第583話
「どうだったの?」
「あの、あそこに火の精霊さん達を呼び寄せた何かがあるみたいなんです。火の精霊さん達も他の精霊さん達に迷惑をかけているのはわかっているそうなんですが、自分達では何もできないと」
青い光の柱が壊れてしまう前に解決したいフィーナはノエルに一気に詰め寄る。
彼女の様子にノエルは戸惑いながらも溶岩の噴き出している場所の後ろを指差す。
ノエルが言うには火の精霊達もこの状況に困っているようであり、どうにかして欲しいようである。
「……あそこは暑いだろ?」
「そうだね。と言う事で、頑張ってジーク。距離的にはすぐだ」
「無茶言うな。遠回りでも裏に回るしかないだろ。だいたい、俺が行ったって原因がわからないと対処も何もできないだろ。それこそ、お前の使い魔で奥を覗いて来いよ」
溶岩が噴出している個所は狭いがその場所の暑さは桁外れだとわかる。
どうするかと眉間にしわを寄せるジークだが、カインは行くのはジークだと言いたいようで彼の背中を叩いた。
ジークは自分が行っても何もわからないため、カインにどうにかしろと役目を押し付け返す。
「仕方ないね」
「あの、どうして、杖を持ってる手に力を込めるんですか?」
「冗談だよ。人体操作魔法はかなり集中力を必要とするから、この暑さだとジークが溶岩の中に落ちる可能性もあるから使えない。現状で使い魔を使うのが良い案だけど魔力を使い魔に回さないといけないから、これは破壊されるけど良いね」
カインは手にしていた杖に力を込め始め、フィアナは先ほどの話からイヤな予感がしたようで顔を引きつらせる。
冗談だと笑うとカインは真面目な表情をして状況を確認するように聞く。
「仕方ないよな?」
「ねえ。この光の柱ってノエルかフィアナはできないの? 2人とも今日は魔力をそんなに使ってないわけでしょ?」
「……簡単に言うな。ノエルは理魔法を使えないし、カインのオリジナル魔法みたいなもんだろ。そう簡単に使えるわけがないだろ」
ジーク、ノエル、フィアナは頷くがフィーナは暑いのはイヤだと言いたいのか柱の維持を代われないかと言う。
彼女の言葉に呆れ顔でため息を吐くジークはフィーナに何か言ってやれと言いたいようでカインへと視線を向けた。
「必要なのは魔力の維持だからやろうと思えばできるよ」
「……できるのかよ」
「強力な攻撃魔法とかは別だけど、基本的に魔法は誰でもできるように考えないといけないからね。問題として、魔力が大きすぎるせいか制御するのはあまり得意じゃない。理魔法は術者本人の中にある魔力を使うわけだしね」
しかし、カインはすぐにできると言い、予想していなかった答えにジークは眉間にしわを寄せる。
カインはノエルに教えるのは難しいのではないかとも考えているようであり、小さく肩を落とす。
「す、すいません」
「そうなると私ですかね?」
「そうなるね。どうする? 使い魔を使うにしても集中しないといけないから、暑い中だと上手くできるかわからないけどね」
ノエルは役に立てない事を謝り、矛先が自分に向いたフィアナは不安なのか顔を引きつらせる。
だが、カイン笑顔でフィアナの逃げ道を塞いでいく。
「……相変わらずの性格の悪さだ」
「今更でしょ」
「や、やります。元々、私達の村の事なんです。ここまで来て、私だけ何もできないのはイヤです」
カインの様子にため息を吐くジークとフィーナ。
フィアナは大きく頷くとシギル村の人達のためにも頑張ると言う。
「それじゃあ、手を出して」
「手? こうですか?」
「これに魔力を込めて」
カインに言われて手を出すフィアナ。
彼女の手の上にカインは青く輝く石を載せる。
意味がわからずに首を傾げるフィアナにカインは魔力を流し込めと指示を出す。
「魔力を? こうですか?」
「……何が魔法だ。魔導機器じゃないかよ」
魔術師であるフィアナは意味が分からないようだが手の中にある石に魔力を流し込む。
石の輝きは彼女の魔力に呼応するように強くなって行き、ジークは眉間にしわを寄せた。
「一応ね。全部を教える時間はないからね。それじゃあ、任せるよ……」
「は、はい。頑張ります」
カインは苦笑いを浮かべるとフィアナに柱の維持を任せて地面に座って目を閉じる。
彼の身体には光が集まり、手を前に出すとそこから光の玉が飛び、光は柱を向けると光は5つに分かれそれぞれが小鳥の形になり、溶岩の噴き出ている場所の裏に向かって行く。
「フィアナ、それって難しいの?」
「は、はい。一気に魔力吸われて行きます。長い間は無理です」
光の柱のひびは消えて行き、フィーナはフィアナの手の中の魔導機器を覗き込む。
フィアナはカインが軽口を叩きながら柱を維持していたため、さほど難しくはないと思っていたようだが柱の維持には相当の魔力を使うようであり、フィアナは集中させて欲しいと言う。
「やっぱり、カインさんは凄い魔術師なんですね」
「性格が悪すぎるからそうは見えないのよね」
「それは同意見だけど、もう少し認めてやれよ。あいつがいないとこういう時に俺達は何もできないだろ?」
泣き言にも聞こえるフィアナの言葉に改めてカインの魔術師としての才能を実感するノエル。
フィーナはカインが褒められるのは面白くないようで舌打ちをするとジークは苦笑いを浮かべた。
「だけど、魔導機器なら別にフィアナじゃなくても良かったんじゃないのか? 魔導機器なら俺やフィーナでも使えるだろ。魔力を維持したいなら最初から魔法って言ってないで魔導機器だって言えよな」
「魔力の制御と言ってましたから、魔法を使えない人には難しいんじゃないでしょうか? それにその魔導機器を持ってきているって事はカインさんは最初から原因を読めていたんでしょうか?」
ジークは魔導機器を見せなかったカインが何を考えていたかわからずに首を捻る。
ノエルは魔導機器にも扱うのに難しい物があるのではないかと言った後、あらかじめ、魔導機器を持ってきていたカインに何か感じたようであり、彼の有能さに自信がなくなったのか肩を落とした。