第574話
「……カイン、1つ聞いても良いでしょうか? あなた、知っていたと言う事はありませんよね?」
「そう言う可能性も考えていたけど、確証はなかったね……なぜ、疑うのかな?」
「前科が多すぎるからじゃない?」
ジーク達の慌て方に比べてカインは冷静にしており、その様子からセスは1つの推測を立てたようでカインへと疑いの視線を向ける。
カインは苦笑いを浮かべると予想はしていたと白状するが突き刺さる視線は猜疑の視線であり、大きく肩を落とす。
フィーナはその態度がわざとらしく見えたようで知っている事を話せと言いたげに言う。
「心外だね。先生やレギアス様、ラース様の反応を見て居ればおじさんがレギアス様とかなり近くにいた人間だってわかったはずだよ。レギアス様は薬草や薬学の本の事を無償でジークを援助していたし、おばあちゃんがレギアス様の先生だとしたって屋敷の離れのカギなんか普通は渡さない」
「……確かに」
「まぁ、レギアス様達が隠そうとしていたみたいだから、俺は何も言わなかったけどね。ミレットはきっと知ってたんじゃないかな? 後継者とも言ってたけど、もしかしたら、ジークをエルア家に招き入れるために色々と調査している可能性だってあるしね」
カインはわざとらしく肩を落とすとレギアスがジークを特別な目で見ていた事を話す。
その時は疑問にも思ったが、レギアスが良い人だと思い込んでいたジークにはそれが当たり前だと思っていたようで改めて突きつけられた真実に難しい表情をしている。
彼の反応にカインは苦笑いを浮かべるとレギアスの後継者として紹介されミレットなら何か知っている可能性がある事を示唆する。
「めんどくさいわ。ジーク、レギアス様に聞きに行くわよ。転移の魔導機器を出しなさい」
「お、おう!?」
「落ち着け」
フィーナは考えるのが面倒になったようでワームに行こうと言い、ジークもかなり焦っているようで転移の魔導機器を取り出そうとするが、カインは手にしていた杖で躊躇する事無く、2人の頭を殴りつけた。
「カ、カインさん? 何をしているんですか!?」
「目的を忘れるな。今の俺達の仕事はこの村の問題を解決する事だ。移動場所の登録完了には時間がかかるんだ」
「……しかし、この状況でジークがいつも通り動けるんでしょうか?」
頭を殴られ身悶えしている2人の姿に驚きの声を上げるノエルはすぐ2人に治癒魔法を使う。
カインは彼女の事など気にする事無く、ジークに落ち着くように言うがセスの目から見て、それはとうてい無理な話である。
「……」
「頭の血は下がったかい?」
「無理やり下げたの間違いだろ」
ノエルの治癒魔法で痛みは引いたようであるが、フィーナはカインを睨み付ける。
カインは彼女の視線など気にする事無く、ジークに聞くと彼は眉間にしわを寄せて答えた。
「確かにレギアス様に面会を求めるのはあまり良い事とは思えませんね。今は面倒な事に巻き込まれているようですし、それに……」
「何ですか?」
「レギアス様の父親、簡単に言えばジークのじいちゃんはジークの父親に固執しているんだ。村長さん、ジークとジークの父親の顔は似ているんですか?」
セスもカインと同様に今はレギアスと会うべきだとは思っておらず、ため息を吐く。
彼女のため息の意味がわからないジークが説明を求めるとカインは改めてウィンにジークの容姿が父親譲りかと聞く。
「そうですね。若い頃のトリスくんとそっくりですね」
「似ていたら何なんだよ?」
「自分の思い通りになんでも進めたい人間みたいだからね。下手をすればジークをレギアス様の対抗馬に持ってこようとするかも知れない。それは遠慮したいだろ? それともワームを自分のものにしたいとか言う野心でも持ったか?」
ウィンはジークの顔を覗き込むと彼の父親であるトリスと面影が重なるようで小さく頷いた。
ジークは意味がわからないため、もったいぶるなと言いたげであり、彼のその様子にカインはため息を吐くとレギアスの父親であるギムレットの性格を思い出すように言う。
「……絶対に遠慮したい。フォルムみたいな辺境でもくそ忙しいのにあんな大きな都市、俺が口を出したら3日とかからずに潰れる」
「だろ? レギアス様もそこら辺を考えて名乗り出ないと思うし、フォルムに戻ったらミレットには聞いても良いとは思うけど、しばらくは知らないふりをしておけ。これから、ワームとルッケルの連絡係はノエルを連れて行くなよ。絶対にばれるから」
「了解」
フォルムでカインやセスがせわしなく働いているのを見ており、ワームのような都市だとどれだけ忙しいか予想のつかないジークは大きく首を横に振った。
その反応にカインは苦笑いを浮かべるとレギアスが話せる状況になるまで自分からは何も言わないようにと釘を刺し、ジークは大きく頷くが彼らの言葉にはノエルを小バカにするものが紛れ込んでいる。
「あ、あの、それってどういう事でしょうか?」
「そのままね」
「きっと、ノエルさんは正直だって言う事です。誉めているんです」
ノエルはバカにされている事をなんとなく察したようで聞き返すとフィーナは優しく彼女の肩を叩き、フィアナは全力で彼女をフォローする。
フィアナのフォローにノエルは納得したようだが何かが引っかかるようで小首を傾げているが、それ以上の追及はできないようである。
「だけど……話が飛んでもないとこに行ったわね。すごく疲れたわ」
「そ、そうだな」
「どうしますか? 私がジークくんのご両親と一緒に仕事をしていた時の話を続けますか?」
ジークとフィーナは初めて聞いた真実にかなり疲れたようで大きく肩を落とすと2人の姿にウィンは話を続けるかと聞く。
「えーと……今日はもう良いです。また、時間がある時にお願いします」
「ジークさん、良いんですか?」
「ちょっと、状況整理がしたい……風に当たってくる」
「わかりました」
ジークこの話を始めたカインへと視線を向けるが、彼の目は自分に判断を任せると言っており、話の中断を願い出る。
ノエルはジークの判断に心配そうな表情で聞き返すとジークは考えをまとめたいようで苦笑いを浮かべた後に外に出て行ってしまう。
その表情はいつもの彼とは違い、ノエルは追いかけて行かない方が良いと感じたようで優しげな笑みを浮かべて彼の背中を見送る。




