第586話
「……裏を回れば良かったんじゃないの?」
「調べると結構、広く、溶岩地帯ができてたからね。抜けるのが1番早かったんだよ。それにノエルとフィアナの体力が持たない」
「それもそうね。ノエルに至ってはこのマントを着てても熱さにやられたわけだし」
溶岩地帯を抜けたフィーナは1人でここまで来ることになった事に文句を言い始める。
その様子にカインはノエルフィアナの名前を出してため息を吐く。
2人の名前にフィーナは納得せざる負えなく、眉間にしわを寄せた。
「それじゃあ、行くよ」
「そうね。さっさと終わらせるわよ」
カインの使い魔は道を示すように飛び、フィーナは後を追いかける。
「到着」
「……火竜の瞳って宝玉よね? なんか湧いて出てない?」
「出てるね」
しばらく歩くと目的である火竜の瞳が破壊されている場所に到着する。
フィーナは宝玉が割れていると聞かされていたため、残りを粉々にしてしまえば良いと考えていたようだが宝玉の欠片は規則的に配置されており、魔法陣を作っているようで炎の柱が立ち上がっている。
その中には2つに光る眼のようなものがあり、フィーナは顔を引きつらせた。
しかし、カインの使い魔からは楽しそうな笑い声が上がっている。
「あんた、こういう事があるなら先に言いなさいよ!! 使い魔でこれを見たんでしょ」
「言ったら、ここまで来なかっただろ」
「殺す。今、殺す。すぐに殺す!!」
フィーナは使い魔に向かって唾を飛ばしながら叫ぶが、カインはひょうひょうと笑っており、その態度が彼女の怒りをさらに上昇させる。
フィーナは手を伸ばし、カインの使い魔を捕まえようとするが使い魔は彼女の手をすり抜けるように飛んで行く。
「……」
「どうして、無駄な体力を使うかな?」
「あんたが使わせてるんでしょ!!」
追いかけっこを続けていたが、結局、カインの使い魔を捕まえる事が出来ず、フィーナは肩で息をしている。
カインの使い魔はそんなな彼女の頭の上に降り立つと考えなしで動くフィーナに呆れたように言う。
フィーナは怒りのまま、声を上げるがまだ息は整っておらず、行動には移せない。
「それじゃあ、体力を使って無駄な力も抜けただろうし、やろうか?」
「やろうかじゃ、無いわよ。だいたい、正体もわからないのにどうすればいいのよ?」
フィーナの息が整うのを待っていたカインが彼女の声をかける。
しかし、フィーナは魔法陣から何が出てくるかわからないため、腰が引けているのか首を横に振った。
「火の精霊に力を注ぎこんで身体を肥大化させたものだと思うよ。精霊を人族が目視できるくらいに空間まで歪めてるからね。これをやった人間はよっぽど、この事件を終わらせたくないんだろうね」
「……火の精霊なら、ノエルなら説得できたんじゃないの?」
「無理、すでに誰かの話を聞けるほどの理性があるとは思えない。それにノエルがこの場に居たら、あの火の精霊に情けをかけて何もできない状況になる」
カインはため息交じりで炎の柱の中の存在を推測する。
その声は淡々としているように聞こえるがこの原因を起こした人間への怒りの色が隠れている。
それに気が付く事無く、フィーナは戦いたくないと言いたげに大きく肩を落とした。
ノエルでは迷いが出てしまい、この場を収め切る事が出来ないと言うとカインの使い魔は炎の柱のそばまで飛んで行く。
「ちょっと、もう少し時間を」
「無理、時間をかけるほど、あの精霊は苦しむ事になるから、フィーナ、剣を構える。その剣と火炎獅子のマントが有れば問題ない。最初に言った通り、火竜の瞳を砕くよ」
フィーナは心構えをさせろと叫ぶが、カインの使い魔は炎の柱を作っている火竜の瞳の欠片の1つを弾き飛ばし、魔法陣を破壊してしまう。
炎の柱が消え去った場所からは人族と同サイズになった火の精霊が立っている。
火の精霊はフィーナを睨み付けるとゆっくりと彼女に向かい歩き出す。
その額には砕かれた火竜の瞳が埋め込まれており、カインはフィーナに指示を出した。
「ち、近いわよ。動くなんて聞いてないわよ!? それにどうやって近づけって言うのよ!?」
「良いからやる。俺もフォローするから」
フィーナは剣を構えると火の精霊は彼女を敵と判断したのか腕を振る。
その瞬間にフィーナに向けて火球が放たれ、フィーナは剣で火球を弾くとカインへと向かい叫ぶ。
カインの使い魔は火の精霊の攻撃をこちらに向けたいのか火の精霊のそばを飛ぶ。
「何の役にも立たないじゃない」
「……俺の使い魔は魔力の塊だからね。視力で捉えてないと意味がないのかな?」
火の精霊はカインの使い魔に興味を示さないようでフィーナに向かい火球を飛ばしている。
フィーナはカインの使い魔に向かい役立たずと叫び、カインも計算外だと言いたいのかその声には少しだけ戸惑いの色が混じっている。
「どうにかしなさいよ。あんたの狡い頭はこういう時のためにあるんでしょ!!」
「そう言われると頭を使いたくなくなるのが不思議だね。まぁ、少しは何かしようかな?」
「……ねえ、なんかイヤな予感しかしないんだけど」
火球を弾きながら叫ぶフィーナだが、文句を言いながらもカインの頭を当てにしている。
その言葉にカインはため息を吐くがすでにその頭は冷静に分析を始め出したようであり、落ち着いた声で言う。
フィーナはカインの声に熱でかいていたはずの汗が冷たくなって行くのを感じる。
その瞬間に火の精霊の足元から急成長した植物の根が飛び出して火の精霊に襲い掛かった。
「何をやってるのよ!?」
「良く燃えるね。熱風で乾燥させて火球で火をつけてるのか、生木は煙たいから乾燥させるのは大切だよね」
「意味の分からない事を言ってるんじゃないのよ!! わざとなの? あんたは何がしたいのよ!!」
しかし、植物の根は火の精霊を捕まえる事無く、火の精霊の放つ火球と熱風で燃えてしまい、被害は拡大して行く。
カインは燃え上がる植物の根に楽しそうに笑うが、どんどんと危機的状況になって行っているフィーナは火球を剣で弾きながら叫ぶ。