第577話
「本当に川の流れが止まってるんですね」
「はい。ちょろちょろとしか流れてなくて、どこか上流でせき止められているんでしょうか?」
「その可能性は確かにあるね……誰かが川の流れを変えたとかも考えられる」
翌朝、フィアナの案内で近くの川まで移動する。
川の流れはわずかであり、不安そうな表情でフィアナは言う。
カインは川だった場所のすでに乾ききった土を手に取ると上流へと視線を向けた。
「とりあえず、上流まで行ってみる? ここに居ても仕方ないでしょ。何もないなら時間の無駄だし」
「そうだな。フィアナ、どれくらい上流まで行ったんだ? フィーナ、川の中を歩くのは止めろ。せき止められてる可能性があるなら、せき止められた場所が決壊する可能性だってある」
フィーナは上流を見上げるように視線を向けると指差して川だった場所を歩き出そうとする。
ジークは彼女の手をつかみ、フィーナを止めると村の人間達とどこまで探索をしたかと聞く。
「は、はい……あの説明は難しいんで行きましょう」
「そりゃそうだね。俺達はこの辺の地理に明るいわけじゃないからね。ほら、川から出る」
フィアナは説明を試みるが、シギル村の出身ではないジーク達に教えるのは難しく、困ったように笑う。
カインは苦笑いを浮かべると川だった場所から離れるとジーク、ノエル、フィーナの3人もカインの後に続きフィアナの案内で上流へと向かって歩き出す。
「……」
「ノエル、どうかしたの? もう疲れた?」
「ジーク、ノエルを背負うか? ……いや、ここはお姫様抱っこかな?」
しばらく歩くとノエルは何かに気が付いたのか険しい顔で上流へと視線を移した。
その様子にフィーナは体力のない彼女を気づかい、カインはジークとノエルをからかうように笑う。
「ち、違います。確かに少し疲れましたけど、お姫様抱っこは無理です」
「……ノエルが疲れたみたいだし、少し休むか?」
「そうですね。少し休みましょう」
カインにからかわれて顔を真っ赤にするノエル。
ジークはその様子に大きく肩を落とすと休憩を提案するとフィアナも魔術師のためか体力に自信がないようでその提案に大きく頷いた。
「それで、ノエル、何かわかったのかな?」
「あの、カインさん、上流の方ですけど、精霊さん達の様子がおかしくありませんか?」
「精霊達の様子? ……うーん。ごめんね。俺はノエルほど精霊魔法が得意じゃないから、まだ、わからないね」
飲み物の準備を始めるジークの隣でノエルは上流の事が気になるようでそわそわとしている。
彼女の様子にカインはノエルが何に気が付いたか聞く。
ノエルは少し考えると自分より、魔法に詳しいカインに意見を求めるがカインは上流へと視線を移した後、わからないと首を横に振った。
「役に立たないわね」
「悪かったね。精霊魔法はあまり得意じゃないんだよ。俺は理魔法がメインでその中でも弱体化の魔法が得意なわけだしね」
「……弱体化の魔法、性格の悪さが出てるな!?」
フィーナはカインを見て役立たずと言うが、カインはすべての魔法を極める事はできないと言う。
ジークはカインの得意魔法を聞いて彼に聞こえないようにつぶやくがカインにはしっかりと聞こえており、ジークの頭には杖が振り下ろされる。
予想していなかった攻撃にジークは頭を押さえて地面を転がり、ノエルとフィアナは顔を引きつらせた。
「ノエル、精霊の様子がおかしいって言うのはどういう事だい?」
「あ、あの……良いです。わたしの勘違いかも知れませんし」
「ジーク、あんたも精霊の気配を読めたわよね。見てみなさいよ」
ジークが悶えている事など気にする事無く、カインはノエルが疑問に感じた事を聞く。
ノエルはまだ確信が持てないようで身を縮ませて首を横に振った。
フィーナはノエルが自信のない事を感じ取ったようで地面を転がっているジークに聞く。
「……お前は先に言う事は無いのか?」
「えーと、もう1発くらいいる?」
「要らない……なんで、そうなるんだよ?」
ジークは頭を押さえながらフィーナに気にする事は他にないのかと言うとフィーナは拳を握り締める。
彼女の発言にジークは別の意味で頭が痛くなったようで大きく肩を落とす。
「冗談よ。それでジークはどうなのよ?」
「待てよ。俺はノエルじゃないんだ。簡単にそんな事が出来るわけがないだろ。ちょっと待ってくれよ」
フィーナは冗談だと笑うと手をしまい、改めて、ジークに精霊の様子を聞く。
ジークは頭をかいた後、目を閉じて集中する。
彼の集中とともに周囲の精霊達は淡い光を上げ始め、ジーク達の周囲には光が舞い始める。
「へえ」
「精霊魔法を使えるとこんな事もできるんですね」
「いや、こんな事をできる人間は滅多にいないよ。まったく、ジークにはいつも驚かされるね」
精霊達がジークの声に反応し始めた様子にカインは感心したように頷く。
フィアナは初めて見るようで驚きの声を上げた。
カインは首を横に振るとこんな事をできる人間は珍しいと笑う。
「そうなの?」
「少なくとも俺はこんな事が出来る人間を知らない。文献では見た事があるけどね。精霊の血を引くと言うエルフならできる人も多いだろうけどね」
「それはジークさんの才能なんですかね? さすが、フィリス夫妻のお子さんですね」
その声に反応したフィーナは首を捻る。
カインは少し考えて珍しい事だと言うとフィアナはそれが両親から受け継いだものだと感心したように頷いた。
「あ、あの、フィアナさん、それは言わないお約束です」
「そ、そうですね」
「昨日の事があるから、簡単には切れないと思うけどね」
ノエルはフィアナのつぶやきがジークに聞こえた場合、絶対に集中力が切れてしまうと思ったようで彼女の手を引っ張る。
ノエルに言われてフィアナはすぐに両手で口を塞ぐ、彼女の声はジークの耳には届いていなかったようであり、その様子にノエルとフィアナは安心したのか胸をなで下ろした。
2人の様子にカインは苦笑いを浮かべるとジークも成長していると言う。