第582話
「これって、理魔法ですか? 初めて見ます」
「その中の1つだけどね。あまり使い勝手は良くないから、冒険者には向かないだろうね。村長さんは使えないよ」
フィアナは見た事のない魔法に驚きが隠せないようで目を輝かせており、カインは苦笑いを浮かべた。
「使い勝手が悪い魔法を良く覚える気になるよな」
「魔法がただ敵を倒すために使われるって言うのはあまり好きになれないからね。そうならないように選択肢を増やすのは大切な事、効率重視が必要ならそっちを取るよ。それを選ぶにはやっぱり多くの事を学ばないといけないからね」
「……良い事を言ってるんだろうけど、あいつが言うとどうしても胡散臭く感じるわ」
いつもは効率を重視するカインの言葉とは思えずに首を捻るジーク。
その様子にカインはくすりと笑うがフィーナは何か裏があると考えているようで疑いの視線を向けている。
「だから、バカだといけないってずっと言ってるんだけどね」
「……それに関して言えば、同感だ」
彼女の疑いの視線にカインはため息を吐き、もう少し考えるように言う。
ジークはもう少しフィーナに考えて動いて欲しいため、大きく頷いた。
「……私はこの2人をブッ飛ばしても良いと思うのよ」
「フィーナさん、落ち着きましょう。カインさんの魔法が解けては大変ですから」
「確かにあの暑いのはイヤね」
拳を握り締めて今にもジークとカインに殴りかかろうとするフィーナ。
フィアナは慌てて彼女の前に立ちふさがり、落ち着くように声をかける。
カインの魔法内では火の精霊達の影響は小さいため、目先の事を優先したようで一先ず、拳を収める。
「……それで良いのか?」
「……どうして、こんなに頭が悪く育ったかな」
「余計な事を言わないでください。ノエルさんが集中しているんですから邪魔しないでください」
フィーナの姿に頭が痛くなってきたジークとカインは眉間にしわを寄せた。
フィアナはノエルの邪魔をしてはいけないと2人に釘を刺し、ジークはノエルに1度視線を向けてから頷く。
「……そろそろ、不味いかな?」
「本当に長時間の効き目はないんですね」
「と言うか、長時間効果を維持できる魔力がないんだよ。せっかく作った魔法だから改善したいとは思うけどね」
しばらく時間が経過するがノエルは目を開ける事無く、カインは魔法の硬化時間に終わりが近づいている事を告げた。
その言葉にフィアナは苦笑いを浮かべるとカインはため息を交じりでこの魔法を作ったと言う。
「……今、魔法を作ったって言ったか?」
「気のせいよ。聞き間違いよ」
「事実を事実と認めないとね」
眉間にしわを寄せるジークとフィーナはカインの言葉を否定しようとするがカインは2人の顔を見て笑っている。
「あの、魔法を作ったって言うのは?」
「そのままだよ。文献から魔法式の共通点や類似点、その他もろもろを解析し、新たな魔法式を作成する。俺は魔術学園に居たわけだしね。だいたい、ジークは前に俺が作った魔法を見た事があるだろ」
「そう言えば、そんな事もあった……おい、あの非人道な魔法が有れば俺とフィーナがノエルとフィアナを運ばなくて良かったんじゃないのか?」
信じられないフィアナは遠慮がちに手を上げた。
カインは魔術学園では当たり前の事だと言った後、ジークへと視線を向けてため息を吐く。
その言葉でジークはルッケルでカインとセスが気を失ったフィーナの身体の支配権を争っていた事を思い出して眉間にしわを寄せた。
「あれは気を失ってないと動かすのが難しいからね。体力は動かしたい人に依存だし、効果範囲と複数人を動かせないとかいろいろと制限があるし、何より魔力を多く使うからね。改良点はたくさんあるんだよ」
「そうなのか……おい。そう言えば、使い魔を飛ばしてここを見れば良かったんじゃないのか? それなら準備をしてこれただろ」
「それも一緒。俺は自分の魔力を生物の形に成しているわけだから、長時間の使用は向かないの。それにこっちにも効果範囲があるからね。ある程度は先に進まないといけないし、魔力が尽きると俺は役立たずになるからね。魔法使い、魔力なくなりゃ、ただの人ってね」
カインは以前の人体操作魔法はまだ不完全だと言う。
ジークは頷きつつも、カインが使い魔を使わなかった事を思い出したようで疑いの視線を向ける。
自分に向けられる疑いの視線にカインは魔力の温存だとため息を吐く。
「確かに魔術師は魔法が使えなくなるとお荷物ですけど……カインさんは普通の魔術師と違う気がします」
「……お前は魔術師だ。魔法使いだって言ってるだけで、普通に騎士とかをぶっ倒すだろ。俺はお前が魔術師を語ってるのは詐欺だと思ってるぞ」
フィアナは自分の体力のなさを自覚しているようで小さく頷くがフィーナを杖でブッ飛ばしているカインの姿を見ているため、カインは普通ではないと言う。
彼女の意見にはジークも同感であり、疑いの視線を向ける。
「詐欺は酷いね。魔術師が体力ないと言うのは研究職を生業にしている人間が多いから、俺は研究職以外にも自分の足を使って外に出て現場を見たりするから他の魔術師より、若干、体力があるだけだよ。フィアナももう少し長い間、冒険者を続けていれば体力が付くよ」
「体力? ……筋肉はそんなにいらないです」
「体力と筋肉は同じものじゃないけどね。フィアナが冒険者を続けるつもりなら、体力はつけておいた方が良いよ。魔法が使えなくなった魔術師は狙われるからね。敵に捕まってしまえば仲間の足を引っ張る事にもなるから」
「はい。わかりました」
フィアナのなかでは体力と筋力は一緒だったようであり、女の子として複雑だとつぶやいた。
カインはそんな彼女の様子に苦笑いを浮かべるとこの先の事を考えるなら重要だと教える。
フィアナはカインに聞こえていたのが気まずいのか視線をそらしながらも頷いた。
「それより、そろそろ、これって不味くない?」
「あ、あの。遅くなってすいません」
青い光の柱は力を維持できなくなったのか細かいひびが入り始める。
それに気が付いたフィーナはカインにどうにかしろと言った時、火の精霊達の様子をうかがっていたノエルが目を開いた。