第576話
「セスさん、クーちゃんの事、よろしくお願いしますね」
「わかってますわ」
「……ふ、不安だ」
夕飯を終えるとセスはクーを連れてフォルムに戻ろうとするがセスはクーを抱きしめて嬉々としている。
クーはジークの元を離れたくないようで彼女の手の中で暴れているがセスの腕からは逃げられないようであり、ジークはセスとクーの様子に不安しか感じないのか眉間にしわを寄せた。
「カルディナ様がフォルムに行ってない事を祈るだけだね。最近は来てないから、変なテンションになってるだろうからね」
「そうね。居たらクーは大変ね」
「……居ない事を祈ろう」
カインは苦笑いを浮かべてカルディナの名前を出す。
彼女の名前を聞いたジークとフィーナはカルディナがクーに飛びついている姿しか目に浮かばなかったようで大きく肩を落とした。
「……とりあえず、ミレットさんに丸投げするしかないわね」
「そうだな。レインじゃ押し切られるだろうから、ミレットさんに任そう……ミレットさんなら何とかしてくれるだろうし」
「ジーク、あんたイヤな予感がしてるわね」
不安をミレットに押し付けるのは心苦しいがそれだけしか解決方法がないようであり、ジークとフィーナは彼女にすべてを任せようと言う。
フィーナはジークの様子に彼の無駄な危険感知能力が発揮されてると思ったようで彼をジト目で見る。
「……きっと気のせいだ。そう思いたい」
「クー、俺達が戻ってくるまで留守番できるかい?」
フィーナの言う通り、ジークはイヤな予感がしているようで彼女から視線をそらす。
カインはジークの様子に苦笑いを浮かべた後、セスの腕の中のクーに問いかける。
「クー、クー」
「カインさん? どういう事ですか?」
クーはジークと離れたくないようで大きく頷き、ノエルはカインが何を言いたいのかわからないようで首を傾げた。
「俺達が調査に行ってる間は村長さんの家で大人しくして居れるかって事、流石に今のセスを見てると不安になってくるからね。クーの親代わりのジークがいない間におかしな事をするんじゃないかって」
「私を疑っているんですか?」
「う、疑われる状況だと思います」
セスだけならまだしもカルディナと言う不安があるうちはクーを帰す事は危険だと判断したようであり、カインは大きくため息を吐く。
彼の言葉にセスはムッとした表情をするものの、その腕は暴れるクーが逃げ出さないようにしっかりと抱きしめており、フィアナは苦笑いを浮かべた。
「ダメです。失礼ですけど、シギルは先ほどの子供達の件もありますから、フォルムに連れて帰った方がクーちゃんは安全です」
「本人の意志も必要だろ。また、嫌われても良いなら別だけどね」
「……」
セスは昼間にクーが子供達に追い掛け回された事を上げて拒否するがカインはクーをかまいすぎて嫌われていた時の事を思い出せと言う。
その言葉にセスは苦虫をかみつぶしたような表情をするがクーに避けられる事は遠慮したいようでクーを開放する。
「ごふっ!?」
「これですね。ジークさんのイヤな予感」
「どうして、イヤな予感がしてるのにかわせないのかが謎よね」
解放されたクーは一直線にジークに突撃して行き、彼の鳩尾を抉った。
ジークの身体はくの字に折れ、その様子にノエルは苦笑いを浮かべ、フィーナは危険を察知したのだから避けるなりをしろと言いたいようで大きく肩を落とす。
「それではフォルムに戻ります……カイン、おかしな事はしないようにわかってますね?」
「変な心配なんか必要ありません。それより、セス、ミレットに余計な事を聞かないようにね」
「それくらい、わかっています」
セスは名残惜しそうにクーを見た後に1つ咳をつくとカインに自分がいない間におかしな事をするなと釘を刺した。
カインは彼女に疑われている事に苦笑いを浮かべるとセスに1つの忠告をする。
それはレギアスがミレットを送り込んだ理由を問いただしてはいけないと言う事を意味しており、セスは言われるまでもないとため息を吐く。
「聞かないの?」
「私が聞くのは筋違いです。それに私が相手では彼女には逃げられるだけです」
「……ミレットさん、策士だからな」
フィーナは意味がわからないと首を捻るが、セスは当事者のジークがいないのに聞く事はできないと言った後、ひょうひょうとしたところのあるミレットが相手では自分が詰め寄っても交わされている事も理解しているようで眉間にしわを寄せる。
その様子にクーの体当たりを受けたジークは腹をさすりながらため息を吐いた。
「策士と言うか、彼女は食えないって言うんだよ」
「……ミレットさんもカイン、あなたにだけは言われたくないでしょうね」
「まったくね」
カインもミレット事はつかめないようで苦笑いを浮かべる。
セスはカインとミレットに似た者を感じているようであり、ジト目で見るとフィーナも同感だと言いたいのか大きく頷いた。
「信用ないね」
「それは自業自得だろ」
「クー、これだけ、必死にフォルムの民のために身を粉にして働いている俺への扱いがひどいと思わないか?」
ため息を吐くカインにジークはため息を吐く。
カインはその様子に小さくため息を吐くと味方を得たいのかクーの鼻先を撫でて言う。
「クー」
「……そして、なんで、クーがこの性悪になついているのかが1番の謎よね」
「それを言ったら、フィーナに懐いている理由もわからないね」
クーはカインの味方をするように大きく頷く。
フィーナは案外仲の良いカインとクーの様子が理解できないようで眉間にしわを寄せるが、すぐにカインに返される。
「あまり構いすぎないからじゃないのか? 嫌われた経験があるのはクーを構いすぎる人間だし」
「そうですね……あれは辛いです」
ジークの中ではすでにクーの好き嫌いの判断基準ができており、苦笑いを浮かべるとクーに嫌われた経験のあるノエルは大きく肩を落とした。
「セスさん、そろそろ、フォルムに戻らないといけないんではないですか?」
「そうですね。それでは転移魔法でシギルに移動できるようになったら改めて物資を運んできます」
その時、いつまでも話が終わらない様子に苦笑いを浮かべたウィンがセスに声をかける。
セスは1度、バツが悪そうな表情をした後、すぐに表情を引き締めるとウィンに向かい頭を下げて転移魔法を使用し、フォルムに戻って行った。