第579話
「変わりませんね」
「そうね」
川に沿って上流へと向かうが川の水量は少ないままであり、フィアナは不安そうにつぶやいた。
彼女の言葉にフィーナは頷くが、ただ歩いているのも飽きてきているようでその返事はどこかおざなりである。
「……確かに何かがおかしいね」
「そうですよね」
「で、何がおかしいんだ?」
カインは精霊達の様子がおかしい事を感じ取れたようで立ち止まり、ノエルはカインからのお墨付きが貰えた事に笑顔を見せた。
ジークは原因が気になるようであり、足を止めてカインに聞くと視線はカインへと集中する。
「水や木の精霊の力が弱い、その代りと言ったらおかしいけど火の精霊の力が強い」
「それって何か問題があるの?」
「一般的に火の精霊って言うのは火山とかに居るんだよね。森とかは水や木の精霊達の縄張りだから、力を貰いにくいんだよ」
カインの答えに意味が良く分かっていないのかフィーナは首を捻った。
彼女の様子にカインは苦笑いを浮かべながら、簡単な説明をするがフィーナはそれでも理解できないようで首を捻ったままである。
「とりあえず、精霊達のバランスが悪いって事か?」
「簡単に言えばね。本来、水や木の精霊に流れるべき力が火の精霊に流れ込んでいる。火の精霊が強くなってる分、大地が水をためる能力が不足しているんじゃないかな」
「そうなんですか?」
ジークの質問にカインは補足説明をするが理解できていないのはフィーナだけではなく、ノエルまで首を傾げている。
「前から思ってたけど、ノエルはもう少し魔法について勉強をした方が良いね。知識に偏りがありすぎる。何なら魔術学園の先生を……ダメだね。絶対にライオ様が顔を出してきて面倒な事になるね」
「そうだな。ライオ王子に見つかると厄介だ」
「あの、ライオ王子ってそんなに迷惑な方なんですか?」
精霊魔法に関して言えばノエルの実力はかなり物のはずだが彼女の能力には偏りが大きく、カインはこの先の事を考えてノエルに師を紹介したいようだが魔術学園を介するとライオにばれる可能性があり、眉間にしわを寄せた。
ジークもまったく同じ意見であり、大きく肩を落とすがライオと面識のないフィアナは王子相手に暴言を言って良いのかわからずにオロオロとしている。
「兄弟そろって迷惑な人間よ」
「そ、そうなんですか? お兄様のエルト王子もなんですか? やっぱり、王子様ってわがままなんですかね」
エルト、ライオ両王子に巻き込まれている者としてフィーナは迷う事無く言い切り、フィアナは権力を持っている人間への偏見なのか困ったように笑う。
「それとはまた違う気もするけどな。魔術学園に頼めないとなると……ないな」
「ないわね。絶対に教えてくれないわ」
「そうだね。知識で考えればアーカスさんが1番だろうけどね……人格的に問題があるからね」
ノエルの師となりそうな人間にはジークも心当たりが当然あるが、すぐに却下してしまう。
ジークの心当たりの人物はアーカスであり、フィーナとカインも同じことを考えていたようでため息を吐いた。
「とりあえず、それはおいおい考えるとしてどうするんだ?」
「火の精霊の力が強まってるって事は火の精霊をこの一帯から追い出せば良いんでしょ」
「乱暴だけど、そう言う話だね。ただ、原因を究明しないとまた同じことの繰り返しだよ。それにここから出て行った火の精霊が他でも同じことをしないとは限らないしね」
ノエルの師を探すのは優先事項ではないため、話を戻そうとするジーク。
フィーナは方法など考えていないようだが単純に原因の火の精霊を追い出してしまえと言い、カインはある意味、的を射ている彼女の発言に苦笑いを浮かべながらもそれだけでは済まないと言う。
「……面倒ね」
「一時的に解決したって、同じことが起きるなら意味がないからね。長い目で見て物事を考える事を覚えなさい」
「無理だろ」
フィーナは原因を取り除けば簡単に終わると思っていたようで面倒だと口を尖らせる。
短慮な彼女の様子にカインはもう少し考えろと言うがジークは諦めているようで大きく肩を落とした。
「あの、カインさん、火の精霊さんを落ち着かせることができるんですよね?」
「そうだね。ただ、水や木の精霊が力を取り戻すまでは少し時間がかかるだろうけどね。とりあえず、火の精霊が力をためる原因になったものを探すよ。ジークはできそうにないから、ノエル、火の精霊の力が極端に強いところか、水や木の精霊の力が極端に弱いところを探せないかな?」
「やってみます……どうやれば良いんでしょう?」
カインはノエルに条件を限定した指示を出し、ノエルは指示通りに動こうとするが方法がわからずに申し訳なさそうに聞き返す。
彼女の言葉にその場は微妙な沈黙が起きてしまい、カインは眉間にしわを寄せるとジークの肩を叩く。
「えーと、ノエル、前に精霊の力を借りてそれを作った時の事を思い出せ。それでどうにかなるはずだ」
「あ……はい。わかりました」
「なんか、適当ね。大丈夫なの?」
ジークはカインの言いたい事をなんとなくだが理解したようでノエルの杖の先にある彼女と精霊の魔力を込めた結晶体を指差す。
ノエルは杖の先を1度、見た後、ジークの言いたい事が理解できたようで目を閉じて集中し始めるが、フィーナは雑な教え方に問題があると思ったのかため息を吐いた。
「仕方ないだろ。俺だって、そこまで詳しいわけじゃないんだから、だいたい、方法がわかってるなら、カインがやれば良いんだ」
「俺の魔力じゃ広範囲は見れないんだよ。さっきも言ったけど、精霊魔法はあまり得意じゃない」
「心が汚れてるから、きっと、精霊の声も聞こえないのね!?」
ジークは指示を出すだけで何もしないカインへと話を振る。
精霊魔法は苦手だと小さくため息を吐くカイン。
彼は何度も言わせるなと言いたいようで頭をかいた。
その様子にフィーナは余計な事を言い、彼女の言葉とほぼ同時にカインは持っていた杖で迷う事無く、フィーナの左横腹をフルスイングで撃ち抜き、彼女は悶絶して地面に転がる。
「カ、カインさん、もう少し手加減しませんか?」
「手加減をしたらフィーナのためにならないからね」
フィーナに対する当たりの強さに顔を引きつらせるフィアナ。
しかし、カインは迷う事無くフィーナのためだと言い切った。