第593話
「……あり得ませんわ」
「別に俺は俺だし、どうでも良いだろ。それこそ、カルディナ様は名前だけで態度を変えるのか?」
朝食後、カルディナの転移魔法で王都にあるオズフィム家に移動したジークとノエル。
ティミルは朝から来客の予定があったようで彼女はカルディナの淡い期待を即座に叩き壊し、ジークとレギアスが血縁関係にある事を認めた。
元々、カルディナに無理やり連れてこられた事もあり、ジークとノエルは予定のあるティミルの邪魔をしてはいけないと話を終えると火竜の瞳を持って魔術学園に向かう。
その間、カルディナは未だに納得がいかないようでぶつぶつと文句を言っており、彼女の様子にジークは肩を落とす。
「あ、ジークにノエル、カルディナまで良いところに居たね」
「……どうして、おかしなタイミングで出てくるかな」
「どうして、そうやってイヤな顔をするかな?」
その時、また王城を抜け出していたエルトが3人を見つけて駆け寄ってくる。
エルトを見て、ジークは面倒な人間にあったと顔をしかめ、エルトは不満そうに口を尖らせた。
「余計な事に巻き込まれるからだ。俺とノエルは用事があって魔術学園に来たんだ。他にもやる事があるし、無駄な時間はないんだよ。ただでさえ、今日の予定をつぶされて王都まで来たんだから」
「予定が変わったと言う事は今の用件が終わったなら今日はヒマだと言う事だね」
「……どうして、そんな都合の良い答えになるんだ?」
ジークはエルトの相手をしている時間はないと告げるがエルトは自分の都合のよいように解釈をし、ジークは大きく肩を落とす。
「私は研究があるため、失礼します」
「まぁ、良いじゃないか。ずいぶんとジーク達とも仲良くなっているみたいだし、私とも交友を深めても、とりあえず、ジークとノエルの用を終わらせようか?」
「……なんで、こうなるかな?」
カルディナは厄介ごとに巻き込まれたくないようで逃げるように魔術学園に入って行こうとするがエルトは手を伸ばして彼女の首根っこをつかむ。
エルトは笑顔でジークを促し、ジークは大きく肩を落とし、ノエルは苦笑いしか浮かべられないようである。
「……珍客を連れてきたものだな」
「す、すいません。断り切れなくて」
カルディナが同行していた事もあるがジーク達は先日の巨大モグラの件で魔術学園でもそれなりに顔が知れていたようで簡単にフィリムの研究室に通される。
エルトの顔を見たフィリムは眉間にしわを寄せ、ノエルは深々と頭を下げた。
「それで、何の用だ? 先日の遺跡で発見したものは何もわかっていないぞ」
「でしょうね。えーと、先日、フィアナの村に行ってきたんですけど、それの簡単な報告とカインから、これをフィリム先生に渡してくれって」
「これは何だい? 宝石の欠片みたいだけど」
フィリムは1度、ため息を吐くとジークに自分を訪れた理由を聞く。
フィリムはフィアナとも知り合いのため、シギル村の事を報告しないといけないと思ったようであり、そのきっかけに砕けた火竜の瞳を懐から取り出す。
エルトは興味深そうに火竜の瞳を覗き込むが何かわからないようで首を傾げる。
「火竜の瞳か? これを見るのは2度目だな。しかし、ずいぶんと派手に破壊したものだな」
「……フィーナだから、仕方ないですよ」
「火竜の瞳? ずいぶんと高価なものだね。フィーナが壊したならここまで砕けているのも頷けるね」
フィリムは1度で火竜の瞳と判断するが状態が気になるようで眉間にしわを寄せた。
ジークは苦笑いを浮かべてフィーナのせいにするとエルトは破損状況に納得したようでうんうんと頷く。
「ガサツが服を着て歩いているようなものですからね。まったく、これほど高価なものを破壊するなんて信じられませんわ」
「そ、それは仕方なかったんですよ。フィーナさんのせいじゃないです」
「フィーナがガサツなのは否定しないけどな。とりあえずは話を聞いてくれ」
カルディナは火竜の瞳が何に使われていたか聞いていないため、フィーナをバカにするように言う。
ノエルはフィーナが悪いわけではないと首を横に振り、ジークは苦笑いを浮かべると火竜の瞳を手にするに至った経緯を話そうとする。
「興味はない。それであいつはこれをどうしろと言っているんだ?」
「……そうですか? とりあえず、加工して力を使えないか試して欲しいって、使えれば武具の材料になるかも知れないからって」
「ふむ。確かに加工すれば、元の力までとはいかないがそれなりに強力な部材になるだろうな。わかった。できるかはわからないがどうにかしよう」
しかし、フィリムは話を聞く必要などないと言い切り、ジークはカインに頼まれた本題だけを話す。
フィリムは欠片を手に取ると火竜の瞳の力を再生させるのに協力する事を約束する。
「これには興味を持ってくれたんだな」
「そうですね。良かったです。これをフィリム先生が預かってくれなければ、後が怖いですから」
「それじゃあ、用件は終わったって事で良いのかな?」
フィリムが頷いてくれた事に安心したジークとノエルは胸をなで下ろす。
エルトはフィリムが火竜の瞳を受け取った事でジークとノエルの用事が終わったと判断したようであり、笑顔を見せ2人の肩をつかんだ。
「俺達はフォルムで仕事があるんだよ。最近、振り回されっぱなしで調合とかやらないといけない事がたまってるんだよ」
「そ、そうですね。ジークさん、帰りましょうか?」
「帰るつもりなら、それでも良いけど私も同行するよ」
フォルムに逃げ帰ろうとするジークとノエルだが、エルトは2人を逃がす気などない。
彼の言葉に頭を抱えるジークはフィリムに助けを求めるような視線を向けるが彼は興味などないようで手にした火竜の瞳の欠片を眺めている。
「……カインの屋敷で良いか?」
「いや、最近はシュミットの指示であそこには見張りが居てね。ここもライオの護衛がいるから長居はできないんだよね。と言う事で行こうか? カルディナ、逃げないようにね」
「わかりました」
いろいろと諦めたようでジークは大きく肩を落とすとエルトは目的地へ向かって歩き出す。
カルディナはエルトの目線がジークとノエルに行っているうちに逃げ出そうとしていたようだが、彼はしっかりと彼女へと釘を刺した。
逃げ切れないと判断したのかカルディナは恨めしそうな視線をジークとノエルに向ける。
「……元をたどれば、カルディナ様が原因だろ」
「……反省しますわ」
ジークは自分達が王都に来るきっかけを作ったのはカルディナだと言い、彼女もエルトに巻き込まれて反省したようで大きく肩を落とした。