第587話
「何がしたいんだろうね」
「ふざけてるの?」
カインは被害が拡大しているにも関わらず、新たに植物の根を成長させる。
火の精霊は植物の根を焼き、フィーナへ向けて火球を飛ばす。
フィーナの目にはカインが自分ではなく、火の精霊を助けているようにしか見えず、怒鳴り散らすが命の危険が押し迫っているため、何とか剣で火球を薙ぎ払っている。
「フィーナ、左に飛ぶ」
「うっさい!! あんた、絶対に私を殺す気よね!!」
「いや、フィーナの性格だと絶対に反対に飛ぶと思ったからね」
カインの使い魔からフィーナに指示が出るが、フィーナはすでにカインを敵としてしか見ていないようで彼の指示とは逆に右に飛ぶ。
フィーナが地面に着地した瞬間、後方からジークの冷気の魔導銃の弾丸が炎を薙ぎ払った。
その場所はカインが最初にフィーナに飛べと言った場所であり、フィーナは顔を真っ赤にしてカインの使い魔に向かって怒鳴り散らす。
しかし、カインは彼女の性格を計算した上での指示だと言い切る。
「それより、剣を構える」
「わかってるわよ。と言うか、ジークに狙わせるなら、当てなさいよ」
「ダメ、ジークの魔導銃はあくまで援護、火竜の瞳を砕くのはフィーナの仕事」
カインの言葉にムッとしながらも背後から飛んでくるジークの魔導銃は火の精霊相手には有効であり、フィーナはカインにしっかりと狙撃の指示を出せと言う。
その言葉をカインは否定すると三度、植物の根を成長させ、火の精霊に向かって放つ。
「意味がわからないわよ。よく考えたら、これだけの威力があるんだから、ジークなら倒せたじゃない」
「ジークの魔導銃は火竜の瞳を砕く事が出来るかも知れないね。だけど、それだと救えない」
火の精霊が植物の根を燃やし尽くす様子を見ながら、フィーナはぶつぶつと文句を言い始める。
それはかなり距離があるにも関わらず、一帯の炎を薙ぎ払うジークの冷気の魔導銃の威力を見れば当然であるが、カインにはカインに考えがあるようで先ほどとは違った真剣な声質で言う。
「救えない?」
「目の前にいるだろ。今回の1番の被害者が」
「……そうね。だけど、できるんでしょうね?」
カインの声の変化に気が付いたフィーナは首を傾げるとカインは彼女に何と戦っているか見据えるように促した。
我を忘れて火球と熱風を飛ばす火の精霊は今回の件を企てた人間の1番の被害者であり、フィーナは目に映らない敵へ怒りが湧き上がってきたようで真剣に表情になる。
「できる、できないじゃなくて、やるんだよ」
「そうね。仕方ないから、今回だけ、あんたの指示に従ってあげるわ」
「とりあえず、流れ込んだ力をなるべく放出させる。近づけるくらいまで力が弱まったら、原因を叩く」
フィーナは自分では火の精霊を助ける方法を考え付かないため、カインの指示通りに動くと言う。
彼女の言葉にカインはフィーナに作戦を告げる火の精霊の魔力を使わせるために植物の根を使い攻撃を仕掛ける。
「そういう事なら、最初から言いなさいよ!!」
「言ってもどうせ聞かなかっただろ」
「殴る。戻ったら絶対にぶん殴る」
火の精霊は襲い掛かる植物の根を燃やし、フィーナへと火球を飛ばす。
フィーナはカインの目的を聞くと最初から話しておけと叫ぶが、相手は実妹の性格を知り尽しているカインである。
自分で指示に従うと言いだすまで待っていた事を告げ、フィーナはカインへの怒りを火球にぶつけるように剣を振って行く。
植物の根が燃え、周囲に火の手が上がるとカインの指示により、後方からジークの冷気の魔導銃が放たれ消化される。
火が消えるとカインは植物の根を呼び出して火の精霊へと攻撃を行うが火の精霊によって燃やされて行く。
それを繰り返すが火の精霊の魔力は尽きる事が無いのか、繰り返される。
フィーナはその間も自分に襲い掛かる火球を剣で弾いているが長時間の戦闘に体力の限界が見えてきたようでその息は荒くなっている。
「いつまで続くのよ?」
「いつまでだろうね。流石にそろそろ不味いね。俺やフィアナの魔力とかフィーナの体力とか……後はジークが風邪ひくとか」
「風邪? 何を言ってるのよ。あっちだって、暑いでしょ」
フィーナは考えが甘かったのではないかとカインの使い魔を睨み付ける。
カインもここまでの長期戦など考えていなかったようで小さくため息を吐くが、冷気の魔導銃でジークが身体を震わせている事を知らないフィーナは意味がわからないと首を捻った。
「と言うか、ジークの魔導銃が有効なら、植物の根を出してないで水の魔法とか氷の魔法とかないの?」
「ないね。残念ながら」
「……嘘くさいわ」
いつまで経っても状況は良くならないため、フィーナは他の魔法を使えと叫んだ。
カインはすぐに否定をするがフィーナはカインの性格では本当かどうかは微妙にわからない。
「それでも俺だって考えが有ったりするんだよね」
「あるなら、さっさとしなさいよ。このままだとジリ貧なのよ」
「はいはい」
カインは火の精霊に有効的な魔法は使えないにしても作戦はあるようであり、軽い口調で言う。
フィーナは不味いとは言っていた割に余裕そうなカインに腹を立てているのか地団駄を踏み、カインが空返事をすると地面から再び、植物の根が這い出てくる。
その根は今まで以上に巨大であり、地面の土を抉り取って空まで持ち上げた。
「何する気?」
「火の精霊に土をかける」
「そんな事をやって、何をする気よ!?」
結局はやっている事は変わらないと言いたげにため息を吐くフィーナ。
その時、火の精霊は植物の根を燃やし尽くし、それと同時に根が持ち上げた土が火の精霊に降り注ぐ。
フィーナは意味がわからずに大声を上げる。
「何って消火?」
「何で、疑問形よ? と言うか、こんな方法で火が消せるならさっさとやりなさいよ」
「いや、ここまで育てるのに時間がかかったんだよ。これだけ水分を含んだものを燃やしたんだ。それなりに力を使っただろ」
砂が降り注いだ事で燃えていた植物の根の火は小さくなって行く。
カインは植物の根での攻撃の裏でやっていた準備で火の精霊にたまっていた力は底が見えてきたようであり、火の精霊は自我を取り戻しつつあるのか動きを止めた。
「フィーナ」
「わかったわよ。届け!!」
火の精霊の様子にカインはフィーナの名前を呼ぶ。
フィーナは地面を強く蹴り、一直線に火の精霊に向かって駆け出すと剣を火の精霊の額に埋まっている火竜の瞳に向かって振り下ろした。
フィーナの1撃は火竜の瞳を捉え、砕け散る。
それと同時に小さな爆発が起き、フィーナは地面を転がった。
「どう?」
「ご苦労様。火の精霊は無事だよ。フィーナ、破片を集めるよ」
フィーナはすぐに立ち上がると火竜の瞳から火の精霊が買う方されたかと聞く。
しかし、すでに火の精霊はフィーナの目には映らない。
フィーナはカインの使い魔につかみかかるように言うとカインは無事に解決できたと彼女を労う。