第573話
「お世話になります」
「いえ、こちらこそ、すいません。私がもう少し若ければ、古い友人達に声をかけて探索に行ったんですけど」
村人の診療を終えると日が沈むにはまだ時間があるがどれだけ上流に問題があるかわからないため、明日の朝からの探索に決まった。
そのため、一晩は村長であるウィンの屋敷に宿泊させてもらう事になる。
ノエルは深々と頭を下げるとウィンは自分達で原因を調べる事が出来なかった事を申し訳なく思っているようで苦笑いを浮かべた。
「……いや、下手したら二次被害だから止めてくれ」
「そ、そうです。村長さんはもう高齢なんですから無理はなさらないでください」
「まだまだ、魔法の知識では若い冒険者には負けないつもりなんですけどね」
その言葉にジークは眉間にしわを寄せるとフィアナもジークの意見に賛成のようで大きく頷く。
ウィンは反対された事に寂しそうな表情をするが彼を同行させるわけには行かない。
「知識だけあっても体力が付いてこないと意味ないじゃない。この村の冒険者見習いが行ける範囲だって怪しいでしょ」
「フィーナ、お前が言うな」
「そうだね。注意力とかその他いろいろはフィーナより、村長さんの教えを受けた人達の方が冒険者として大成しそうだね」
ウィンに向かって見習い冒険者以下だと言うフィーナだが、ジークとカインに言わせれば彼女も見習い冒険者以下だと言い切る。
「なんですって!!」
「言われて頭に来るなら、少しは考えて動け」
「……まったく、静かにしなさい。フォルムやジオスならまだしも、どうして他の場所で恥を晒したがるんですか?」
怒りのままジークの胸ぐらをつかもうとするフィーナ。
ジークは当然、彼女の行動を読んでおり、その手を交わすとセスはいつもの様子の2人を見て大きく肩を落とす。
「気にしなくて良いですよ。こう言う空気は懐かしいですから、冒険者とはこう言う物でしたからね」
「まぁ、この中で冒険者はフィアナと自称冒険者のフィーナだけなんですけどね」
ウィンは気にする事は無いと笑うが、カインはこの中で冒険者はほとんどいないと言う。
「そうなんですか? てっきり」
「俺は薬屋です」
ジークの両親を知っているウィンはジークも冒険者だと思い込んでいたようであり、少し驚いたようでな表情をする。
しかし、ジークは何より、冒険者扱いされることが嫌いなため、不機嫌そうな表情で言う。
「あれ? 村長さんおじさんとおばさんの事を知ってる感じ?」
「そうみたいです。昔、何度かお仕事を一緒になさったみたいです」
「……村長さん、ジークの両親の話を聞かせていただいても良いですか?」
2人の会話にカインはウィンとジークの両親に面識がある事を知り、首を捻った。
ノエルは先ほどウィンと話をしていたのだが、ジークの機嫌が悪くなるため話せないと首を横に振る。
カインは少し考えるとジークの前でウィンにジークの両親の話をして欲しいと言う。
その表情には何か企んでいるようにも見え、セスは眉間にしわを寄せるがジークの表情はさらに険しくなって行く。
「俺は村を見てくる」
「わ、わたしも行きます」
「ジーク、ノエル、座れ」
ジークは両親の話など聞く気はないと席を立とうとし、ノエルは慌てて彼を追いかけようとする。
カインはジークの考える事など最初から分かっていたようであり、普段の軽い感じではなくその声には有無を言わせない圧力がある。
ジークは不機嫌な表情のまま、席に座り直し、ノエルは間に挟まれた感じがするのか居心地が悪そうに席に座った。
「良いんですか?」
「人にはそれぞれの立場や考えがあります。ジークもいろいろな人と出会い、それを学んできましたから、そろそろ、おじさんとおばさんの事を知る努力をしても良いと思いまして」
ウィンは場に緊張感が走った事に苦笑いを浮かべて聞く。
その言葉にカインは真剣な表情をしてこれもジークのためだと言い切る。
「あの、ジークさんの両親って有名な方なんですか?」
「フィアナには教えた事があるでしょう。トリス=フィリス、ルミナ=フィリス」
「フィ、フィリス、ジ、ジークさんってフィリス夫妻のお子さんだったんですか!?」
フィアナは話の流れに付いていけないようであり、そばに座っていたフィーナに聞く。
その声はウィンに聞こえていたようであり、彼はため息を交じりでジークの両親の事を話すとフィアナは驚きの声を上げた。
「……有名だって聞いてたけど、本当に有名なのね」
「……フィーナ、お前は本当に冒険者としての自覚があるのか?」
「仕方ないでしょ。会った事もないんだから」
フィアナの反応に改めて、ジークの両親が有名人だと認識したようで眉間にしわを寄せる。
カインはフィーナの反応に冒険者としての自覚が足りないと思ったようで大きく肩を落とすがフィーナは悪びれる事もない。
「それでは村長さん、お願いしても良いでしょうか?」
「そうですね。ただ、私は2人がまだ冒険者になってすぐに何度か仕事をしただけですから、そこまで詳しくないですよ。まだ2人が夫婦になる前ですね。トリスくんがまだエルア姓を名乗っていた時ですから、20年くらい前になるでしょうか?」
「……エルア姓? あ、あの、エルア家って、レギアス様の家名ですよね?」
カインは話がおかしな方向に流れてはいけないと思ったようであり、ウィンに向かい話を続けて欲しいと頭を下げた。
ウィンは1つ咳をすると昔を思い出すようにジークの父親であるトリスの話を始め出す。
その言葉の中には信じられないものが混じっており、ノエルはどうして良いのかわからずに遠慮がちに手を上げた。
「そうですね。トリスくんはワームのレギアス様の実弟に当たります……もしかして、それも知らなかったんですか?」
「は、初耳よ。ジーク、あんた、レギアス様の甥っ子なの?」
「……悪い。話がぶっ飛びすぎててなんて言って良いかわからない」
ウィンはジークが知っているものだと思っていたようであり、ノエルの反応に眉間にしわを寄せる。
フィーナは驚きの声を上げて、ジークにつかみかかるが当事者であるジークですら知らない事実のため、ジークは両親の事より、いきなり突きつけられたレギアスとの関係にどう処理して良いのかわからずに顔を引きつらせた。