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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ルッケル騒動、再び
580/953

第580話

「……」


「終わったみたいだな」


「は、はい? フィ、フィーナさん、どうしたんですか!? 何があったんですか!? 何かが襲ってきたんですか?」


ゆっくりと目を開けるノエル。

彼女の様子にジークは結果を聞きたいようで声をかける。

頷き話し始めようとする彼女だが、地面の上を悶絶しているフィーナを見つけて話を投げ出して彼女を抱き起す。


「……性悪魔術師に不意打ち受けたのよ」


「カインさん、何をしているんですか!?」


「いつものようにフィーナが余計な事を言ったんだよ」


痛む左横腹をさすりながら答えるフィーナ。

ノエルはどこかフィーナが悪いのではないかと思いながらもカインにどうしてこんな事になったかを聞く。

カインは悪いのはフィーナだと言い切り、ジークは苦笑いを浮かべている。


「とりあえず、何があるかわからないんですから、暴力はダメです」


「今回は治癒魔法を使える人間が2人もいるから良いね」


「フィーナ、余計な事を言うなよ」


フィーナの痛みを和らげるために治癒魔法を使ったノエル魔力の残量を考えるように言う。

そうする事でカインに釘を刺そうと思っているようだがカインは笑顔で返し、その言葉にはフィーナしだいだと言う意味が込められている。

彼の言葉に意味を理解したジークはフィーナの肩を叩くが、彼女は面白くないようで不機嫌そうに口を尖らせている。


「あの、落ち着きましょう。それでノエルさん、どうだったんですか? 原因はつかめそうですか?」


「はい。もう少し上流に行ったところから少しそれた場所に火の精霊さん達が集まっています。そこより、上流では水や木の精霊さん達の気配もするのでそこが原因ではないかと思います」


「何があるんだろうな?」


フィーナの様子から彼女がカインにつかみかかるのではないかと思ったようでフィアナは大きな声で精霊の様子を尋ねる。

ノエルは大きく頷くと上流を指差した。視線はノエル指差した場所に集まり、ジークは厄介な事が起きなければ良いと言いたげに頭をかく。


「それじゃあ、行こうか? バカな事をしてても仕方ないからね」


「行けば良いんだろ」


目的地が決まった事もあり、カインは再出発を提案し、先頭を歩けと言いたいのかジークの肩を叩く。

ため息を吐き、歩き始めるジークを先頭に改めて出発をする。


「……なんか、暑くない?」


「確かに」


しばらく歩くとフィーナが不満を漏らす。

火の精霊の力が強くなっている影響なのか、気温が上がってきているようで5人の額には汗が伝う。

体力のあるジーク、フィーナ、カインはまだ問題なさそうだがノエルとフィアナの体力は確実に削られて行っており、ジークは休憩を提案しようと思ったようでカインへと視線を向けた。


「休んでるヒマはないね。これが火の精霊の影響なら、ここより先はもっとひどい状況だから、それに思った以上に深刻な問題みたいだしね」


「……カサカサね」


首を振るカインは近くに生えていた草を手に取ろうとする。

しかし、草はすでに水分が完全になくなっているようで彼が触れた瞬間に崩れてしまう。

その様子にフィーナは事が重大だとは理解したようで表情を引き締める。


「でも、このままだとたどり着くまでに2人が倒れるぞ」


「その時はジークが背負うから問題ないよ」


カインに言いたい事もわかるのだがノエルとフィーナの様子はすでに息も絶え絶えであり、ジークは眉間にしわを寄せた。

冗談交じりで言うカインだが、その表情はいつものふざけた様子はない。


「ジーク、魔導銃で氷を出しなさいよ。少しは楽になるでしょ」


「確かに何か凍らせるものってあるか?」


「タオルに水を含ませてかな? ……お湯だね。これは」


歩みを止めるわけには行かないため、この暑さの中でも何とか進めるようにしようと冷気の魔導銃を腰のホルダから引き抜く。

カインは荷物から汗拭き用のタオルを引っ張り出すと川に入り、わずかに流れる水に浸す。

流れている水は冷たさの欠片もなく、カインは大きく肩を落とすとタオルをジークに向かって投げつける。

ジークは空中のタオルを冷気の魔導銃で撃ち抜くと青い光がタオルと包み込み、徐々に凍り付くが暑さのせいで完全に凍り付く事は無い。


「冷たいです」


「すぐに融けそうだけどな」


「ジーク、一応、追加」


タオルを2人に渡すとノエルとフィアナの顔色は若干、良くなって行く。

その様子にジークは苦笑いを浮かべるとカインがさらに追加だとタオルを投げつけてくる。

同じようにタオルを凍らせるとフィーナとカインにも渡す。


「確かに冷たくて気持ちいいわ」


「どこまで持つかわからないけどね。火の精霊の力がこれだけ影響してるなら、冷気の魔導銃だっていつまで使えるかわからないし」


「……その言い方だと壊れそうでイヤだな」


フィーナは冷えたタオルで顔を拭く。

自分の提案が採用された事もあるのか、その表情は上機嫌にも見える。

カインは汗を拭きながら、この先の事を考えるといつまでも同じ方法は使えないとため息を吐いた。

ジークは魔導銃をホルダに戻すと自分の汗を拭く。


「最近、壊れてないからそろそろ時期じゃないかなと思って」


「時期で壊れてたまるか。それじゃあ、行くか? 長い間、それが持つわけじゃないからな……どうする? 暑さ対策をしに1度、シギルに戻るか?」


魔導銃で凍らせたタオルは長い間、冷気を保っていられるわけでもなく先を進もうと声をかける。

ノエルとフィアナは頷くがすでに体力は切れかけているのがわかり、ジークは撤退を提案する。


「無理だね。この現象が拡大する可能性の方が高い。時間をかけているとこの一帯が火事になる可能性が高い。この状態の場所が広くなると問題の場所までたどり着けなくなる可能性だってあるからね。それにただ撤退するにしても原因の場所くらい確認してこないともう1度来る時に有利にできないしね」


「わ、わたしは大丈夫です。行きましょう」


「はい。村をこんな風にするわけにはいきませんから、行きましょう」


無理をさせているのは承知の上であるとカインはその提案に首を横に振った。

彼の言葉にノエルとフィアナはわがままを言っていられないと感じたようでふらつく足で歩き始め、残された3人は彼女達の背中を追って歩き出す。


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