ぎの件なのでしょう」
「はい。ちょっと、面倒な事にシギル村が巻き込まれそうなんで、ソーマ」
「あー、説明するより、こっちの方が速いな」
ウィンはフィアナの表情にくすりと笑った後、ジークとソーマに向かう。
2人は自分達の説明より、カインのメモを見せた方が手っ取り早いと思ったようでウィンの前にメモを置く。
ウィンはメモを手に取り、そこに書かれている事を読み始める。
「あの、カインさんは何を指示してきたんですか?」
「面倒事かな?」
「面倒事ではあるけどな。結構、ジーク達には重要な事だ。ジークは冒険者って言われるのを嫌がるけどな。報酬や名声はしっかりと仕事を達成した者が貰うものだ。そう考えるとフィアナも当事者だな」
フィアナはウィンの背後からメモを覗き込む事はできないようでそわそわとしながら、メモの内容を聞く。
ジークは苦笑いを浮かべるとソーマはジーク達とともにしっかりとシギル村を救ったフィアナを誉めるように言う。
「どういう事ですか?」
「フィアナの手柄を横取りしようとしている奴らがいるって事だ。この村の水不足を解決したのは自分達だって主張しようとする奴らが出てくる。ここにも話を合わせろってな。言う事を聞かないなら力づくで言わせてやるって言ってな」
「力づくですか? 村に被害が出るなら、私は別にそんなものはどうでも良いです。でも、ジークさん達は困りますよね?」
ソーマの説明にフィアナは村人達に被害が出る事は避けたいようであり、手柄など上げてしまえば良いと言う。
彼女自身は水不足が解決できたのは自分だけの力ではない事も充分に理解しており、ジークとノエルに視線を移す。
「俺も手柄とかはどうでも良い」
「はい。わたしもです。フィーナさんとカインさんも同じことを言ってくれると思います。でも、問題はそこじゃないんです」
「……いや、フィーナは文句を言うだろ」
先日の水不足を解決したメンバーは手柄を横取りされても別に怒らないとジークとノエルは苦笑いを浮かべる。
しかし、ソーマはフィーナの性格を考えれば文句は必ず出ると言い、大きく肩を落とし、ジークも同じことを思ったのか眉間にしわを寄せた。