第581話
「結局、こうなるわけか?」
「す、すいません。ジークさん、重くないですか?」
「重くはないよ」
歩き始めてしばらくするとノエルとフィアナの体力はそこを尽き、ノエルはジークにフィアナはフィーナに背負われている。
ノエルは申し訳ないとジークを気づかうがジークは彼女に心配させまいと笑顔を見せた。
「……流石にこの暑さで人を背負うのはきついわ」
「ほらほら、文句を言ってないで足を動かす」
「フィーナさん、本当にすいません」
フィアナを置いて行くわけにはいかず、文句を言うフィーナに1人身軽なカインは速く歩けと促す。
フィアナは体力が尽きてしまった事を申し訳なく思っており、消えそうな声で謝るとフィーナは気まずそうな表情をする。
「ジークさん、あそこ、あそこです」
「到着したのか? ……あそこは暑そうだな」
その時、ジークの背中の上のノエルが目的の場所を見つけたようで火の精霊達が集まっている場所を指差す。
ノエルが指差した場所は陽炎が上がっており、そこが原因なのは見て取れる。
ジークは背中からノエルを下ろすと腕で額に伝う汗を拭う。
「それで、どうするの?」
「目に見えて何かがあるってわけじゃないからね。ノエル、フィアナも手伝って」
魔法や精霊についてまったくと言っていいほど知識のないフィーナは原因究明をカインに丸投げする。
フィーナの様子にカインはため息を吐きつつも、元々、彼女に期待などしていないため、特に責めるような事はしない。
カインに呼ばれてノエルは重い足を動かし、カインの後を追いかけ、フィアナはフィーナの背中から降りる。
「あの、私、精霊魔法は使えないですけど手伝えることがあるんでしょうか?」
「魔術師だからフィーナよりは役に立つよ。それに精霊魔法を使えるかどうかは別として知識があるのは良い事だよ。何かの役に立つからね」
「お、お手伝いします」
首を捻るフィアナにカインは苦笑いを浮かべた。
彼の言葉にはフィーナをバカにする言葉が含まれており、またケンカになってはいけないとフィアナはカインの背中を押して歩く。
「あの性悪」
「落ち着けよ。ここで無駄な時間を使いたくない」
「……そうね。この件に決着がついてからにしてやるわ」
拳を握り締めるフィーナ。
ジークは彼女の様子にため息を吐いた。
彼の中にはこの暑い中で面倒な事はしたくないと言いたげであり、フィーナはシギル村の安全が確保された時に不意打ちをする事を心に決めたようである。
「……絶対に返り討ちに遭うな」
「何か言った?」
「別にそれより行くぞ。離れていて何か有っても困るからな」
ジークはフィーナの行く末が見えたようで眉間にしわを寄せてつぶやいた。
その声は彼女の耳にも届いたようだがすべてを聞き取る事が出来なく聞き返す。
ジークはとぼけるとカイン達の後を追いかけ、フィーナも続く。
「何かわかったか?」
「簡単にわかるなら苦労はしないね。精霊は目に見えるわけじゃないし……精霊は目に見えるわけじゃないし」
「……おい。なんで2回も言った?」
カインの背後から覗き込み、状況を確認するジーク。
カインは首を捻りながら、簡単にはわからないと言いかけるがその目には何かが映ったようで眉間にしわを寄せた。
彼の言葉はジークの何かに引っかかり、カインの肩をつかむ。
「……絶対にあそこが原因じゃない」
「地面が溶けてますよね? こんなところに溶岩が溢れるって事があるんですか?」
「ここの問題が落ち着けば温泉くらい見つかるかな?」
カインの視線を追いかけたフィアナの目には地面が溶けている様子が目に映る。
初めて見る様子にフィアナの顔には戸惑いが映り、カインの服をつかみ聞く。
カインは少し目をそらしたいのかとぼけた事を言いつつも真剣な表情をしている。
「カイン」
「ないよ。この近辺には活動中の火山はないはずだからね。そんな場所にこんな事が起きるなんて実際問題、あり得ない」
「……偶然じゃないって事かよ」
ふざけるなとカインへと視線を向けたジーク。
カインは首を横に振ると彼の言葉から、目の前で起きている事が故意に誰かの手によってもたらされた事が見て取れる。
ジークは何の目的があるのかわからないため、乱暴に頭をかいた。
「そうだね。自然現象ではなさそうだから故意だろうね。ただ、目的はわからないね」
「目的とかはどうでも良いわ。それより、早く何とかしなさいよ。暑いのよ」
「あの、火の精霊さんに話を聞いてみますね」
誰が何のためにこのような事をしたかわからないと首を振るカイン。
フィーナは暑さにイライラしているようで文句を垂れ流し、ノエルは目を閉じると火の精霊から状況を聞き出そうとする。
「……大丈夫か? 暑いと集中力が切れやすいから」
「とりあえず、ノエルの事を待つしかないね。火の精霊達は気が立っているみたいだし、ちょっと集まって」
ノエルを心配するジークだが、彼女の以外では火の精霊に声を届ける事はできない。
カインは彼女の補佐をしようと思っているのかばらけているジーク達を集めると魔法の詠唱を始め出す。
カインの足元から光が地面を伝い始める。
光は地面に魔法陣を書いて行き、ジーク達を包み込むように青い光の柱が上がった。
「こんな事が出来るなら最初からやりなさいよ」
「落ち着け」
「移動できないんだから仕方ないだろ。それに結構、魔力を使うから長時間は無理。ノエルが集中している間だけでも保てれば良いけど」
青い光のなかは火の精霊達の力が弱まっているようで先ほどまでの暑さが嘘のようである。
フィーナはもったいぶったカインの魔法に頭に来たようで彼につかみかかろうとする。ジークはフィーナを背後から羽交い絞めにして彼女を押さえつけた。
カインはため息を吐くとこれで魔力は底をつくと言いたいのか、ジークに向かい手を出す。
「……」
「ほらよ」
「これで少しは持つかな?」
フィーナは納得がいかないようだがここで騒いでも仕方ないため、不機嫌そうに唇を尖らせている。
彼女が一先ず、納得してくれた事に安心したようでカインに魔力を回復する薬を渡す。
カインは薬を飲み干すと一息つきたいようで地面に腰を下ろした。